鳥貴族“全品370円均一”に値上げでも「原価率30%を守る」攻めの接客マニュアルとは

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2024年05月15日 09:21  日刊SPA!

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鳥貴族の店内
 外食各店が値上げを続ける中、焼き鳥チェーン大手「鳥貴族」も2024年5月から販売価格を全品均一360円(価格はすべて税込)から370円に10円値上げした。
 鳥貴族は2023年5月にも価格改定を実施し、全品価格を350円から360円に引き上げたばかりである。しかし、客足が遠のく可能性もあったのが、前年比で客数に大きな変化はなかった。これには外食業界のレジェンドですかいらーく創業者の横井竟氏も絶賛していた(テレビ東京「カンブリア宮殿」、3月28日放送)。

 客離れを起こさずに客単価を上げられたのは、絶対的な固定的支持客を持つ店の強みもあるだろう。やはり普段からの行いで、店の事情を理解してくれるお客に支えてもらっているのは大きい。そういった実績とそこから生まれる顧客との信用・信頼関係から考えると、今回の値上げで極端に客が離れることはあまりないように思える。

◆過去の業績低迷から学んだ組織改革

 そんな鳥貴族だが、過去に何度か値上げに踏み切ったこともある。その時はお客さんが敏感に反応し、業績が著しく低下したそうだ。そういった苦い経験を反省し、組織改革を実行した大倉忠司代表取締役社長は「ダイヤモンド・チェーンストア」(2022年7月15日)のインタビューでこう振り返っている。

 その内容は「各種コスト削減に取り組んでコストを抑えたことで、ムダのない筋肉質な体制、組織に移行」、コロナ禍にあっても「店は休業しても社員、店長の給与、賞与は100%保証」、さらに経営トップとして「前向きな考え方を発信し続け、従業員を勇気づけました」とある。

◆現場優先からマーケティング重視の経営に

 昔は、従業員の現場の感覚を優先した店舗の経営を行っていたという。しかし、売上の減少傾向が続いた時期に反省し、科学的根拠に基づく運営を目指し、コロナ前から本格的に全社を挙げたマーケティング活動に取り組み始めたそうだ。

 社内に、店舗を運営する「営業部」と並列のポジションとして、売上向上を支援する「営業本部室 営業支援課(のちにマーケティング部に名称変更)」を設置し、市場適合活動を強化し、売れる仕組みづくりに磨きをかけている。

◆来店促進する「アプリ」の仕掛け

 鳥貴族は新規顧客開拓と既存顧客の来店促進の目的のため、2023年にはアプリを開発し、1年で60万DL突破するなどの販促活動も強化している。これらは、新規客を増やし、その客を常連化・固定化するなど、顧客を囲い込みロイヤルユーザー化(店舗への忠誠度が高い顧客の組織化)してもらうための段階的な仕掛けが講じられている。

 アプリをインストールした顧客にリピーターになってもらう仕掛けも巧みで、キャラクターのトリッキーを育てるコンテンツや店舗でアプリを提示して食べた串の本数を記録し、貯めると特典がもらえるなどで来店動機を高めている。トリキポイントをためて回せるガチャでも「串」がゲットできるなど特典も充実し、顧客囲い込みには力を入れている。顧客との中長期的な関係性を構築するロイヤルティープログラムが効果的に設計されているようだ。

 通常、新規顧客を開拓するのは、既存の顧客の来店を促進するよりも5倍のコストがかかると言われる。来店された顧客を常連化・固定化させて客数を確保するのは、新規に客を呼び込むコストを考えたら少額の費用で済むものである。それだけに顧客のロイヤリティを高めることが収益力を強化する上で必須だということである。

◆全品280円均一という衝撃

 鳥貴族は、1985年創業し、大阪府東大阪市に1号店を出店。大阪市に本社を置き、大阪・東京・愛知県を中心に居酒屋「鳥貴族」をはじめ、「TORIKI BURGER」「やきとり大吉」を展開している。

 焼鳥をメインとする居酒屋系焼鳥屋「鳥貴族」が中核ブランドであり、1都2府16県に店舗を展開しており、客単価は約2300円、直近では利用者の約75%が20〜30代である。完全子会社であるやきとり大吉を含めると、1123店舗を有する日本最大の焼鳥グループである。

 トータルでは、1134店舗 =「鳥貴族」 626店舗 +「やきとり大吉」497店舗 +「TORIKIBURGER」2店舗 +「その他」9店舗 (2023年7月末現在)である。

 東大阪に1号店を出店し、今年で39年を迎える鳥貴族。余談だが、昔、筆者も鳥貴族1号店の近くで焼肉店を経営していた時、鳥貴族の280円均一を参考に、牛貴族380円均一の業態を開発しようかと笑い話をしていた記憶がある。それだけ鳥貴族の全品280円均一の発想には同じ外食業界の人間として衝撃を受けたものである。

◆コロナ以降も業績好調だが変化も

 鳥貴族の2023年7月期連結業績は、売上334億4900万円、営業利益14億1700万円であり、収益性に関しては営業利益率4.2%となっている。粗利益も234億4300万円あり、約70%確保している。それでも値上げが必要とは将来の外食環境に不安を持っているのだろうか。

 また自己資本比率は35.7%、ROE(株主が出資した資金に対して企業がどれだけの利益を上げているかを示す指標)は9.3%(23年7月期決算)と、資本効率は「業界平均(経済産業省:2022年企業活動基本調査・飲食サービス業5.1%)」を上回っている。

 コロナの影響で居酒屋業態が大打撃を受け、厳しい経営状態に追い込まれた2021年8月には、ハンバーガー業態(チキンバーガー)の新店舗「TORIKI BURGER」をオープン。また2023年1月にはサントリー傘下でやきとり大吉を運営しているダイキチシステム株式会社の全株式を取得し、子会社化した。

 そもそも外食産業にはリスク分散のために多業態展開を進める企業が多い。しかし、鳥貴族は「鳥貴族のDNA」(チキン、均一価格、国産)のもと、流行や景気に左右されない永遠の業態を目指そうと、単一業態での展開を進めていく方針を表明していた。

◆値上げしても支持される鳥貴族の魅力は

 そんななかで複数業態への方針転換を行ったことに伴い、株式会社鳥貴族、株式会社TORIKI BURGER、ダイキチシステム株式会社を傘下に置く鳥貴族ホールディングス(現:エターナルホスピタリティグループ)に商号変更し、持株会社化するなど機動的な体制に再構築している。

 2021年からグローバルチキンフードカンパニーを長期ビジョンとして活動してきたが、今回の社名変更を第二の創業と位置付け、国境を越えて世界に展開する「グローバル焼鳥ファミリー(Global YAKITORI Family)」を目指している。

 店の最大の魅力はメニュー全品を同一価格で提供する低価格路線で、これが人気となり集客力を高めている。この均一低価格は創業から変わっていない。ただし、価格は280円(税別)からスタートしたが、段階的に値上げを余儀なくされており、2024年5月からは370円となっている。

 料理に関しては、味や品質を考慮し、創業当初から産地直送の国産鶏肉を使用しており、焼き鳥の串打ちは各店舗で行っている。筆者の事務所の下にも鳥貴族があり、パートさんがもくもくと串打ちなど店の準備をされているのをよく見る。一方で、タレなどは味の均質化のために本社工場でまとめて生産してするなど、本社工場と店舗で調理作業の効率的・効果的な分業体制を構築している。

◆あれだけ安くても原価率が30%を守れるワケ

 鳥貴族のチェーン全体で原価は100億600万円で、原価率は29.9%と3割を切っている。あれだけ安く販売しているのに原価管理はきっちりされているのは流石である。

 均一価格はお客さんにとっては明朗会計で注文しやすく、鳥貴族のように単価が低価格なら、あまり財布の中身を気にすることなく、容易に追加注文を促しやすいメリットがある。しかし、牛肉や豚肉よりも仕入れ値が低いとはいえ、370円の均一価格(5月1日〜)では粗利ミックスを適正に管理しなければならない。

 鶏肉がメインの店だから鶏肉料理の原価率は高めに設定してあるだろうが、その鶏肉料理の粗利益率が低くても、注文を増やし、高回転させれば、粗利益額は大きくなるので、経費の支払い原資に余裕が出て、店にとってもお客さんに嬉しい。

◆居酒屋で注文してくれると嬉しいメニュー

 一般論として飲食店側にとっては、それぞれ原価が異なるメニュー構成の中、焼鳥や唐揚げなど高めの原価商品とキャベツ(お代わり自由)、枝豆、サラダなど低めの原価商品をうまくバランスよく、お客さんに注文してもらうことが利益確保のカギとなる。

 そのための仕掛けが必要で、店への利益貢献度が高い商品への誘導が求められる。適度に野菜を組み入れるなど、食事のバランスをとった注文を促し、顧客満足度を高めながら、店と顧客の双方が良好な関係維持を目指すべきである。70%の原価商品と20%の原価商品の販売バランスの適正化に向け、店は知恵を絞っている。

 鳥貴族は他の居酒屋のようにお客さんが注文をしないのに勝手に有料の突き出しを出すことはしない。その代わり、「料理が出るまでスピードメニューはいかがですか」と必ず、店員さんが推奨販売して注文を促し、客単価を上げる努力をしている。客席への気配りを徹底した攻めの接客マニュアルにもなっており、店側の姿勢で客単価が上がるといった典型的な店でもあるようだ。

◆長期ビジョンを実現する今後の展開は?

 やきとり大吉の完全子会社化で店舗数が一挙に増加したエターナルホスピタリティグループ(元・鳥貴族ホールディング)だが、長期ビジョンを実現するための今後の展開が注目される。やきとり大吉とは同じ焼鳥だから、食材仕入れのスケールメリットがあるのは当然で、それだけではなく色々なシナジー効果を期待したいものだ。

 店舗としての魅力を高めながら、効果的な出店戦略を計画し、国内では市場深耕、海外では新規開拓などの店舗展開力が求められる。鳥貴族は4割近いフランチャイズ店を活用し、本部の投資額と固定費を抑えながら、目標の2030年までに国内1000店舗達成を目指しながら、効果的な出店戦略を策定するだろう。

 この出店戦略は極めて重要で、飲食店は立地産業でもあり、出店場所の良し悪しが栄枯盛衰の分岐点とも言われている。しかし、この出店場所の選定は難しいもので、市場調査(静態人口・動態人口、需要と競争の実態など)を徹底的に行い、業態との適合性も考慮して決定しなければならない。ちなみに鳥貴族もコバンザメ戦略(誰もが知る有名な店舗や商業・観光施設などの近くに出店し、入りきれない客のおこぼれをもらうという戦略)で、ワタミの近くに出店していたことは有名な話だ。 

◆14人のオーナーが246店舗を経営

 鳥貴族は現在、約4割がフランチャイズだが、新規の加盟を受け付けておらず、既存の少数のオーナーのみで運営をしており、新たな加盟店のオーナーについては、鳥貴族で働いている社員や元社員だけに限定している。

 実際、公式サイトによると、鳥貴族のフランチャイズ展開は2019年の時点で14人のオーナーが246店舗を経営しているが、14人のオーナーのうち8人は元従業員だ。長年働いていた人たちが、オーナーの側に立って鳥貴族を支えているのだ。

 筆者もフランチャイズ本部のSV(スーパーバイザー、経営指導員)をしていた経験がある。フランチャイズは経営理念共同体として、本部と加盟店が協力しながら、お互いが成長発展するものである。

 本部は他人資源を活用しながら多店舗展開を実現し、加盟店は本部のブランドや経営ノウハウなどを活用し、素人でも早期に事業を軌道に乗せられるなど、双方にメリットがあるから成立するものである。

◆他とは一線を画したフランチャイズ運営

 思うようにいかなかったら、本部と加盟店の双方がいがみ合う結果になり、見苦しく、裁判が多いのも特徴である。フランチャイズは頑張れば頑張るだけ自らの収益が上がるインセンティブがあり、また制約がありながらも自らの自由裁量で仕事ができるため、やりがいはあるものである。

 しかし、加盟店のやりがいとやる気は本部次第で変わったりするし、本部と加盟店の力関係に変化が生じると、チェーンとしての統一性を乱したり、反旗を翻して大量離脱をしたりするケースもよく見られる。

 それだけフランチャイズ運営というのは難しいが、鳥貴族は独自のフランチャイズシステムを導入し、上手く鳥貴族出身者だけを加盟店に選び、ベクトルを合わせているから、他のフランチャイズ運営とは一線を画している。

◆志の高さと実現可能な目標が強み

 鳥貴族は、コロナ禍で大打撃を受けた居酒屋業態のなかでも、業績の回復が早く、値上げしてもお客さんが離れない店である。店に行っても、店員がお客に向かってくるような勢いを感じられ、やる気のある姿勢が伝わっている。

 企業の長期ビジョンと絵空事ではない実現可能な目標も全店舗が共有している。通常だと足並みを揃えるのには困難を極めるフランチャイズ加盟店も4割を占め、少数の志の高いエリアフランチャイジーに限定し、協力体制を強化している。

 これからも焼鳥と言えば鳥貴族といった連想がされるように、ブランド力を磨いて、さらなる成長を期待したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan
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