Next GIGAで何が変わる? 文科省が「学習用端末」の要件や補助スキームの変更などを行った理由【前編】

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2024年05月16日 12:51  ITmedia PC USER

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GIGAスクール構想で導入された端末がリプレースを迎える(出典:文部科学省)

 文部科学省は2019年から「GIGAスクール構想」を打ち出している。これは小学校や中学校(後に高等学校も追加)に通う児童/生徒に対して、学習用端末を1人1台用意することで、教育におけるICT(情報通信技術)の利活用を進めようという構想だ。当初、小学校/中学校課程(※1)では2023年度末(2024年3月)までの実現を目指していたが、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、その実現は大幅に前倒しされた。


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(※1)義務教育学校(小学校と中学校を統合した学校)、中等教育学校(中学校と高等学校を統合した学校)の前期課程、特別支援学校の小学部/中学部を含む


 そんなGIGAスクール構想だが、学習用端末は5年程度でリプレース(置き換え)を実施する前提となっている。つまり、構想初期に学習用端末を導入した自治体(学校)では、この2024年度から置き換えが始まり、2025〜2026年度に置き換えがピークを迎えることになる。


 このことを受けて、学習用端末のメーカーはもちろん、端末にOSを供給するプラットフォーマーの動きも盛んになっている。公開されている資料や、5月8日から10日にかけて開催された「EDIX東京 2024」などの取材を通して、次のGIGAスクール構想「Next GIGA」の状況を2回に分けて解説する。


 この記事(前編)ではNext GIGAに向けた端末要件の変更と、それを踏まえた文部科学省による補助金のスキーム、そしてこのスキームがもたらしうる影響について見ていこう。


●Next GIGA向け学習用端末は必要スペックを引き上げ


 学習用端末のリプレースが本格化することを受けて、文部科学省は1月29日に「学習者用コンピュータ最低スペック基準」を公表した。この基準は、従来のGIGAスクール構想における「標準仕様書」に代わるものとなる。最低スペック基準という名称の通り、学習用端末の“標準”ではなく、“少なくとも満たすべき仕様”を示すものだ。


 学習用端末のOSは「Windows」「ChromeOS」「iPadOS」のいずれであることに変わりないのだが、基準を初めて策定してから5年経過したこともってハードウェア面での要件に一部変更/追加が行われている。主な要件は以下の通りだ(太字になっている部分が変更点)。


・全OS共通


・モバイル通信(LTE/5G):「必要に応じて省略可」から「必要に応じて搭載/追加可」に


・メモリとストレージ:用途に応じた容量選定を行う旨の注釈あり


・ストレージはアクセス速度への配慮も求めている


MDM(モバイルデバイス管理):対応必須(予備機を含む)


Windows PC


・OS:Windows 11 ProまたはWindows 11 Education相当


・CPU:Intel Celeron N4500相当以上


・ストレージ:64GB以上


・メモリ:8GB以上


・アプリを追加せずに使う(全てをWebブラウザで賄う)場合は4GBでも可


ディスプレイ:10〜14型(タッチ操作対応)


無線LAN:Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)以上


周辺機器:ハードウェアキーボード、タッチペン


カメラ:イン(画面)側/アウト(背面)側の両方を装備


音声接続端子:マイク/ヘッドフォン端子


外部接続端子:USB 3.2 Gen 1(USB 3.0)端子以上の端子×1


・少なくとも1つはUSB PD(Power Delivery)対応の端子とすること


重量:1.5kg程度を超えないこと(キーボード込みで)


バッテリー駆動時間:8時間以上


Chromebook(ChromeOS)


・CPU:Intel Celeron N4500相当以上


・ストレージ:32GB以上


・メモリ:4GB以上


・ディスプレイ:10〜14型(タッチ操作対応)


・無線LAN:Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)以上


・周辺機器:ハードウェアキーボード、タッチペン


・カメラ:イン(画面)側/アウト(背面)側の両方を装備


・音声接続端子:マイク/ヘッドフォン端子


・外部接続端子:USB 3.2 Gen 1端子以上の端子×1


・少なくとも1つはUSB PD対応の端子とすること


重量:1.5kg程度を超えないこと(キーボード込みで)


バッテリー駆動時間:8時間以上


iPad(iPadOS)


・ストレージ:64GB以上


・ディスプレイ:10〜14型(タッチ操作対応)


・無線LAN:Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)以上


・周辺機器:ハードウェアキーボード、タッチペン


・音声接続端子:マイク/ヘッドフォン端子


・独立端子がない場合は、分配(変換)アダプターを用意すること


外部接続端子:Lightning端子またはUSB 2.0以上のUSB Type-C端子


・USB Type-C端子はUSB PD対応の端子とすること


重量:1.5kg程度を超えないこと(キーボード込みで)


バッテリー駆動時間:8時間以上


 時代の流れもあって、iPad以外はCPUの要件は引き上げられている。また、Windows PCではメモリ容量の要件も引き上げられているが、使い方によっては4GBでも構わないという“余地”を残している。全プラットフォームでタッチペンが必須化されたこともポイントだが、これはデジタル教科書での利活用を想定している。


 スペックの底上げと聞くと、端末購入費用の高騰が気になるところである。文部科学省は、この問題に対する手当ても行っている。


●端末購入の補助金は5万5000円に


 スペックの底上げはもちろんだが、昨今の円安基調を考えると、現行のGIGAスクール構想から端末の調達価格の上昇は避けられない。また、故障時の予備機の確保に難儀したという話も複数あった。


 時系列が前後するが、文部科学省は2023年11月10日、端末のリプレースを見据えた事務連絡を行った。この連絡には、2023年度補正予算の成立を前提を前提として、主に以下の方針が盛り込まれている。


・端末購入に伴う補助金(基準額)を1台当たり5万5000円に引き上げ


・公立(都道府県立/市町村立/特別区立)学校の補助率は「3分の2」とする


必要端末数の15%以内の範囲内で、予備端末の購入経費の手当ても実施


公立学校については都道府県が設置する「基金」を通して補助金を支給


・政府(文部科学省)は、都道府県に基金の立ち上げに必要な資金を支給


端末の置き換えは5年間で進める


 本補正予算は成立し、ひとまず2025年度分までの端末更新予算が確保された。


 補助金の引き上げは、円安基調による端末価格の高騰と、求められる端末スペックの引き上げを見越した措置だ。予備機の購入も補助金の対象にしたのは、現行のGIGAスクール構想で浮き彫りとなった課題を踏まえている。


●補助金の支給が「都道府県経由」になることで何が起こりうる?


 本方針について、多くの報道では「補助金アップ」「予備機購入も補助金対象」という事項にフォーカスが当たりがちだ。しかし、「公立学校は都道府県の基金を通して補助金が支給される」という仕組みの変更も、とても重要なポイントだ。


 Next GIGAにおいて、文部科学省は都道府県に対して補助金支給に向けた基金の創設だけでなく、「共同調達会議」の設置も求めている。名前から察することができるかもしれないが、Next GIGAでは学習用端末を都道府県単位で共同調達することを前提としているのだ。


 従来のGIGAスクール構想では、基本的に学校設置者単位で端末の調達を行うことになっていた。しかし、スケールメリットを追求する観点から、都道府県教育委員会が主導する形で複数(あるいは全て)の自治体で端末を共同調達した都道府県もある。


 一部に共同調達が“裏目”に出てしまったケースもあるものの、うまく機能した都道府県が多かったことから、共同調達を基本に据えたものと思われる。


 都道府県が設置する共同調達会議には、“全ての”市町村/特別区(※2)が参加しなくてはならない。市町村/特別区は一定の要件を満たせば共同調達からは離脱(オプトアウト)できるが、会議からの離脱はできない(※3)。


(※2)複数の市町村が「一部事務組合」を通して学校を設置している場合、当該組合も参加する必要がある(※3)共同調達会議は、都道府県におけるICT機器/サービスを使った教育に関する情報交換/共有の場としても機能するため。なお、共同調達から離脱した場合も補助金は都道府県を通して支給される


 各都道府県における共同調達の要件は、この会議で決定される。市町村/特別区によって利用する学習用端末(やWebサービス)がバラバラである場合、“バラバラさ”をあえて保つように要件を定める可能性もあれば、これを機に“統一”してしまう可能性もある。


 少し違う視点から見ると、共同調達会議の行方によっては学習用端末(OS)のシェアが“大きく”変動してしまう可能性もある。例えば「Windows」「ChromeOS」「iPadOS」がそれぞれ3分の1ずつすみ分けている都道府県があったとして、会議を通してChromebook(ChromeOS)を名指しするような要件が決定してしまえば、(共同調達からの離脱がない限り)その都道府県の公立学校におけるWindowsやiPadOSのシェアは一気に“ゼロ”となってしまう。都道府県によっては、Windowsを名指ししたり、iPadOSを名指しする要件が決められるかもしれない。


 要するに、端末メーカーやプラットフォーマーにとって、Next GIGAはシェアを一気に伸ばすチャンスであると同時に、シェアを一気に失うかもしれない瀬戸際だったりする。それだけに、メーカーやプラットフォーマーは、EDIXを始めとする商談イベントや自社主催のセミナーなどを通して、教育関係者に“猛烈な”アピール合戦を繰り広げている。後編では、その辺りの様子を見ていきたい。


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