バッファローのWi-Fi 7ルーター「WXR18000BE10P」を試す 無線通信でも実測約9Gbps!

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2024年05月17日 13:01  ITmedia PC USER

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WXR18000BE10Pは強い?

 バッファローからWi-Fi 7(IEEE 802.11be)に対応した無線LANルーター「WXR18000BE10P」が発売された。実売価格(税込み)は6万円弱〜6万円台半ばだ。


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 Wi-Fi 7は2023年12月に改正/施行された電波法施行規則によって、日本国内での利用が可能になったばかり。技術向上と法規制見直しによって到達した最高速度46Gbps(理論値)は、どうやって実現したのか。そして本機は果たしてどれほどのスループット(実効速度)を叩き出すのか――実機を使って検証してみよう。


●「Wi-Fi 6E」「Wi-Fi 7」で続いた電波法改正


 無線LANの高速化と電波関連の法令(日本でいえば「電波法」と同法に関連する省令/規則)は、切っても切り離せない関係にある。


 元々、無線LANでは2.4GHz帯のみが使用されていたが、日本では2001年頃から5GHz帯の一部が利用可能となり、「デュアルバンド時代」が幕を開けた。そして2022年9月、6GHz帯の一部も利用可能になり、2.4GHz/5GHz対応のWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)に6GHz対応を加えたトリプルバンドの「Wi-Fi 6E」が登場している。


 さらに2023年12月、この6GHz帯において規制緩和が行われ、Wi-Fi 7で盛り込まれた320MHz幅での通信が可能となった。


 つまり、Wi-Fi 7が日本国内で合法的に利用できるようになってから、まだ5カ月ほどしかたってない。


 にも関わらず、バッファローは2024年1月、Wi-Fi 7対応かつ「Wi-Fi CERTIFIED 7」の認証を取得した無線LANルーターを発売したわけである。


 法令改正から時間を置かずに発売されたWi-Fi 7ルーターの実力はいかほどのものだろうか。


●Wi-Fi 6E→Wi-Fi 7で一気に“4.8倍”のスピードアップ!


 先に、理論値ベースでWi-Fi 7の通信速度についてチェックしておこう(ここからしばらくは、通信速度は理論値を記載する)。


 総務省の資料によると、Wi-Fi7の最高速度は46Gbpsとなっている。これはWi-Fi 6/6E(9.6Gbps)と比べて約4.8倍だ。Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac:6.9Gbps)からWi-Fi 6/6Eが約1.4倍の伸びにとどまっていたことを考えると、かなりの“飛躍”といえるのではないだろうか。


 Wi-Fi 6Eでは、規格上の1ストリーム当たりの通信速度は2.4GHz帯で286Mbps(40MHz幅)、5GHz/6GHz帯で1200Mbps(160MHz幅)となっている。基本的にストリーム数はアンテナ数と同一なので、「帯域幅×アンテナ数」でデバイスの最高通信速度を求めることが可能だ。以前レビューしたバッファロー製のWi-Fi 6Eルーター「WXR-11000XE12」の場合、各帯域用にアンテナを4本ずつ搭載しているので、2.4GHz帯は最大1147Mbps、5GHz/6GHz帯はそれぞれ最大4803Mbpsで通信できるようになっている。


 Wi-Fi 7の驚異的な最高速度の向上は、どのようにして実現したのだろうか。そこには3つの大きな改善策がある。


改善その1:変調方式の高度化


 1つ目は変調方式の高度化(改善)だ。


 Wi-Fiでは「シンボル」という単位で通信を行うが、変調方式が「1024QAM」から「4096QAM」に変更されたことで、シンボル当たりのデータ量が「10bit」から「12bit」と1.2倍に増えた。


 少し言い方を変えると、同じ帯域幅での通信速度が1.2倍になったということになる。


改善その2:帯域幅の拡大


 2つ目は帯域幅の拡大だ。


 先述の通り、Wi-Fi 7では6GHz帯に限り帯域幅が160MHzから320MHzに広がっている。帯域幅は「道路の幅」に例えられることが多いが、道路の幅が2倍になるということは、同時に走れる自動車(=データ)の量も2倍になるということを意味する。


 無線LANで利用できる6GHz帯は、現状で500MHz分(5925〜6425MHz)が確保されている。320MHzという幅は、割り当て枠の約3分の2という“超ワイド”仕様。技術基準の見直しなしでは、なし得なかった。


改善その3:MLO(Multi-Link Operation)の導入


 Wi-Fi 6Eの最高速度「9.6Gbps」は、5GHz帯または6GHz帯で160MHz幅/8ストリームの通信が行える場合に達成される。この値をもとにWi-Fi 7の6GHz帯における最高速度を計算すると……。


9.6×1.2(変調による速度改善)×2(帯域幅の拡大分)=23Gbps


 となる。これだと、総務省が資料で示した「最大46Gbps」の半分しか速度が出ない計算となる。ここで登場するのが、3つ目の改善ポイントで、増速に一番貢献する「MLO(Multi Link Operation」だ。


 今までのWi-Fi規格では、1つのクライアントはサポートする周波数帯のいずれかを使用して通信を行っていた。Wi-Fi 6Eが登場した際に、Wi-Fi 6から最大速度が向上しなかったのは、これが理由だ。


 6GHz帯は新しく利用できるようになった周波数帯であるため、比較的空いているという大きなメリットがある。道路に例えるなら「今までと最高速度の同じ高速道路をもう1本作った」状態といえる。Wi-Fi 6Eの場合、どちらの道路を走っても最高速度は変わらないが、新しくできた道路(6GHz帯)は走行できる車両(デバイス)が限られるため、古い道路(5GHz帯)よりもスピードを出しやすい状態にあるのだ。


 そしてMLOは、複数の周波数帯を束ねて(同時に)通信する技術だ。これにより、Wi-Fi 7では各周波数帯の最高速度を“足し上げた”値が最高通信速度となる。仕組み的にはモバイル通信における「キャリアアグリゲーション(CA)」に近い。


 ちなみに、バッファローはWi-Fi 7の最高速度を「36Gbps」と表記しており、総務省(や米IEEE)が言っている「46Gbps」と比べると10Gbpsほど差がある。これは、最高速度の計算に使う周波数帯/ストリーム数に違いがあるからだ。


 総務省では、規格の最高理論値(6GHz帯/320MHz幅/8ストリーム+6GHz帯/160MHz幅/8ストリーム+5GHz帯/160MHz幅/8ストリーム)で計算しているのに対し、バッファローではWi-Fi Allianceの技術概要資料における計算方法に合わせて、「6GHz帯/320MHz/8ストリーム+5GHz帯/160MHz/8ストリーム+2.4GHz帯/40MHz幅/4ストリーム」で計算している。


その他改善ポイント


 上記の対策は、もちろん実効通信速度(スループット)の向上にも役立つが、どちらかというと「理論上の通信速度を向上する策」という要素が強い。


 Wi-Fi 7では、実際の通信環境におけるスループットを向上するための技術が幾つか盛り込まれている。言い換えれば、通信の安定化や遅延(レイテンシー)を抑える技術だ。


【MRU(Multiple Resorce Unit)】


 「MRU(Multiple Resource Unit/Multi RU)」は、1台のクライアント端末に対して複数の「リソースユニット(RU)」を割り当てられるようにする技術だ。


 IEEE 802.11シリーズの無線LANでは各周波数帯を20MHz単位で区切り、それを単体、あるいは複数束ねて「チャンネル」を形成していく。規格上、Wi-Fi 6/6Eでは最大160MHz(20MHz×8)、Wi-Fi 7では最大320MHz(20MHz×16)のチャンネルを用意できるようになっている。


 Wi-Fi 6/6Eでは、20MHz幅の電波をさらに細かい「サブキャリア」に分割し、連続するサブキャリアをある程度束ねてRUを形成できるようになった。この仕組みによって同一チャンネルで通信する複数のクライアント端末が、順番待ちをせず(同時に)通信できるようになった……のだが、1台のクライアント端末に割り当てられるRUは1つのみとなるので、割り当ての状況によっては未使用のRUが生じることがある。


 Wi-Fi 7で導入されたMRUでは、一定の条件のもと1台のクライアント端末に2つのRUを付与できるようになる。これにより、余ったRUを生かして、スループットを向上しやすくなった。


【パンクチャリング(穴開け)】


 もう1つのスループット改善につながる技術が「パンクチャリング(帯域の穴開け)」だ。


 先述の通り、IEEE 802.11シリーズの無線LANでは、利用できる周波数帯を20MHz単位で区切る。40MHz以上のチャンネルを形成する場合、一続きの帯域を束ねて作る……のだが、問題は束ねようとした帯域の一部に電波干渉が生じているケースだ。


 Wi-Fi 6/6Eの場合、チャンネルの途中で利用できない帯域が出てきた場合は干渉がある周波数以降を“全て”使えないものとして処理を行う。例えば160MHz幅のチャンネルがある場合に、120〜140MHzの部分で干渉が生じると、120〜160MHzの部分が使えなくなってしまう。140〜160MHzの部分に干渉がなかったとしても、だ。極端なケースでは「160MHz幅のチャンネルなのに20MHz分しか使えない」ということもあり得る。


 それに対してWi-Fi 7のパンクチャリングでは、チャンネル内で干渉している部分を“穴を開ける”ように割けて通信できるようになる。先ほどの例なら、干渉を受けている20MHz分を飛ばして、干渉のない140MHz分を使って通信できるということだ。こうすることで、干渉電波がある環境でも通信効率を高められる。


 320MHz幅のようなWi-Fi 7ならではの広帯域幅通信を「絵に描いた餅」にしないためにも不可欠な技術といえる。


 前置きが長くなったが、上記の技術に対応するバッファローのWXR18000BE10Pについて、細かくチェックしていこう。


●WXR18000BE10Pの実力は? テスト環境では無線でも約9Gbps!


 WXR18000BE10Pは、同社の個人向けWi-Fi 6/6E対応ルーターのフラグシップモデルのデザインを踏襲している。本体の正面は中央を縦に山折りしたようなデザインとなっており、その上部に、3軸回転機構を備えた4本の外部アンテナが突き出ている。


 事実上の先代モデルとなるWXR-11000XE12との違いは、本体下部のカラーリングと、大きく「7」とデザインされたシールくらいだろうか。


 1つのアンテナには、実は2本のアンテナが内蔵されている。アンテナの根元側には6GH帯用、先端側には2.4GHz/5GHz用(デュアルバンド)アンテナが埋め込まれているという。2.4GHz帯は2ストリーム、5GHz/6GHz帯は各4ストリーム(合計10ストリーム)での通信をサポートする。


 パッと見ではWXR-11000XE12と変わらないものの、実は2.4GHz帯のストリーム(アンテナ)数が「4」から「2」に半減している。しかし、型番から読み取れる通り、各周波数帯の最大通信速度(理論値)は合計約1万1000Mbpsから約1万8000Mbpsに向上している。


 有線ポートは、インターネット(WAN)ポートとLANポート1が10GBASE-T(10Gbps)対応で、LANポート2〜4が1000BASE-T(1Gbps)対応となっている。10GBASE-Tのポートは10BASE-T(10Mbps)の通信に対応しないが、現在出回っている有線LAN機器は、少なくとも100BASE-TX(100Mbps)以上の規格に対応していると思われるので、大した問題にはならないだろう。


 現在、理論速度が1Gbpsを超えるインターネット回線が増加傾向にある。にも関わらず、有線LANの10Gbps化はそれほど進んでいない。ネットワークアダプター(NIC)はもちろん、スイッチ/ルーター/ハブの価格がこなれていないからだ。LANポート付きのメディアコンセントが敷設されている住居でも、内部のケーブルが「CAT5A」で10GBASE-Tに対応できない、なんていうことも少なからずある。


 そういった現状を鑑みると、本機の10GBASE-T対応ポートが「WANとLANで1つずつ」という仕様は妥当だろう。個人的には、他のLANポートは2.5GBASE-T(2.5Gbps)対応であってほしかったところだが……。もしかすると「WAN以外は全て無線接続で、LANポートは全く使わない」という家庭の方が、今では一般的なのかもしれない。


 さて、Wi-Fi 7の高速性を確かめるべく実機で性能測定をしたい……のだが、今のところWi-Fi 7対応のクライアント機器は、「M.2スロットモジュール」「PCI Express拡張カード」といった環境を選ぶものがほとんどである。また、クライアント側のアンテナ数によって通信速度が大きく左右されてしまい、少ないクライアント数での測定ではポテンシャルを十分に発揮できない懸念がある。


 そこで今回はWXR-18000BE10Pを2台用意して、それぞれ10GBASE-T対応の有線LANポートを持つPCと“直結”してWXR-18000BE10P同士の通史速度を計測することにした。やや特殊な環境だが、バッファローも同様の方法で計測しているので、それだけWi-Fi 7対応ルーターの登場がかなり先行したということなのかもしれない。


 具体的には、WXR-18000BE10Pにおいて無線バックホールを使ってメッシュネットワークを構築し、親機役とエージェント役のWXR-18000BE10PをPCに接続して「iPerf3」を使って速度を計測した。親機は自宅端の部屋に設置し、エージェントは自宅内を移動しつつ、「ドア開」「ドア閉」の状態で5回ずつ計測してベストスコアを求めている。


 結果は下図を見てほしいが、同一室内であれば8.95Gbpsと、9Gbpsに迫る速度を記録した。最も悪い(遅い)箇所でも2Gbps超で、どの部屋でもおおむね4〜6Gbpsを記録した。少なくとも1000BASE-Tや2.5GBASE-Tでネットワークを構築するよりも高速といえる。


 2.4GHz帯に比べて、5GHz/6GHz帯は高周波であるがゆえに直進性が強い。障害物に電波が吸収されやすいために、本来はドアや壁といった障害物の多い環境などでは実効速度が低下しやすい。


 だが、このことは見方を変えると、電波が外部から到達しにくいともいえる。2.4GHz帯に比べると、5GHz帯や6GHz帯は利用者が少ないことなどから、外部からの干渉を受けにくく、結果として十分な速度が出ているようだ。


●フルスペックのWi-Fi 7対応PC/スマホにも備えられるハイスペックさ


 マーケティング戦略として、無線LANルーターの世界ではグレードを簡易的に示すために「AC6000」「AX11000」といった指標が使われることがある。アルファベット部分が対応規格を示し、数値は各周波数帯の最高速度(Mbps換算した理論値)の概数の合算だ。


 バッファローに当てはめると、WXR-11000XE12なら「4803Mbps(6GHz帯)+4803Mbps(5GHz帯)+1147Mbps(2.4GHz帯)≒1万1000Mbps」であるため「AXE11000」と表記することになるが、ルーター〜クライアント間で見ると、周波数帯域別で見た場合の最高速度は5GHz帯または6GHz帯を利用した際の4803Mbps(約4.8Gbps)が最高速度だ。


 今回レビューしたWXR18000BE10Pの場合、同様に表す都「BE18000」という指標となるのだが、MLOが有効なら理論上の最高速度は1万7981Mbps(約18Gbps)に達する。Microsoft Excelの関数で例えるなら、今まで「max()」を使っていたところが「sum()」になるわけだから、その効果は“甚大”だ。


 小型化が求められるクライアントの場合、「複数アンテナの同時使用」という高負荷かつ難易度の高い実装が求められるため、Wi-Fi 7のポテンシャルを存分に発揮することはかなりハードルが高い。それでも、時の流れで各社からMLOに対応したクライアント機器が出てくることは間違いない。


 MLOを使うには、クライアント機器とアクセスポイントの両方が対応していなければならない。アクセスポイントが対応していなければ、クライアント機器の代金に上乗せされているであろう、高度な技術を全く活用できなくなってしまう。


 今後出てくる多様なクライアントのポテンシャルを十分に発揮するためにも、Wi-Fi 7対応ルーターにはWXR-18000BE10Pのようなハイエンド機を選ぶべきだろう。


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