ドーピング検査をきっかけに薬学の道へ。異色の経歴を持つ元ガールズケイリン選手の挑戦

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2024年05月19日 15:40  日刊SPA!

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2019年12月、松阪競輪場で行われた橋本さんの引退レース。4番車、青のユニホームが橋本さん。このレースについて、橋本さんは「先頭で風を切った感覚は今も覚えています。このレースのお陰で、私の人生は次に繋がりました」と話した。
 競輪界から薬学の世界へ。選手を引退した後に、まったく畑違いのステージに転向した一人の女性がいる。それが橋本蒔子さん(25)だ。現在は、国際医療福祉大学薬学部の学生として勉強と研究の日々を送っている。
 高校生時代も学業メイン、スポーツ未経験で競輪の世界に飛び込むなど、異色のルーツを持つ彼女に、選手を目指したきっかけから、薬学の道へ進むことになった経緯、さらには今後の目標や夢についてお話を聞いてみた。

◆冗談交じりの一言を真に受けて

 高校生時代は勉強漬けだった橋本さん。2年生の時には宇都宮大学で行われていた高校生対象の化学の研究プログラムに参加するなど、スポーツとは一切無縁の毎日を送っていた。そんな彼女が競輪選手になろうと思ったのは、中学生時代の先生の些細な一言であった。

「高校2年生まで勉強と研究の日々だったのですが、『本当にこのままでいいのか』と、卒業後の進路に関して悩んでいたんです。そこで、中学時代の先生に相談しようと思い、当時、ノリと勢いで買ったクロスバイクに乗って会いに行ったら、『自転車が好きなら競輪選手っていう道もあるんじゃない?』と言われまして」

 競輪選手と言えば、親族に選手がいたり、両親が競輪好きだったりと、競輪が身近な存在の人や、何かスポーツをやっていた人が目指すことが多いが……。

「後々で聞いたのですが、実はその先生、競輪に関しては存在を知っている程度で、ほぼ冗談で言ったらしくて……。だから、ホントに競輪選手になるなんて思ってもいなかったし、むしろ申し訳なかったと言われました(笑)。でも、その日のうちに競輪についてネットで調べてみたら、女性でも選手になれる、選手になるには競輪学校に入る必要があるなど、いろいろと知っていくうちに興味を持ち始めました」

◆好学な彼女らしいやり方で一発合格!

 それまでの人生において一切関わりがなかった競輪。普段から自転車には乗っていたものの、あくまで移動手段の一つでしかなかったが、もともと自転車に対して惹かれる部分があったという。

「進路に関して悩んでいた時、クロスバイクに乗っていてフト思ったんです。『あっ、これに乗っていれば前に進めるのか』って。当たり前の話ですけど(笑)。前にしか進まないってところに惹かれて、これに乗っていれば気持ち的にも前向きになれる気がしたんです。しかも、ガールズケイリン選手の募集要項を見ていたら、他のスポーツから転向してくる人も多いって書いてあったし、競輪を教えてくれる学校があって、そこに入って一から学べるなら、スポーツ経験が乏しい私でも何とかなるのかなと思っちゃって。まあ、現実はそうじゃなかったですけど(笑)」

 競輪学校を専門学校的な存在と捉え入学を目指したわけだが、入学試験に向けた練習方法は実に勉強好きな彼女らしいやり方だった。

「競輪学校に入るために通い始めたスポーツジムでは、スタッフの方に試験内容を伝えて、これをクリアするにはどんなメニューをこなせば良いか聞いていました。なので、私だけやることが書いてあるノートや本を持ち込んで、やった回数をメモしていたので、隣のお客さんに『なんだこの子?』みたいな目で見られることも多かったです(笑)」

◆選手時代の体験が彼女を薬学へと導く

 そして2018年に晴れて選手としてデビューするも、体調不良による欠場が続き、成績も奮わず引退。その後、選手時代に体験したある出来事がきっかけで、薬剤師を目指すことになる。

「引退直前のレースの時に、ドーピング検査を受けたんです。ドーピング検査って選手からすると少し面倒な制度じゃないですか。でも、ドーピングってやっぱり身体に悪いし、結果的には選手を守るための検査なんですが、『なぜ飲んだらダメなのか?』、『どんな副作用があるのか?』といった疑問に対して、ちゃんと説明してくれる人がいなかったんです。じゃあ、私がそれをやろうと思い薬学部に進みました」

 薬に関する知識が豊富でアドバイスできる人は、すべてのスポーツにとって必要だが、特に競輪はその必要性が高いと感じたそうだ。

「チームで戦うスポーツには専属のスポーツドクターがいたりしますが、競輪は個人事業主だから本人任せで、『自分で調べてください』となってしまいます。だから、個人でも相談できる環境が必要だと思いますし、競輪選手のドーピングに限らず、一般の人でも薬に関する正しい知識や知りたい事があるんじゃないかと思ったので、最近X(旧ツイッター)を始めて様々な情報を発信しています」

◆今までにないモノを生み出したい

 薬剤師を目指して大学に進学した橋本さん。だが、大学生活を通して様々なものに出会ったことで、やりたいこと、目指したいことが最近になって少々変化してきたという。

「薬学部に入って1年生の頃は、卒業したらすぐに就職して、薬を取り巻く新しいシステムを作りたいと思っていたんです。でも、2年間いろいろとやっているうちに研究に興味を持ち、今はマウスを使った体内時計に関する研究をしています」

 今後は薬剤師の免許を取りつつも大学院に行って研究を続け、研究テーマに関しては柔軟性を持って選んでいくそうだ。

「先日、大学院生の方からアドバイスをもらったのですが、『まだ薬学部が4年間も残っているから研究に関して今のテーマに固執せず、いろんな分野に目を向けた方がいい。今の段階で絞っちゃうのはもったいない』と言われまして。だから、もしかしたら数年後にまた全く違うテーマの研究をしているかもしれませんが、どういう道を進もうが、最終的には新しいモノを生み出して、この世に残したいですね」

◆努力する素晴らしさを教えてくれた競輪

 まったく異なるステージに転向し、世の中のためになる新しいモノを生み出したいという目標に向け、日々、勉強と研究を続けている橋本さん。そんな彼女の原動力になっているのが、選手時代に味わった数々の経験だった。

「競輪って相手がいる競技なので、それまで私が目標にすることが多かった『試験に合格する』とか『テストで何点取る』とは全然違う世界だったんです。練習が終わって、息を切らして倒れている年配の選手を見ていたら、『何歳になっても目標があって、それに向かって努力している姿は活き活きとしてて素敵だな。私も何歳になっても目標に向かって頑張るぞ!』って気持ちにさせてくれたのが競輪で、この想いは引退した今でもしっかりと残っています」

 競輪の世界に足を踏み入れたことで、目標に向かって努力することの大切さと素晴らしさを知ったと、改めて橋本さんは強調した。

「選手時代、周りにいる全員がお手本でした。選手それぞれで、競輪に対する思いは違うだろうし、結果の出し方も違うんでしょうけど、夢に向かって頑張れる世界を経験したことが今の私にとって、ものすごくプラスになっているんですよね。普通に高校から大学へ進学していたら、決して今の気持ちにはならなかったと思います」

◆「前進あるのみ」の自転車人生

「私を育ててくれた競輪界には本当に感謝しています」と語った橋本さん。選手人生で得たモノを次のステージでもしっかりと活かし、常に前向きに進み続けるその姿は、まさに「踏めば必ず前に進む自転車」と同じではないだろうか。今後、彼女が研究していく分野で、世界中が驚く大発見をしたら……それは「競輪」のおかげで生み出されたと言っても過言ではない。

取材・文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。

このニュースに関するつぶやき

  • 薬学部って6年間で学費だけで1200万円はかかる。その他諸々で2000万円は下らないだろ。金持ちの道楽だよwww
    • イイネ!9
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