「5Gでライブ中継」が現実に? スマホみたいな5Gトランスミッターで実現する映像の未来

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2024年05月23日 08:31  ITmedia NEWS

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 2024年3月に発売された5Gトランスミッタ、ソニー「PDT-FP1」をご存じだろうか。デジタル一眼「α」のアクセサリーとして販売をスタートし、カメラ量販店でも購入できることから、コンシューマー機のような扱いになっているが、実際にはプロ用機である。


【写真で見る】Xperiaと5Gトランスミッターを並べてみた。スマホにしか見えない


 見た目はスマートフォンのようで、6.1インチOLEDディスプレイを備えたAndroid端末でもあるのだが、USB-C端子経由で特定のソニー製カメラと有線接続できるほか、HDMI A入力もある。内部に256GBのストレージ、1TBのSDカードが内蔵でき、カメラ映像を収録できる。またnanoSIMとeSIM2系統の5G回線をそなえ、スループットが落ちてきたら自動的にもう一方に切替える機能を持つ。カメラスルーもしくはストレージ内の動画をクラウドにアップロードできるという、専用端末だ。


 背面にヒートシンクやファンなど、PC並みのエアフローを備えており、マウント用のネジ穴もある。スマートフォンの技術を使いながら、プロのニーズを満たす特別設計だ。


 5Gネットワークもかなり普及してきており、多くの人は不満なく使えているとは思うが、ではこの一般5G回線を使って商業メディアでライブストリームを送りましょうとなると、それ本当に大丈夫か?という話になる。その時々のトラフィックの状態によって、画質が低下したり映像が途切れたりするのでは、とても商業コンテンツには利用できないからである。


●キーになるのは「5Gスライシング」


 4月頭にSONY Europe主催で5Gソリューションに関するウェビナーが開催された。ここではソニーとドイツテレコムの長年のパートナーシップによる、5G中継の取り組みが紹介され、上記のような課題の解決方法が示された。


 ポイントは、5G回線のスライシング技術である。これは物理ネットワークを仮想的に分割することで、ライブストリーミング専用領域を確保するというもので、2019年にはソニーと協働で初期のスライシング技術を用いて、ベルリンマラソンの模様をテレビ中継することに成功するなど、実験と実績を積み上げてきた。


 こうしたドイツテレコムのライブ中継向スライシング技術は、Linux Foundationのオープンソースプロジェクト「CAMARA Project」として、API化されている。CAMARA APIは、同一通信会社内のネットワークにとどまらず、他の事業者をまたいだり、国をまたいだりしても回線のクオリティーが維持されることを目的として開発が進められている。


 このあたりは他国と陸続きであるヨーロッパならではの発想とニーズがある。これは1つの通信会社がこのAPIをサポートしているだけでは機能せず、多くの通信会社が対応する必要がある。そのためのオープンソースプロジェクトでもある。


 さらにこうしたデータ通信は、APIと5G回線があるだけではどうにもならない。商業コンテンツ、例えばスポーツ中継番組として提供するには複数のカメラが必要であり、スタジオや現地レポーターとのかけあい、実況中継・解説といった音声、スコアを表示するCGなどをクラウド上で組み合わせる必要がある。これらは映像を低遅延・高圧縮するハードウェアエンコーダー、近年ソニー傘下となったNevionの管理技術であるVideoIPass、クラウドスイッチャー「M2Live」など、複数の技術の組み合わせで初めて実現できる。


 5Gによるライブストリームは、画質に重点を置くか、それとも低遅延に重点を置くかを、その都度選択できるようにしなければならない。独占中継の場合は、リアルタイムから何秒遅れてもあまり問題にならないが、例えばテレビとネットが同時中継する場合、ネットの方が10〜30秒遅いということになれば、有料放送の場合は大きな問題となり得る。


 現在ドイツテレコムでは、こうした5Gスライシングソリューションを「ライブビデオプロダクション」として商品化している。ユーザーはオンデマンドで、いつどこでどれぐらいの帯域幅という形で予約することができる。


●5Gとクラウドで編集作業はどう変わる?


 一般に試合終了後のロッカールームインタビューなどは、ライブ放送時間枠内で実施できるという保証がないため、その後のスポーツニュース用の編集コンテンツとなる。リアルタイムのライブ中継でない場合でも、5G回線を使って映像データをアップロードすることにはメリットがある。


 PDT-FP1をセットしてカメラ収録を行うと、映像はカメラ内のメモリカード、PDT-FP1内のストレージに同時に記録される。撮影後のアップロードはPDT-FP1単体で行えばいいので、アップロード完了までカメラが撤収できないような、無駄な時間を省くことができる。


 ソニーが運営するCiメディアクラウドと組み合わせた場合は、Ci側からPDT-FP1に対してメタデータを送信できる。バタバタしている現場で、その番組のプロダクション名、カメラマンの名前、プロデューサーの名前、撮影地などのデータを入力するのはそもそも無理がある。逆にクラウド側から、これから送信されるであろうファイルにメタデータを送りつけることができるというわけだ。もちろん現場からも、メタデータを追加できる。


 局で待機している編集マンは、通常は撮影クルーが素材とともに戻ってくるまで、待機しておかなければならないわけだが、プロキシデータが先に届けば、編集に着手することができる。クルーが戻るまでのダウンタイムがなくなるという点で、速報性が出てくる。ただこれは、プロキシというデータの持ち方が発案された25年前からずっと描かれてきたシナリオだ。


 ハイレゾデータをそのまま扱う場合、大きなスポーツイベントでは編集ブースもスタジアム内に設置するという例も見られたところだ。だが5Gでハイレゾデータをアップロードすれば、編集マンはどこにいても、自宅からでも編集ができる。これは働き方改革としても、意味がある。


 コンテンツ配信においても、クラウドによる自動化が大きな意味を持つ。例えば大きなリーグの試合となれば、多くの国や団体、チームがそれぞれに複雑な権利を所有しており、またチーム内にも国外選手が数多くいることで、その関係はより複雑になる。


 Ciメディアクラウドではこのようなルールに基づいて、自動的に映像素材を必要な国や団体に配信する。この試合はこの選手が出ているからこの国へ、あるいはこの団体へ、といった格好だ。


 もしこれを人間が手動で素材管理を行っていたら、何らかのミスや誤解で素材が来ないことを連絡しても、連絡した先で権利関係を確認してからファイル送付となる。また時差もあり、連絡しても応答がないといったことも起こるだろう。それでは公開のタイミングを逃してしまう。複雑な権利処理が絡むほど、高度な自動化には意味がある。


●機材の柔軟性がもたらすメリット


 プロクオリティーの映像が5Gを経由してアップロードできるだけで、クラウドからのライブ配信は現実的な話となる。一方でこうしたソリューションは、専門機材1つ、1社のテクノロジーで済むような時代ではなくなった。「PDT-FP1」は素晴らしい端末だが、普通のスマホに映像入力ができるなら、それでも代用できるという柔軟性がある。これは、大規模なプロジェクトや放送局、大手プロダクションでなくても、こうした技術を利用できるという意味でもある。


 どういうピースでシステムを組み上げるか。ソニーは通信会社と組んで実動するシステムを作っているが、バラバラのピースから組み上げることもできる。逆に各ピースを作る企業は、どことでもつながれるように設計しなければならない。このためにコア技術をオープンソース化するという流れもまた、「つながる」をウリにする時代において、当然の対応という事になる。


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