人気バトル漫画と都市伝説『ダンダダン』『地獄先生ぬ〜べ〜』……怪異との闘いはどう描かれている?

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2024年05月25日 07:00  リアルサウンド

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(左から)朝里樹『日本現代怪異事典』『日本怪異伝説事典』『日本現代怪異事典 副読本』(全て笠間書院)
■怪異との闘い 胆力抜群な武士と無力な現代人

  前回記事にしようにわが国には古代から数多くの怪異に関するエピソードが語られている。そのエピソードには怪異退治の逸話も数多い。


  須佐之男命(スサノオノミコト)による八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治などとりわけ有名なものだろう。スサノオノミコトは神話上の人物(神)だが、実在の武将などにも怪異退治の逸話を残している人物は少なくない。大江山の鬼の首魁・酒呑童子や土蜘蛛など数々の怪異を屠った源頼光、鬼の大嶽丸を退治した坂上田村麻呂、大百足を退治した藤原秀郷(俵藤太)、大蛇を退治した源為朝、剣豪・宮本武蔵は妖怪退治に姫路城に赴き、長壁姫(おさかべひめ)と対峙したとの逸話が残っている。


  日本文学研究者の志村有弘氏は古典怪談のアンソロジーを数多発表しているが、古典怪談に登場する名もなき武士たちは胆力満載で、肝のすわった行動で妖魔を退けるというパターンが多い。武士ではないが耳なし芳一は住職の書いた経文のおかげで命は助かる。最も高名な陰陽師であろう安倍晴明は鬼の橋姫を封印した逸話など数々の怪異に関する伝説が語られている。修験道の開祖として知られる役小角(えんのおづの)は前鬼・後鬼(ぜんき・ごき)という鬼を使役していたという逸話が残っている。北海道には本州の和人と異なる文化、歴史を持つ先住民族・アイヌがいるがシトナイというアイヌの少女が人を喰らう大蛇を退治したとの伝承が残されている。


  対して都市伝説と対峙する現代人たちは無力である。怪異を撃退する呪文などが伝わっている場合もあるが、怪異に遭遇したら何も為す術がないという例も少なくない。「ムラサキカガミ」を20歳まで覚えていると死の呪いに襲われ、対応策はない。「八尺様」に魅入られてしまうと、根本的な対応策は無い。「くねくね」を見てしまうと精神錯乱状態になり元には戻れない。大ヒット作『リング』は古典的な呪いを扱った古典的な要素を持つが、呪いを媒介するのがメディア(VHSビデオ)で、山村貞子に呪われた人間は徹頭徹尾無力である。同作は古典的な要素を持ちながらも現代の都市伝説要素をミックスしていると言えるだろう。


  とはいえ、バトルマンガが主流である少年マンガにおいて「主人公が怪異と戦う術が無い」は通用しない。そのため。現代都市伝説を扱ったマンガは主人公が戦う手段を持っている場合が多い。『地獄先生ぬ〜べ〜』の主人公・鵺野鳴介(ぬえのめいすけ、ぬ〜べ〜)は霊能力者で強力な鬼を封じた「鬼の手」を持っており、同作は少年誌らしくバトル漫画の要素も強い。『地獄先生ぬ〜べ〜』は都市伝説物でもかなり影響力の強い作品で、朝里樹氏によると都市伝説怪異の「ブキミちゃん」に関する「ブキミちゃんが夢の中に出てきてハーモニカを探してこい」と命じるというエピソードは『地獄先生ぬ〜べ〜』から都市伝説へ逆輸入された設定とのことだ。『呪術廻戦』は同じく週刊少年ジャンプ作品で、主要登場人物たちは呪術師なので怪異と戦う力を持っている。


 『ダンダダン』は超能力や怪異を取り込んで得た能力で戦う。『怪異と乙女と神隠し』はバトルこそしないが怪異に対抗する知識や能力を持っている。『虚構推理』は知恵で怪異にまつわる事件を解決する。『裏世界ピクニック』のダブル主人公は怪異を見ることができる目と掴むことができる手を持っている。『化物語』をはじめとする「物語」シリーズも主人公自身が怪異(元吸血鬼で吸血鬼もどきの人間)なので、対抗手段がある。『うしろの正面カムイさん』の主人公・カムイは霊能力者で怪異にしか欲情しない次元の違う変態で、怪異を性行為で強制除霊する。人間とは思えないほど身体能力も高く、ギャグマンガ補正で作中ほぼ無敵である。


■人間が怪異に対して無力となる

  そういった例の中、長く続いている都市伝説物で数少ない「人間が怪異に対して無力」な例が『裏バイト:逃亡禁止』である。ダブル主人公の一人である黒嶺ユメが持っている武器は危機を察知する能力(危険を匂いとして感じることができる)だけで、「危機を察知して逃げる」以外の手段がない。


  同作は「きさらぎ駅」や「くねくね」といったネットロアの典型例は登場せず、ネットのオカルト掲示板に掲載されていそうな奇妙な現象が一話完結形式で描かれる。実際に語られている都市伝説を「モチーフにした」都市伝説ものといったところだろうか。アニメシリーズ『妄想代理人』も同種のものと言える。『妄想代理人』で語られる都市伝説「少年バット」は同作のオリジナル怪異で、金色のローラーブレードを履いて赤い帽子を深く被った少年の姿をしており、鈍器(折れ曲がった金属バット)を持っている。「腕章の少年」という都市伝説で語られる怪異がいるが、腕章の少年は片足が義足でナチスの腕章をつけており鈍器(警棒)を持っている。なんとなく少年バットとイメージが重なる。


  都市伝説でも特にネットロアにみられる特徴だが、怪奇現象の正体は最後まで不明のままであることが少なくない。対称的なのがイギリスの怪談話で、イギリスでは幽霊屋敷は「それだけ格式や歴史のある場所である」とのお墨付きがつく伝統がある。イギリスの歴史のあるパブや劇場にはたいてい幽霊話が一つか二つは転がっている。幽霊出現スポットを巡るウォーキングツアーも各都市で開催されており、筆者もかつて古都オックスフォードで開催されたツアーに参加したことがある。


  筆者の英語力は完璧に遠いため、すべてを理解できたわけではないが、そういった幽霊スポットの幽霊は「いつの時代の誰々(馬など動物の幽霊が出る場合もある)」とたいてい由来がはっきりしている。それに対して日本の都市伝説に登場する現代怪異は正体不明であることが少なくない。くねくねなどその代表例であり、ネットロアで語られる怪談話にくねくねの具体的な正体は語られない。『裏バイト:逃亡禁止』も怪奇現象の正体がはっきり語られないことが少なくない。そういった意味で『裏バイト:逃亡禁止』は正しく現代都市伝説ものであると言えるだろう。


このニュースに関するつぶやき

  • 『裏バイト』は都市伝説を下敷きにしている話が多いけど、SCPの換骨奪胎って感じがする。主人公を含む裏バイターはDランク職員みたいな立ち位置だし。
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