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別荘やアトリエを始め、さまざまな所有物を処分し、生前に墓も用意した。このとき人間関係も見直し、「整理」したという。確かに年齢によって付き合う人たちは変わっていく。
すべての人間関係を引きずったまま生活したほうがいいのか、距離を置いて整理していったほうがいいのか。そして人間関係の見直しや整理は、何を基準にするべきなのだろうか。
50代後半になって
「まだ現実的に終活をしているという意識はありませんが、気づけばいろいろなものを整理していっているような気がします」そう言うのはカオルさん(58歳)だ。結婚して30年、下の子も昨春独立し、夫婦ふたりきりの生活になった。
「2歳年上の夫とはそこそこ仲がいいんですが、定年も迎えることだし、もうちょっとシンプルに暮らしていこうという話はしました。
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だがもちろん、子どもたちの成長の証である文集やアルバムなどは捨てられなかった。それは子どもたちに任せるつもりだ。
「惰性」で付き合い続けてきた友人もいる
「子どもたちが小さいころからのママ友たちと今も付き合いがあるんです。だけど実は惰性で付き合っているグループもあった。本当に大事な友だちと一緒に過ごす時間を大事にしたいと思ったので、惰性のママ友たちとはあまり会わなくなりました」
夫婦同士で付き合っている友人たちも多かった。
ふたりで始めたテニスで知り合った人たち、夫の友人夫婦との付き合いなども少なくなかったが、誰とどのくらいの頻度で会いたいか、ふたりはゆっくり話し合った。
「夫の友人たちの一部とは、私はもう会わなくてもいいやと思っていたし、夫も私の友人関係では離れたい相手もいたみたい。今後は、相手に気を遣うより自分が会いたい人に会うようにしようと決めたんです」
あちこちに顔を出し、たくさん友人を作って週末は多忙を極めていた時期もあったが、これからは「ふたりの時間」と「ひとりの時間」を大事にしたいという点で一致したという。
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「単なる付き合い」をやめていく
たとえば年賀状だけのやりとりや盆暮れの品物だけのやりとりをしている関係もある。よく考えてみれば、会うわけでもなく、安否確認だけを知らせるような間柄なら、やりとりがなくなってもかまわないのではないか。
ユウコさん(56歳)は今はそう思っているという。6歳年上の夫が定年になった途端、お中元やお歳暮はパタリとこなくなった。仕事だけの関係とはそういうもの。
「夫は別の会社で再雇用されて働いていますが、今は盆暮れの贈り物はまったく来ない。実はそれが正しいのかもしれません。それを機に、贈り物だけの関係だった遠い親戚に『今後、お互いに贈り物はやめましょう』と手紙を書きました。
相手からも賛同を得ましたが、逆にそれがきっかけで久々に会うことになり、かえっていい時間が過ごせました」
人間関係で大事なのは、会いたいと思う人に会って、お互いに楽しく過ごすことではないかとユウコさんは考えている。
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友人は人数じゃない、どこまで深く話せるかだって。この年齢になったら、残り時間も多くはない。1日1日を充実させていくことがいちばん大事なのかもしれません」
老後世代の人付き合い「優先順位」は?
夫には父が、ユウコさんには母が存命だ。義父は夫の姉一家と暮らしているが、彼女の母は実家近くの施設で生活している。独身のひとり息子が仕事の関係で遠方に越したため、ユウコさんにも時間的余裕ができた。パートは続けているが、週3回程度にして、時間を作っては母のところへ通っている。
「今は母と過ごすことが私にとっては大事な時間。年齢や状況によって、人付き合いの優先順位も変わってきますね」
本格的な老後に入ったら、一番大事なのは「夫婦の時間になるのかもしれないし、自分だけの時間になるのかもしれない」と彼女は言う。
自分にとって大事な付き合い、大事な時間を把握し、優先順位が低いものにかける比重を減らしていく。そうやってどんどんシンプルにしていったほうが心身ともに負担はない。
「いろんな人と付き合って世界を広げていく時期はもういいや、という気持ちになっています。広げるより深めていく年代になったのかもしれません」
いくつになっても人間関係を広げたい人もいるだろうが、ユウコさんのように深めていくのも楽しそうだ。熟年と言われる世代になったからこそできる「人付き合い」もあるのかもしれない。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))