「自分がこんなに酔っていたとは……」 VR内の深刻な飲酒問題 “VR酔い防止機能”→酒酔いを軽減→無意識に飲み過ぎ

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2024年05月29日 08:41  ITmedia NEWS

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VR空間での飲みすぎ問題、フィンランドなどの研究チームが指摘

 フィンランドのヘルシンキ大学やスペインのマドリードカルロス3世大学に所属する研究者らが発表した論文「“I’d rather drink in VRChat”: Understanding Drinking in Social Virtual Reality」は、VR内で飲酒するユーザーの問題を明らかにした研究報告である。


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 ソーシャルVRプラットフォーム「VRChat」のユーザーによるオンラインディスカッション(Redditの「r/VRChat」コミュニティーから収集した3276件)を分析したところ、2018〜2023年にかけて、VRChat内の飲酒者数・飲酒量ともに増加傾向を示したこと、飲酒関連のコンテンツ(バーやクラブなど)が多数存在し、過度の飲酒行為がまん延していることが明らかになった。


 VRでの飲酒を好む理由として「移動の手間が不要」「飲み会の費用が安く済む」「いつでも仲間と飲める」「アバターを通じて現実では難しい振る舞いができる」「二日酔いの心配をしなくていい」といったことが挙げられている。


 しかし一方で、ユーザーは実際よりも酔いを感じにくいという問題点が浮き彫りになった。VR酔い防止の設計により、アルコール酔いによるふらつきや視界のぼやけといった兆候が軽減されてしまうため、ユーザーは無意識のうちに過剰飲酒に陥りやすいのだという。


 具体的には、本来VR酔いを軽減するための視野角(FOV)を狭める対策が、酩酊(めいてい)度を認識しづらくしている。こうした設計の副作用により、ユーザーは過剰飲酒に陥りやすく、ヘッドセットを外して初めて自分がこんなに酔っていたと驚くユーザーが報告されている。


 さらに、泥酔したユーザーの失態が、飲酒に参加していない人々の体験を損ねている。VRChat内で、酔っぱらって言葉や身体で絡んでくる迷惑行為、大声で騒ぐ、泥酔したユーザーの嘔吐(おうと)や下品な言動に対する不快感、飲酒を強要するなどの行為が横行しており、多くのユーザーが不快感を訴えている。


 VRChat内での飲酒行動が利用者の現実生活に与える悪影響も述べられている。VR空間での大量飲酒が原因でアルコール中毒に陥るケースが報告された他、ヘッドセットを装着したまま飲酒することで現実空間の状況が把握できず、酩酊状態で転倒し手首を骨折する事故が報告されている。


 また、酩酊状態で銃をつかんで自分に向けていたというユーザーの報告もあった。匿名性の高いVR空間では、酔った人の安全を確認することも困難。体調不良に陥ったユーザーを助けられない状況も懸念される。


 予防措置として、発汗中のアルコール含有量を検出する経皮アルコールセンサーをVRヘッドセットに組み込むことや、内蔵の眼球追跡技術を用いてユーザーの目の動きから酩酊度を推定し、警告を発するシステムの実装が提案されている。また、飲酒行為を検出した際に、FOVを広げてユーザーが自身の酩酊状態をより正確に認識できるようにすることも提案されている。


 Source and Image Credits: Qijia Chen, Andrea Bellucci, and Giulio Jacucci. 2024. “I’d rather drink in VRChat”: Understanding Drinking in Social Virtual Reality. In Proceedings of the CHI Conference on Human Factors in Computing Systems(CHI ’24). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 797, 1-16. https://doi.org/10.1145/3613904.3642405


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2


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