売上が数兆円で安定、好待遇…大手自動車部品メーカーは「就職の意外な狙い目」

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2024年05月30日 06:00  Business Journal

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デンソーの公式サイトより

 売上高が数兆円、営業利益が数千億円レベルの大企業も存在する自動車部品メーカー。グローバルに展開する大企業であり、社員の待遇も悪くないにもかかわらず、新卒入社の就職活動では有名なBtoC企業などと比べると志望する人が少ないため「意外な狙い目」になっているという声も聞かれる。大手の自動車部品メーカーは就職先企業としてみた場合、どのような点が魅力なのか。逆に社員として働くうえでのデメリットなどはあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


 トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダ、三菱自動車工業など大手自動車メーカーを頂点とする系列が形成されている自動車業界で、完成車メーカーに部品を納入する自動車部品メーカー。なかでも「Tier1(ティアワン)」と呼ばれる一次下請けメーカーなどには大企業が存在する。その業績をみてみると以下のようになっており、パフォーマンスは高く、安定しているといえる。

・デンソー
  売上高:7兆1447億円
  営業利益: 3806億円

・アイシン精機
  売上高:4兆9095億円
  営業利益: 1433億円

・豊田自動織機
  売上高:3兆8332億円
  営業利益: 2004億円

・トヨタ紡織
  売上高:1兆9536億円
  営業利益: 786億円

・ジェイテクト
  売上高:1兆8915億円
  営業利益: 728億円

※上記は2024年3月期決算


 また、各種転職サイトに掲載されている情報によれば、平均年収は600〜800万円台となっており、概ね日本の給与所得者の平均給与とされる458万円(22年/国税庁調べ)を上回っているとみられる。


「デンソーの人からは『平均すると1年のうち3日に1日は休日というイメージなので、休みはしっかり取れる』と聞いたことがある。大手であれば、どの部品メーカーも似たようなもので、年収や労働時間、福利厚生など客観的な情報だけみればホワイト企業といっていい。完成車メーカーは今、どこも業績が良いので、そこにぶら下がる大手部品メーカーも当面は安泰だろう。


 にもかかわらず、一般的な知名度はそれほど高くないため、就職人気ランキングなどで上位にくるようなことはない。学生はどうしても完成車メーカーやサントリー、ソニーといった有名BtoC企業、総合商社やメガバンクなどを志望しがちで、グローバルに展開して世界市場で高いシェアを持つ部品メーカー、BtoB企業というのは意外に穴場と化している」(自動車業界関係者)


 別の自動車業界関係者はいう。


「大手の自動車部品メーカーは比較的おすすめの業界とはいえるが、どこの完成車メーカーが主要取引先なのかはチェックしたほうがよい。たとえば公正取引委員会から下請法違反の再発防止勧告を受けた日産自動車による“下請けイジメ”が今クローズアップされているが、どの自動車メーカーをメイン顧客とするのかによっても違ってくる」


所有する特許の数も多いため収益性が高い

 大手の自動車部品メーカーは、就職先企業としてみた場合、どのような点が魅力なのか。株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役の川畑翔太郎氏はいう。


「まず技術職についていえば、所有する特許の数も多いため収益性が高く、専門性が高いゆえに高い技術力が身につくので、就職先としては非常に良いといえます。理系学生の間ではトヨタなど完成車メーカーのほうが人気が高いと思われがちですが、研究熱心でやりたい仕事(分野)が明確な学生ほど、デンソーやアイシンなどの技術分野が専門的な大手部品メーカーに進む傾向があります。


 営業職は、売る商品も売る相手である顧客企業もある程度決まっており、どちらかというと商品力が強いルート営業の色合いが強いため、一般的な営業職と比べると“売るための大変さ”は低め。なので営業職においては“すごくキツイ業界”ということはないでしょう。このほか、人事や経理など管理系の事務職は、大企業で安定している上に将来的なキャリアパスとしても箔(はく)が付くので、大手部品メーカーに就職できれば“安泰”といえます」


 逆に働くうえでデメリットはあるのか。


「技術職の場合、先ほどのメリットの裏返しともいえますが、完成車メーカーは一から商品を企画・開発・製造して販売するため仕事の幅や自由度が大きいですが、部品メーカーだと自身が携わる部品については高度な技術力を身につけられるものの、対象範囲が狭い点がデメリットになりえます。また、EVシフトの影響などでその部品自体が必要なくなったり、需要が大きく減退すると厳しい立場になります。ですので、就職先として検討する際には、今後の市場動向がそのメーカーのメイン商材(部品)にどのような影響をおよぼすのか、自動車向け以外にリスクヘッジとなる販路を複数持っているのかという点もチェックすべきでしょう。


 また営業職においては、決まった顧客に決まった商品を売るようなパターンが多いため、高い企画提案スキルを身につける機会が得にくいという点がデメリットになります。なので、営業として将来的に大成したければ、ただ顧客から要望があった商品を売るだけではなく、顧客の潜在的ニーズを探り、顧客がまだ気づいてもいないような企画提案を日頃から意識して営業活動を行う必要があります」(川畑氏)


 待遇面や労働環境面はどうか。


「大手の部品メーカーであれば、みなさんがイメージしている大企業と遜色ないレベルで、それなりに良いと思います。勤務時間や休日取得については、各系列の完成車メーカーに準ずるかたちになります。工場を稼働させる都合で、完成車メーカーは年末年始やゴールデンウィーク、8月の夏休みシーズンなどにまとまった長期の連休がある一方、飛び地の祝日は休業日にならない傾向がありますが、部品メーカーもそれに倣って同じような出勤スケジュールになります」(川畑氏)


 では、大手自動車部品メーカーへの就職は狭き門なのか。


「そこそこ狭き門ではあるものの、就職人気ランキング上位にくるような企業と比べれば競争率は高くないので、狙い目ではあります。ただ、マニアックな分野であり、かつ市場でどのような立ち位置にいるのか把握する上で業界研究は必須となります。なので、大手志向が強い方は競争率が高い人気大手企業だけでなく、同様に大企業の環境がある自動車部品メーカーも並行して受けておくことを勧めます」(川畑氏)


(文=Business Journal編集部、協力=川畑翔太郎/株式会社UZUZ COLLEGE代表取締役)


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