イスラエルForsea Foodsの培養うなぎ、日本の食文化に貢献へ。絶滅危惧種を守れるか

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2024年05月31日 17:00  Techable

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SusHi Tech Tokyo 2024内プログラムとして「グローバルスタートアッププログラム」が2024年5月15・16日の2日間東京ビッグサイトにて開催され、世界各国のスタートアップが展示を行った。

スタートアップ大国イスラエルから参加の10社がブースを構えたのは「イスラエルパビリオン」内。パビリオン受付に立っていたのは、イスラエル大使館のダニエル・コルバー経済担当公使だった。それだけイスラエルがスタートアップ支援に注力しているということだろう。

そんなイスラエルパビリオンの一角にあった「Forsea Foods (以下Forsea)ブースのポスターには、うな重の写真が大きくあしらわれている。Forseaが手掛けるのは、うなぎの可食部分の細胞培養。いちからうなぎを育てるのではなく、食べる部分だけを作り出してしまうのだ。
日本企業も投資、レストランとコラボもForseaは、イスラエルのフードテックインキュベーターThe Kitchenおよびイスラエル・イノベーション庁の支援を受けて2021年に設立されたスタートアップだ。研究・技術開発および培養プロセス効率改善を続け、2024年1月に培養うなぎとして世界初の試作品を発表した。

この時、東京都内のヴィーガンレストラン「菜道」とのコラボレーションについても公表。菜道のチーフシェフ楠本勝三氏がFoeseaのうなぎ肉をかば焼きと握り寿司に仕上げた。また、同月にはオイシックス・ラ・大地の投資子会社Future Food Fundも、Forseaに対して新規投資を行っている。

[caption id="attachment_234871" align="aligncenter" width="1874"] Image Credits:Forsea Foods[/caption]今回Forseaブースで試食までは行っていなかったが、Forsea事業開発マネージャー兼バイオロジストの杉崎麻友氏によると、「近々、培養うなぎを使ったテイスティングイベントを開催する予定です」とのことだ。
「オルガノイド技術」で自然な細胞と同じ構造を形成「当社の培養うなぎは、特殊なオルガノイド技術を利用しています。本物のうなぎと類似した構造を三次元で形成する点が最大の特徴です」と説明してくれたのは、創業者兼CEOのRoee Nir氏だ。このオルガノイド技術は同社の研究チームが開発した独自プラットフォーム技術で、特許も取得したもの。

一般的な培養肉の製造プロセスでは、筋肉や脂肪といった求める細胞タイプへと幹細胞を誘導するための分化技術が重要となる。しかし、Forseaのオルガノイドは自発的に分化・成長するのだ。これにより、コストの高い「スキャフォールド(足場)」段階が省かれ、成長因子の使用量も大幅に削減できる(足場とは細胞増殖を促す培養容器などの環境)。

[caption id="attachment_235684" align="aligncenter" width="1601"] Image Credits:Forsea Foods[/caption]Nir氏曰く、Forseaの培養うなぎ肉は普通のうなぎ肉と同等の食感でありながら、コストも抑えられるとのこと。養殖場などの施設も稚魚も不要で、飼育や成長に関する手間もかからない。培養である以上、薬剤や汚染物質とも無縁。養殖場からの排水で周辺環境を汚染するといった事態も起こり得ない。
絶滅危惧種のうなぎ、完全養殖の商業化も困難公式サイトの「インパクト」ページにあるとおり、同社の事業はうなぎを含む絶滅危惧種を保護するだけでなく、人口増加に伴う食糧問題解消にも貢献、海洋資源の持続可能な活用をも実現するものだ。

[caption id="attachment_235707" align="aligncenter" width="1721"] Image Credits:Forsea Foods[/caption]さらに、世界のうなぎ消費の7割を占める日本にとっては、少なくとも奈良時代から続く食文化を継続するうえで大きな助けとなる(万葉集に「石麻呂に われ物申す 夏痩に 良しといふ物そ 鰻取り食せ」という大伴家持の詩が収録されている)。

うなぎは世界的にも絶滅が危惧される保護対象の生物であり、供給は長年にわたり厳しい状況が続く。上述したオイシックス・ラ・大地のリリースにも、「日本国内のうなぎ供給量は平成12年の約16万トンに対し、近年は約5万トン」とある。日本の食用うなぎの99%以上を占める養殖うなぎは稚魚の漁獲量減少を受けて高値続きだ。

[caption id="attachment_234870" align="aligncenter" width="1891"] Image Credits:Forsea Foods[/caption]1976年からうなぎ養殖の研究を続けてきた近畿大学水産研究所は2023年7月、「養成した親魚から仔魚を得る」完全養殖に大学としては初めて成功。しかし、同年10月に発表したリリースでは、「低コストで大量生産できる目途は立っていない」としている。

そこに登場したのが、天然・養殖という概念を超越したForseaの培養技術。うなぎの完全養殖よりも培養商業化の方が先に実現しそうな状況になったのだ。
うなぎを食べないイスラエルから日本で事業展開実は、国民の約7割がユダヤ教徒であるイスラエルでは、宗教的理由から基本的にうなぎを食用にしない。Forseaのうなぎ肉培養事業は完全に国外向け、日本市場をターゲットとするもの。LinkedInでは「土用の丑の日」に言及、培養うなぎが土用の丑の日に日本の食卓に上る日が待ちきれないと投稿している。

Nir氏や日本での事業展開を担う杉崎氏の努力によって、培養うなぎを日本で普及させるための準備は着々と整っているようだ。今回のSusHi Techでは杉崎氏が「国境を越えたイノベーション推進」パネルに参加したほか、Nir氏は一般来場者にプレゼンを行い、同社事業の進捗を紹介。「最も革新的なスタートアップ」の1社に選ばれた。


2025年までに何らかの形で本格的な製品販売を開始するというForsea Foods。同社の培養技術はうなぎ以外の魚にも応用可能だが、取り扱うのは絶滅の恐れがあり、需要に供給が追い付いていない種だけだという。うなぎの次もIUCNの絶滅危惧種リストにある水生生物を選ぶ予定とのことなので、今後の展開に注目したい。

参照:
Forsea Foods
水産庁(PDF資料)

(文・澤田 真一)

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