ロードサイドに強い「あみやき亭」。“いきなり!ステーキの後釜”が次なる一手か

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2024年06月01日 09:10  日刊SPA!

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tamayura39 - stock.adobe.com
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社あみやき亭の業績について紹介したいと思います。
同社は焼肉店「あみやき亭」を中心に、肉業態の店舗を展開しており、黒毛和牛のカルビが5切れで600〜700円台とリーズナブルな価格が特徴的。それにしても、国産牛を安く提供できる秘訣はどこにあるのでしょうか? 同社の戦略と今後の方針についてまとめてみました。

◆中部地盤で、国産牛がウリのチェーン

同社は24年3月期末時点で286店舗を展開し、そのうち173店舗を展開する焼肉事業と53店舗を展開する焼鳥事業を主力としています。焼肉事業では「あみやき亭」や「どんどん」などを手がけ、焼鳥事業では「元祖やきとり屋 美濃路」などを運営。なかでも社名と同じ「あみやき亭」は90店舗展開しており、同社のメインブランドの一つです。

「あみやき亭」は、中部地方では特に高い知名度を有していて、国産牛を安く提供する店舗として知られています。報道によると8割以上が国産牛であり、店内にもその日に提供する牛肉の産地が記載されています。メニューを見てみると「黒毛和牛 特選カルビ」が5切れで税込748円、同じく「黒毛和牛 上カルビ」が税込638円であるなど、確かに国産牛としてはコスパに優れた価格と言えます。また、税込3,000円、4,000円、5,000円とランクごとの食べ放題コースも提供しています(※中部地方のメニュー)。

牛肉に関して消費者の国産へのこだわり、信頼感は根強く、国産牛を安く食べられる点が人気の理由といえます。

◆「あみやき亭」1号店は1995年にオープン

ここで少し株式会社あみやき亭の歴史を振り返ってみましょう。同社は意外と新しく、1995年に設立し愛知県に「あみやき亭」1号店を出店しました。2000年には10号店を開店、焼鳥業態1号店も出店し、2002年には東証二部に上場しました。翌2003年にはあみやき亭として30号店を開店、2005年には東証一部に鞍替えし、2007年に関東進出を果たしています。

関東での展開を強化すべく2009年には日本ハム傘下の(株)スエヒロレストランシステムを子会社化。2011年にあみやき亭業態として100号店目を開店しました。原則として全店直営で展開し、現在では中部地方と関東郊外のロードサイドを中心に出店しています。

ちなみに「焼肉きんぐ」を展開する物語コーポレーションも同業態自体は石川県に1号店をオープンしていますが、愛知地盤の企業です。コメダ珈琲店も同じく名古屋発祥。車社会の愛知県からはロードサイドに強みを持つ飲食チェーンがいくつも現れていることがわかります。

あみやき亭業態としては現在、愛知県に60店舗が存在し、東京・神奈川・埼玉でそれぞれ4・2・2店舗を展開しています。

◆安さの秘訣は「仕入」と「セントラルキッチン」

国産牛を安く提供できる秘訣は仕入とセントラルキッチンの工夫にあります。あみやき亭では主に国産のバラ肉を仕入れていますが、ヒレや肩ロースなど、全国各地の肉問屋で余った部位の肉を随時安く購入し、活用しているようです。そのため基本は国産でも、産地が頻繁に変わることがあります。仙台牛や松坂牛のように縛りが無いため、国産牛であれば臨機応変に変更できるのでしょう。

セントラルキッチンでは機械ではなく、約100人のスタッフが手作業で切り分けることにより、廃棄ロスの削減に努めています。スタッフの中には正確に素早くカットできる15年以上のベテランもいるようです。そして焼肉として余った部分はビビンバの肉にしたり、系列店のハンバーグにしたりと、肉業態に特化しているため、会社全体として原価を下げることに成功しています。

◆コロナ禍で悪化した業績は回復

2020年3月期から24年3月期における、あみやき亭の業績は次の通りです。メインとする焼肉事業、焼鳥事業がいずれも影響を受けたため、コロナ禍では大幅に悪化したものの、24年3月期には以前の水準に回復しています。

【株式会社あみやき亭(2020年3月期〜2024年3月期)】
売上高:319億円→221億円→216億円→285億円→333億円
営業利益:18.6億円→▲24.0億円→▲33.8億円→4.2億円→22.1億円
店舗数(焼肉事業):182店舗→181店舗→185店舗→167店舗→173店舗

時短営業や休業、酒類提供の停止や時間短縮もあり、特に21年3月期、22年3月期は業績が悪化しました。前年度と比較した21年3月期の既存店客数は全社で27%減、焼肉業態でも同じく25%減と客が4分の1も減りました。バイキング方式で家族客を集めた「焼肉きんぐ」を除き、コロナ禍では大手焼肉チェーンがいずれも大打撃を受けています。とはいえ消費活動の正常化により前期で以前の水準に回復しました。

◆「いきなり!ステーキ」に似た業態で攻める

同社は今後も、現状の体制を活用できる肉業態の店舗を展開するとしています。今期25年3月期は「感動の肉と米」を中心に20店舗の新規出店を目指す方針です。感動の肉と米は「いきなり!ステーキ」のように男性一人客をターゲットにしたようなステーキ・ハンバーグ店ですが、ご飯やお味噌汁が付いたセットが税込1,000円以下で食べられるなど、あみやき亭と同じく安さを訴求しています。追加料金でプラスハーフ、ダブルと肉の量を増やすことも可能です。

2021年の1号店開店以来、中部や関東で店舗数を増やしており、現時点で約30店舗を展開しています。ロードサイドを中心ですが、新橋や北千住の駅近にも出店しています。肉を大量に仕入れ、余った部分も活用するあみやき亭だからこそ実現できる価格なのでしょう。

価格がネックで客が離れてしまった「いきなり!ステーキ」の空白を埋めるように規模を拡大するかもしれません。新業態の今後に注目です。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_
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