松屋、客に食器の返却も「細かい仕分け」もやらせると話題…やむを得ない事情

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2024年06月02日 06:00  Business Journal

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松屋「牛めし」

 牛丼チェーン「松屋」では、客が食べ終わった食器を返却口まで運び、食器やコップ、箸、食べ残しなどの細かい「仕分け」をする形態の店舗が存在し、一部ネット上では「食器の返却どころか、細かい仕分けまで客にやらせるようになった」と話題を呼んでいる。なぜ松屋はそのような形態としているのか。また、客が食べ終わった食器の回収を店側がどのように行うのかによって、店舗オペレーション上の負荷・作業効率が大きく変わってくるものなのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。


 全国に1000店以上を展開する松屋。昨年1月には根強いファンが多い「オリジナルカレー」の代わりに一気に200円アップさせた「松屋ビーフカレー」を680円(税込み/以下同)で発売したかと思えば、8月には100円値下げして味を変更し、ファンの間でその味をめぐってさまざまな評価が飛び交ったことは記憶に新しい。9月にはランチセットの提供終了を従来の15時から14時に前倒しして1時間短縮し、「牛めしランチセット(並盛)」を550円から500円へ50円値下げしたものの、単品注文では80円の玉子がセットから省かれたため、事実上の値上げではないかという声も出ていた。


 昨年以降は1000円超え、1000円近いメニューを相次いで投入するなど、その「高価格路線」も話題に。昨年11月に期間限定で発売された「ビーフ100%ハンバーグ定食」の各種メニューが軒並み1000円を超えていることについて、SNS上では「もう貧乏人は利用できない」「その値段なら違う店を選ぶ」などと悲鳴が続出。その後も、期間限定で「ビーフシチュー定食」(990円)、「ブラウンソースチーズハンバーグ定食」(990円)、「シュクメルリ鍋定食」(930円)、「チーズシャリアピンソースハンバーグ定食」(1050円)などを相次いで投入してきた。


 このほか、松屋といえば注文用タッチパネル式券売機の「使いにくさ」が、たびたび話題になることも。昨年4〜5月頃には一部メディアでニュースとしても取り上げられ、昨年12月の段階でもSNS上では

「半泣きで券売機の使い方ググってる人」

「やたら重いし無駄に操作回数多いし不便」

「牛めし2個持ち帰りしようとしただけでテンパった」

といった声があがっていた。


細かく置き場所が指定

 そんな松屋で、返却口で客が食器などを細かく仕分けしなければならないタイプの店舗が存在していると話題に。「食器の仕分けにご協力お願い致します」と書かれた返却口で、

・牛丼どんぶり(サイズごと)
・皿類
・コップ
・味噌椀
・サラダボウル
・飲み残し
・可燃ごみ
・トレー


ごとに細かく置き場所が指定されている店舗もある。食器は重ねておくよう指示され、飲料の飲み残しを捨てる「飲み残し」コーナーがある一方、「味噌椀」のところには「飲み残しはそのまま」との注意書きがあるケースもあるという。


 松屋は券売機で発行される食券を客が持って席に着き、料理が出来上がると、受け取りカウンター上部にある画面上で食券に書かれた番号が出来上がりのステータスになり、客が自らカウンターに行き料理を受け取るという仕組みだ。松屋の公式アプリ「松屋モバイルオーダー」を使って来店前にスマホで注文と支払いを行い、表示されたQRコードを券売機にかざして食券を発行させることも可能。そして食べ終わった食器は返却コーナーに持っていくスタイルの店舗が多い。


 参考に他の牛丼チェーンを見てみると、吉野家には券売機はなく(一部店舗を除く)、同店で見慣れたコの字型のカウンターかテーブル席などに座ると店員がお茶を運んできてくれ、口頭で店員に注文し、食べ終わった食器はそのままテーブルの上に置いたままにして退店する方式の店舗が多い。また、すき家は、入口付近の券売機、または席に置かれたタブレットから注文をするが、店員に口頭で注文することも可能(来店前にスマホアプリから注文・支払いすることも可)。食事後は食器をテーブルに置いたまま退店するが、吉野家もすき家もセルフ方式で客が返却口に持っていく店舗もある。


店員の労力・手数を極力減らすためのもの?

 一般的に飲食店側にとって、食事後の食器について「店員が席まで行って下げる」「顧客に返却コーナーまで運ばせる」「顧客に返却コーナーまで運ばせ、細かい仕分けまでさせる」のどの形態にするのかというのは、どのように判断するのか。また、どの形態にするのかによって、店側の労力・コストは大きく変わってくるものなのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。


「どの形態にするのかは、業態や客単価によって判断されるものであり、店舗の広さや造りによる導線、オペレーションによっても変わってきますし、労力や人件費に影響してきます。低価格帯のお店はできるだけコストカットしなければならず、チェーン店のようなどこにでもあるお店は材料費にコストをかけてお得感を出さなければならず、人件費を削るための努力が必要となります。


 チェーン系や大箱系では、

・入口の発券機で席の案内カードを発券
・着席したら備え付けの注文機や、お客のスマホでQRコード読みとってオーダー。もしくは入店時に券売機でオーダー
・ロボットやレーンによって料理やドリンクを提供
・お会計は自動精算機

といったかたちで、できるだけ人を介さないことで人件費削減を目指しています。全部は無理でも店舗の広さや方針から、できそうなことを導入しています。松屋の方式も店員の労力・手数を極力減らすためのものでしょう」


 では、松屋の対応をどのように評価すべきか。


「『仕方がない』と考えています。松屋のようなファストフード業界は、できるだけ低い価格でボリュームや品質を維持しなくてはなりません。サービスにも力を入れてほしいと思いますが、全部に力を入れると価格に跳ね返ってしまいます。何かを切り捨てなくてはならないとすれば、やはり人件費となり、その際に可能な限りのセルフサービスをお客さんにお願いするのは仕方ないと思います。マクドナルドをはじめ、お客が返却時に仕分けをする形態はファストフードチェーンでは珍しくなくなっており、慣れている人もいるのではないでしょうか」


 物価上昇と人件費高騰、人手不足が進むなか、特に低価格のファストフードでは、このように客側の手間を増やす動きが今後も増えてくることは、客側も受け入れていくべきなのか。


「特に低価格のファストフードでは、客側の手間を増やす動きは増えてくると思います。店側も客に嫌われないよう、できるところは機械化を進めたり、導線を工夫したりしています。既存店舗では返却口と洗い場の導線、配置の関係があったり、返却口のスペースの関係もあって、返却時に仕分けをお願いする形態があるのでしょう。一方、新規店舗では広さや高さのある返却口を設け、そのすぐ裏にシンクや食洗器、分別ごみ箱を配置すれば、お客側が仕分けをせずにそのまま返却棚に置くかたちで済む場合もあるでしょう。この部分がオートメーション化されるかもしれません。


 店舗によって違いが発生しますが、その店を使うか使わないかの選択権は客側にあります。価格と見合わない品質、ボリューム、サービスだと思えば利用しなければいいので、受け入れるか受け入れないかはお客次第です。お店側もそれは重々承知していますので、都度、判断をしていけばいいのではないでしょうか」


(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)


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