ヤクルトのサンタナはなぜ高打率を残せるのか? 伊勢孝夫が「3つのポイント」を挙げて解説

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2024年06月03日 07:30  webスポルティーバ

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 近年、プロ野球は"投高打低"が顕著になっている。今シーズンもここまで(6月1日現在)防御率1点台の投手はセ・パ合わせて8人なのに対し、3割打者は田宮裕涼(日本ハム)、近藤健介(ソフトバンク)、ドミンゴ・サンタナ、長岡秀樹(ともにヤクルト)の4人と、その傾向は変わらない。注目は、そのなかで唯一の右打者であり、外国人選手のサンタナだ。来日4年目を迎えたサンタナの好調の理由はどこにあるのか。名コーチとして数多くのスラッガーを育てた伊勢孝夫氏が解説する。

【好調を支える3つのポイント】    

 技術面では、これまで3年間とそれほど大きな変化は感じられない。とはいえ、3割を超える打率を残しているだけのポイントは確実にある。

 サンタナは、タイプ的には外国人選手特有の上体で打つ打者だが、ガチガチに力んで構えるのではなく、手を柔らかく自由に使えている。これがひとつ目のポイントである。力を入れるのはインパクトの瞬間だけ。だから、外角の真っすぐ、変化球ともコンタクトできて、ライト方向に持っていける。

 外角をこすったようなあたりでファウルになるかと思いきや、ライト線ツーベースになるシーンをよく見るが、それも手の柔らかさがあるからだ。そして真ん中から内に来た球に対しては腕をたたんでヒットにできる。インコースにもヒットゾーンがあるのは、こうしたうまさによるものだ。

 では次に、なぜそうしたスイングをキープできているかだが、これはしっかり軸足で立っているためだ。この軸回転のバッティングが、ふたつ目のポイントである。

 サンタナの打席を見れば、前足(左足)のつま先が浮いているのがわかるだろう。つまり、前足はまったく支えになっておらず、体重が軸足に乗っている。この状態から軸を回転させて打つから、よりパワーが発揮されて強い打球が打てる。

 イメージとしては、左右の違いはあるが、かつてメジャーリーグでホームランを量産したバリー・ボンズの打ち方に近い。

 ちなみに、こうした軸足回転は、誰もができるわけではない。どうしてもタイミングが遅れがちになるのだが、サンタナは強い上半身と柔らかい腕の使い方でカバーできているのだ。

 こうしたスイングができていれば、必然的にボールを長く見ることができる。我々の時代は、「ボールを引っ張ってくる」と表現したものだが、長く見られるということはそれだけ見極めがよくなり、ミートする確率も上がる。

 とはいえ、この軸足スタイルで外角の球を引っかけることなく逆方向に打てるのは、私も30年以上のコーチ経験があるが、やはり独特というしかない。

【日本スタイルへの対応力】

 ただ冒頭でも記したように、こうした技術的なポイントは、昨年までと大きく変わっていない。球種を読んで打つタイプでもない。

 3つ目のポイントを挙げるとすれば、3年間日本でプレーしてきたなかで、変化球の多さを実感し、アジャストしようと努力してきた成果が実を結んだのだろう。

 初球から変化球、決め球も変化球。そんな日本のスタイルを、頭ではわかっていても簡単に切り替えて打席に立てるものではない。これまで多くの外国人選手がこの攻めに苦しみ、苛立ち、自分のスタイルに固執して失敗した例は数えきれない。

 4年目ともなると、そうした選手たちを反面教師にし、いわば"日本での稼ぎ方"をきっちりつかんだということではないだろうか。日本のバッテリーの攻め方を研究し、対応する。これは日本で成功する外国人選手に共通するポイントである。

 あとサンタナにとって追い風となっているのが、ヤクルトのチーム事情だ。下位に低迷しているから、どのチームもバッテリーの攻めはそこまで厳しくない。

 とくに開幕後は5番に入り、村上宗隆のあとを打っていた。村上はシーズン序盤、やたらと四球が多かった印象があるが、相手からすれば「村上に打たれるくらいなら......」という状況で打席が回っていた。いわば"おいしい場面"での打席が多かったというわけだ。

 いずれにしても好調のポイントが明確ということは、疲れなどで微妙なズレが生じても修正しやすい。打撃コーチもアドバイスしやすいということだ。欲張ってボール球を強振するようなことがない限り、極端なスランプに陥ることもないのではないか。それくらい自分のスタイルというものを確立している。

 交流戦に入ったが、興味深いのはパ・リーグの投手がどんな攻め方をしてくるかだ。基本はインコースを意識させ、外の変化球で仕留めるというパターンだが、今年のサンタナにはあまり効果はないと思う。むしろ、真ん中の低めゾーンに落とすのがもっとも効果的なような気がするのだが......。

 昨年のデータを見る限り、サンタナか内角高めも4割近い打率を残している。外が好きな打者ではあるが、内角もさばける。こうなると落とし穴があるとすれば、欲を出して打ちにいったボールの打ち損じだろうか。

 それにしても、サンタナが打率トップ、村上が本塁打トップ、ホセ・オスナが打点2位......これだけの打者が揃っているにもかかわらず最下位というのは......ヤクルトOBとして悲しいね(苦笑)。

伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。62年に近鉄に入団し、77年にヤクルトに移籍。現役時代は勝負強い打者として活躍。80年に現役を引退し、その後はおもに打撃コーチとしてヤクルト、広島、巨人、近鉄などで活躍。ヤクルトコーチ時代は、野村克也監督のもと3度のリーグ優勝、2度の日本一を経験した。16年からは野球評論家、大阪観光大野球部のアドバイザーとして活躍している

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