ナイキ、ニューバランスのスニーカーが突如壊れる「加水分解」。対策は?

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2024年06月05日 16:11  日刊SPA!

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こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
スニーカーの加水分解をご存じでしょうか。靴底が、ある瞬間にまるで腐ったかのように一気に崩れて、履けなくなる現象です。とくに、クッション性を求めるスニーカーや、高価格の商品に起きるので、トラウマになっている方もいるでしょう。

加水分解を引き起こすのは、ニューバランスやナイキといった超大手メーカーに多く、しかも高額であっても起きるのでたちが悪い。

◆突然靴が壊れる加水分解とは?

こちらは、5〜6年ヘビーユーズして、まさに突然ソールが壊れたNB「574」。腐ったように崩れている箇所は、ポリウレタンゴム(以下、ウレタン)です。ウレタンは空気中の水分と化学反応を起こして、加水分解します。ウレタン本来の弾力性がなくなり、もろく硬化して崩れる現象のことです。日本の湿度であればウレタンの製造から3〜4年でこの現象が始まります。重要なのは、加水分解は「靴の製造から」ではなく、「ウレタンの製造から」始まることです。一度も履かずに大事にしまっておいたスニーカーや、メルカリなどで「新古品」として買った靴でも、見た感じでは新品でも、足を入れた瞬間、あるいは手に取って持っただけでウソのように壊れることがあります。泥のようにネバネバと崩壊するケースと、砂のようにさらさらと崩れるパターンがありますが、修理が不可能なのはどちらも同じです。

これらは不良品ではありません。メーカーはスニーカーを「走るもの、試合や練習で酷使するもの」として設計・製造します。つまり、クッション性と摩耗に強いウレタンを採用することで、2年程度で履き倒すという設計思想で作られているのです。

ところが日本人特有の「もったいない」精神や、コレクションなどの理由で履かずに数年たつと、悲劇が起きます。対処法は、高価であっても「履いて歩くこと」。シンプルですが、一番効果的です。経験談なので断言しますが、履くことでウレタンが体重で圧縮され、中の水分が押し出されることで、放置しているよりも長持ちします。

こういったメーカー側の事情を理解したうえで、どんなモデルがウレタンを採用し、加水分解するのか具体的に挙げていきましょう。まずはナイキの「エアが見える」タイプ。典型は「エアマックス」や、「エアジョーダン」シリーズです。

これらのシリーズは例外もありますが、ちゃんと履かないと数年で加水分解します。エアマックスもエアジョーダンもモデルによっては高値がついていて、履くのがもったいなくなる気持ちはわかりますが、履かないとさらにもったいないことになります。ナイキは「エア」自体もウレタンのカプセルでできているので、これも加水分解します。透明だったエアが気づいたらだんだん曇ってきたと感じたら要注意。加水分解の一歩手前なので、遠出の旅行などには履かないようにしましょう。

ちなみに競技用やアウトドア系の最新モデルではウレタンはほとんど使われていません。「エア」はひと昔前の技術で、今の素材はウレタンよりはるかに軽く、弾力があって耐久性も高い素材が使われているので、加水分解はほぼ起こらないからです。

◆アメリカ&イングランド製のNBも危険度が高い

次にスニーカーマニアの間で恐れられているのがニューバランス。ポイントはいくつかありますが、一番わかりやすいのは、高価な「アメリカ製・イングランド製」。これらのシリーズの底はほぼ100%ウレタン素材なので、残念ながら履かないと加水分解します。アメリカやヨーロッパは日本に比べて乾燥しているので、使用期間が同じであっても加水分解しづらい。ひきかえ日本は湿度が高いうえに、海外モデルは往々にしてコレクションとして取引されるので、ショップで眠っている時間が長く、自宅で長期保存される方がほとんどで、悲劇に遭遇する方が後を絶ちません。

これもとにかく「履く」ことで、加水分解を遅らせることは可能。真空パックで空気にさらさない方法もありますが、それはあくまでコレクターの話です。筆者は10足以上アメリカ製・イギリス製のNBを履いてきましたが、アッパーが先にダメにはなることはあっても、ソールの加水分解は起こしたことがありません。どれも履き倒すことで平均7〜8年はもっていました。

アジア製の廉価版モデルであっても冒頭の「574」は要注意。履かずにいると3年、ヘビーユーズしても5〜6年で加水分解します。加水分解は、接着剤が効かないので原則、修理はできません。靴底全体を取りかえるオールソールという方法はありますが、両足で1万円以上かかり、履き心地もオリジナルとまったく違ってくるので、あまりおすすめはできません。

廉価版の場合、かなりわかりやすい見分け方があります。カカト当たりのミッドソールに「C-CAP」(EVAという発泡スポンジ製)と書いてあればセーフ、「ENCAP」と書いていたらウレタンが使われています。

廉価製品の代表作に「996」というモデルもありますが、こちらは「C-CAP」なので加水分解は起きません。私も「996」は10年以上履いているものがあります。

◆ナイキ、NB以外は加水分解しない

いかんせんゴムが「ウレタンか、ウレタンじゃないか」は、素人でもプロでも見分けるのはほぼ不可能です。ショップの店員さんに素直に聞いてみましょう。たいていはすぐに答えてくれるか、メーカーに問い合わせてくれます。なるべく長持ちさせたい場合は、店頭での確認は欠かせません。

ちなみに同じスニーカーでも、アシックス、アディダス、HOKA、プーマ、リーボックなどは、メーカーの意向なのかウレタン素材の靴がほとんどありません。サロモンなどアウトドア系のメーカーも、基本的には登山中の事故につながりかねないので、ウレタンは使いません。

靴の加水分解は精神的ショックだけでなく、歩いてる途中で壊れると本当に危ない。道端でなぜか靴底だけ放置されている風景を見かけたことがあるはずです。実はあれが加水分解の成れの果てです。特に夏は湿度も高く、危険です。夏が終わって靴をしまう時も、靴箱にいれてはいけません。湿気の逃げ場所がなくなるので、100均のメッシュでできている巾着などに入れて、押し入れの上段などにしまいましょう。多少は加水分解を遅らせることができます。

【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」

このニュースに関するつぶやき

  • ほぼ毎日や1日おきに履いてる靴でもナイキ…パックリ割れ→スポーツクラブでアロンアルフア借りて仮留め→スタジオプログラムを乗り切ったことが…。今から思えば危険だったかも…exclamation & question
    • イイネ!1
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