ハンバーガー業界で“圧倒的な差”をつけるマクドナルド。業界2位のモスバーガーに勝ち目はあるか

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2024年06月05日 16:11  日刊SPA!

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ハンバーガーチェーンの絶対的王者マクドナルド
 7000億円規模と推計されるハンバーガー系ファストフードの市場規模。各社が物価・人件費・物流コストなどの上昇で厳しい環境で戦っている。市場規模は安定はしているが、ハンバーガーの「400円の壁」というのが存在するのをご存じだろうか。
 マーケティングリサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した「価格に関する調査(2023年)」(全国20歳〜69歳の男女を対象)によれば、ハンバーガーの最適価格は307円。妥協価格は400円となっている。この壁を越えるために各社がさまざまな知恵を出しあっている。

◆しのぎを削るハンバーガー業界

【ハンバーガーチェーンの店舗数(2023年4月時点)】
1位:マクドナルド2951店
2位:モスバーガー1292店
3位:ロッテリア308店
4位:バーガーキング186店

 店舗数1位の「マクドナルド」と2位の「モスバーガー」はよく比較されるが、店舗数は倍以上の開きがあり、経営スタイルも異なる。

 商品では大量生産で低価格イメージのマクドナルドと、価格は少し高いものの品質が高いイメージのモスバーガー。人通りが多い一等立地に出店するマクドナルドと、人通りが少ない2等立地に出店するモスバーガー。マニュアルを遵守した接客サービスのマクドナルドと、フレンドリーな接客のモスバーガーなど……ざっと挙げただけでも好対照な両社である。

 店舗数ランキング3位のロッテリアは外食最大手のゼンショーから2023年4月に買収された。既存店舗の再生に力を入れながら、ゼンショーとロッテリアの融合で新業態であるゼッテリア(9店舗出店中、2024年5月時点)を出店したが、ゼンショーのハンバーガー業界への本格的な参入に注視したい。

 4位のバーガーキングは前年比20%と急伸している。一度、日本から撤収したが、再上陸し、話題性ある企画などで若者を中心に人気だ。日本市場への攻めの姿勢が顕著であり、今は店舗数も少ないが競合店にとっては脅威な存在になるかもしれない。ちなみにバーガーチェーンの範囲を広げると、ケンタッキーは1194店展開している。

◆ファミリー層の獲得を目指すマクドナルド

 マクドナルドは1990年代〜2000年代前半まで価格破壊で消費者を驚かせ、徹底した低価格路線で集客力を強化して規模の経済を発揮していた。「週末は家族でマクドナルドに行こう」などのイメージが定着し、幸せな家族の憩いの場といったブランドイメージもあった。

 しかし、低価格路線を推し進めたため、若年層に限られた客席を占領され、ファミリー客が締め出されるようになってしまった。当然、業績が悪化したため2000年後半に入ると方針を転換し、価格帯の拡大と商品バリエーションの拡充で店の雰囲気の刷新を図った。

 同時に高価格帯の商品の投入、味と品質重視の商品、ボリューム感ある商品の拡充、キャンペーン商品などの頻繁な導入で、主要顧客層であるファミリー客とその周辺顧客の囲い込みを図っていった。

◆営業利益率10%を上回るマクドナルド

【マクドナルドの業績(2023年12月期)】
売上:3819億円(直営2596億円、FC1222億円)
原価:3100億円(直営2356億円、FC744億円)※人件費含む
原価率:81.2%
総利益:719億円
販管費:299億円
営業利益:419億円
営業利益率:10.9%

 日本マクドナルドホールディングスは他人資源を効果的に利用した効率経営で本業の儲けである営業利益率は10%を上回っている。

 今や店舗の7割を占めるフランチャイズ店、社員の独立支援を積極的に支援し、経営理念共同体として同じ目的を共有し、強固な関係を維持している。これらにより固定費を軽減し、損益分岐点の低い経営を実現している。もちろんリスク回避も万全だ。

◆モスバーガーは高品質ゆえ原価率も50%超

【モスバーガーの業績(2022年3月期→2023年3月期)】
売上:784億円→851億円
営業利益:419億円→4100万円
営業利益率:4.4%→0.04%
自己資本比率:69.4%→64.3%

 モスバーガーを運営するモスフードサービスの決算書から見ると、売上は増加して851億円だが、営業利益は減少して4100万円となっている。収益性はマクドナルドと比較して低いが、自己資本は64.3%と充実しており、財務基盤は盤石である。

 モスバーガーの2023年3月期の原価率は54.6%とやはり商品力の強みがあるだけに高くなっているようだ。昔は直営店中心のマクドナルドだったが、今は7割がフランチャイズとなっている。

◆フランチャイズモデルに見る両社の違い

 マクドナルドの総店舗数は2951店だが、そのうち7割はフランチャイズである。かつては本部の管理統制を重視するために、ほとんどが直営店であったが、経営効率化として全国各地で直営店のFC化を進めた結果、逆転現象が起きている。

 一方のモスバーガーは2024年4月末日時点で、総店舗数1341店(直営6店、FC1268店)となっており、海外は451店展開している。

 そもそも経営リスクはFC加盟店が取り、本部は毎月の安定した固定費としてもらうといったビジネスモデルになっている。他社の経営資源を活用しながら店舗数を維持拡大できて、スケールメリットも享受できる。本部は労務管理を含めて店舗マネジメントの負担を軽減できるから、効率経営を実現できることになっている。

◆好立地のマクドナルド、不便な立地のモスバーガー

 マクドナルドの売上利益のほとんどは、FCへの不動産の賃貸料・リース・売上に対するロイヤリティである。一方、モスバーガーは最初からFCビジネスを想定したパッケージモデルを開発していたからほとんどがFCである。

 好立地のマクドナルド、不便な立地のモスバーガーとも言われている。マクドナルドはコストリーダーシップ戦略で、低価格で販売シェアを高めても確実に店の利益が確保できるようにしており、ロスリーダー的商品の販売で顧客吸引力を高めて、利益率の高いセット商品などで確実に利益が確保できるようにしている。またそういったことが可能になるよう合理的な体制を整備している。

 モスバーガーは家賃が安く、固定費の負担が小さくて、加盟店オーナーが儲かる仕組みを提供し、経営理念共同体として確立していた。

 以前、某チェーン店がリーダー企業が値下げして売上を急伸したのを見て、それに追随しようと合理的基盤が確立できていないのに、単に値下げした追随型ディスカウント戦略を展開し、経営が苦しくなった事例があった。単にその場しのぎの追随戦略はするべきではない。

◆外食売上1位と経営の考えが全く違う!

 現在の外食売上ランキング1位はゼンショーだが、その座を明け渡す前のトップはマクドナルドだった。マクドナルドは、直営店中心の運営をFC事業中心に変更し、売上至上主義から利益至上主義に転換した。

 計画的な売上抑制であるマクドナルドの売上は、1位ゼンショーの半分以下の3819億円だが、営業利益は408億円で10.7%と2桁以上の高収益率である。経営路線の変更が如実に数字に表れている。

 ゼンショーグループは外食売上ランキング首位で、多種多様な業態を傘下に持つ外食最大手である。M&Aを駆使した成長戦略で、連結売上7799億円、総店舗数1万283店舗、傘下に19ブランド(2023年3月末時点)を保有する規模を誇っている。収益性は営業利益217億円、営業利益率は2.8%となっている。

 売上規模が大きいとスケールメリットが発揮できたり、取引先との力関係で優位になることも多いが、マクドナルドはそれよりも効率経営による確実な利益の確保とリスク回避を選定したのであろう。

 これらは、財務状態を見ても、自己資本比率が28.2%のゼンショーに対して72.8%と高いマクドナルドでは、資本の安定性に大きな開きがあり、両社の戦略の差が如実に数字に表れている。

◆両店の価格差はほとんどなくなっている

 低価格商品の販売でも採算がとれるよう、コストリーダーシップ戦略で市場を牽引してきたマクドナルド。しかし、低価格で客層に変化が生じて店に負のイメージが浸透してしまったため、商品の付加価値化で負のイメージを払拭する路線に転換してきた。

 マクドナルドには元祖ハンバーガー170円はまだあるが、ランチタイムに対応した昼マックはクーポン券使用で600円台である。同程度の金額を使うなら低価格のファミレスに行く人も多いだろう。

 商品による差別化で対抗しようと考えていたモスバーガーは、高価格、高品質という高級路線を推進し、商品に原価をかけていた。もちろん、美味しく品質の高いハンバーガーの提供を維持するなら、それなりの価格が必要だ。だからマクドナルドとは100〜200円の価格差があったが、少し高くても鮮度が高く手作り感があるモスバーガーを好むお客さんは多く存在し、そういったグルメ志向のお客さんに支えられていた。

 以前は、お客さんが持つ両社のイメージとしては、低価格のハンバーガー店のマクドナルドと、少し高いが商品力が強いモスバーガーというイメージが定着していた。しかし、マクドナルドとモスバーガーの価格差がなくなってきているといえるのではないだろうか。

◆競争による品質向上と価格低下を期待したい

 マクドナルドの店内飲食、テイクアウト、デリバリーと各機能が有効に活かされ、特にドライブスルーなどはお客さんの利便性を考慮したオペレーションになっており、機会損失を軽減した体制である。こういった収益機会の確実な増大は、他社への明確な差別化にもなっている。

 週末のピーク時間帯のスタッフの多さも、よくここまで集められたと感心するし、工程管理や動作研究を勘案し、コンパクトで作業動線の短縮化を実現したカウンターとキッチンで30人近くが所狭しと働いている光景には驚く。外に出ればドライブスルーに担当者が付き、ウーバーイーツとは別にマックデリバリーも多くが配達に奔走している。

 店舗数で圧倒的な差をつけるマクドナルド、昔から商品力に一定の評価があるモスバーガー、外食最大手のゼンショーの傘下に入り再生を目指すロッテリアと融合店のゼッテリア、新たな発想でまた市場を開拓しようと復活中のバーガーキングなどが競い合っている。これらの競争による品質向上と価格低下を期待したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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  • マクドナルドやバーガーキングやロッテリアはクイックサービスだが、モスバーガーは2004年からファストカジュアル転換を目指している。一律に比較しなさんな。
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