いまだ最適解が見いだせない「不登校」問題、“見守り”や“寄り添い”が行き過ぎてより残酷な結果にも…自立支援の課題

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2024年06月06日 11:30  ORICON NEWS

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株式会社スダチ 代表取締役 小川涼太郎氏
 新学期や夏休み後など、大型連休明けに増えると言われる不登校。年々増加の一途を辿っていることから、今は「小1の壁」「小4の壁」と同じく、親子で乗り越えるべきハードルのひとつともなっている。そんな悩みを脳科学に基づいた独自のメソッドで解決しているのが「不登校支援サポート スダチ」。平均3週間で相談者の90%を再登校へと導いているこの支援サービスを提供する小川涼太郎氏に、今の時代ならではの不登校の問題点、親や学校・社会がどう取り組みべきか、方法論を聞いた。

【スダチ動画】”得意を伸ばせば自立できる”「その考えマズイです…」不登校の子を持つ親の質問に回答

■子どもを否定してはいけない社会の風潮も「“尊重”と“甘やかし”は違う」

━━文部科学省の発表によると、2022年の小中学校における不登校児童生徒数は前年比22.1%増の29万9048人で、9年連続増加の一途を辿っています。不登校が年々増えている要因は何だと考えられますか?

 一番の要因はデジタル機器の普及だと思います。スマホなどのデジタル機器は脳内に快楽物質であるドーパミンを放出させるため、依存症に陥りやすい特性があります。麻薬依存と同じ状況が脳内に起こるので、学校に行こうと思えなくなってしまうのです。実際、不登校で相談に来られる親御さんのほとんどは、お子さんのデジタル機器との付き合い方に悩んでおられます。男の子はゲームが多く、女の子はYouTubeなど動画系に依存する傾向が強い印象です。

━━メディアで取り上げられるのは、いじめられて不登校になるパターンが多いように思いますが、実際はデジタル機器の依存?

 皆さん驚かれる方が多いのですが、いじめが原因での不登校は全体の1%にも満たないのが現状です。いじめの事実が認められた時点で、学校をあげて対処するよう定められていますし、教育委員会を含めた大問題として解決に向かうよう取り組むからです。より深刻で根本的な原因は、スマホやゲーム依存から来る“生活リズムの乱れ”です。

━━学校への行き渋りが起きたとき、まず、親としてはどのような対応をとるべきなのでしょう。

 今、“多様性”という言葉が世界的なキーワードとなり、子どもを否定してはいけないという風潮があります。多くの不登校ケア専門家が「まずは見守りましょう、寄り添いましょう」とアドバイスする。それはもちろんそれは重要な考え方ですし、「子どもの話を聞く」ことは大切です。しかし、「学校に行かないで1日中ゲームをしていたい」ということも聞くべきなのか。“尊重”と“甘やかし”は違います。ダメなことはダメと言う、いわゆる躾を行うことは子育ての大変重要な要素です。子どもの好き放題を許していると、子どもは親に対して尊敬の感情を抱かなくなります。親を尊敬できなければ、子どもは「親の言うことを聞く必要はない」と判断する。正しい親子関係を築くことが難しくなっていると相談を受けることが増えているのも現代の特徴かもしれません。

━━親子関係を築くことが難しい背景として感じられることは?

 現代の親御さんは、核家族で、子育てを手伝ってくれたり、アドバイスをくれる祖父母も近くにおらず、いわば上司がいない環境で一人で仕事をしている状況です。ただ、先にも申し上げたとおり、学校を休んで、ゲームや動画を見続けている状態を放っておくことは、家でずっと麻薬を打ち続けているのと同じです。確実にスマホ依存は加速して、学校に行けなくなり、親子関係は逆転してしまいます。そうして何年も時が経って、もうどうしようもない状態になって我々の元へ相談に来られるというのはよくある流れです。

■“家庭内のルール”を決め、絶対に守らせることが不登校解決への一歩

━━登校を促したら反発され、さらに親子関係が悪化したという話もよく聞きます。

 親子関係が逆転した状態で、親が子どもに注意を促せば、子どもにとっては部下がいきなり反逆してきたみたいな感覚になるので、当然、反発は起きます。とくに中高生になるとその度合いも大きくなります。しかし、そこは覚悟のうえで、耐えて、しっかりと向き合わなければなりません。ここで何より重要なのは、叱るのではなく、「〇〇のことを思って言っている」ということを、愛情持って伝えることです。そうすれば、一定の反発はあっても、3日くらいで収まります。こちらは何も間違ったことを言っていないのに、それで反発してくるのはおかしいことなのですから、その点もしっかり自覚させなければいけません。まず、登校を促す前に、家庭内のルールを決めて、生活習慣を改善すること。このルールを守らせることが、不登校解決を促します。親御さんと面談をする際も状況把握のうえ、このルール作りから始めます。

━━家庭内のルールを決めるとは、具体的にはどのようなことをしたらいいのでしょう。

 例えば、学校を休んだら家でデジタル機器は一切使わないというルールを決めます。なぜならば、学校を休むのは、次の日に学校に行けるようになるために病気やケガを治すことが一番大事なのだからという理由もきちんとお子さんに説明しておきます。このルールだけで翌日から学校に行けるようになった子はたくさんいます。さらに、このようなルールを生活全般においてもいろいろ作ります。もちろんデジタル機器の制限は細心の注意が必要ですので、十分な準備と対策を実施の上実施する必要があります。そして、一つひとつについて、できたら褒め、それを守らせます。法律や会社の規則に違反したらペナルティを受ける一般社会と同じです。

━━生活全般ではどのようなルールが必要なのでしょうか。

 不登校の子どもには昼夜逆転しているケースが多いですが、朝起きられないのは、夜、ゲームなどデジタル機器を使っているからです。スマホにはブルーライトなど脳の覚醒を導く要素がたくさんあるため、当然、寝づらくなります。さらに昼夜逆転の生活になって日光を浴びなくなると、セロトニンという幸せホルモンの分泌が正常にされなくなり、メンタルが不安定になってしまいます。ですから、朝は何時に起きるというルールを決めて、頑張って起こし、食欲がなくても飲み物だけでもいいから、家族と一緒に朝食の席につくようにする。そして夜は何時以降はデジタル機器を見ないというルールを決めて、“家族全員で”それを守る。

━━親も徹底してそのルールを守るのですね。

 親御さんが子どもの前で麻薬を打っていたら、子どもも打ちたくなるのは当たり前ですからね。親御さんも仕事でやむを得ない場合を除き、デジタル機器には触れないようにします。そうして今までできなかった行動ができるようになったら、きちんと褒める。不登校の子どもには、自己肯定率が低くなっているケースも多く見受けられます。こまめに声掛けを行い、コミュニケーションをとることで、子どもの自己肯定率が高まり、学校に行こうという気持ちにもポジティブな変化が芽生えます。不登校がどのような理由であっても、アプローチは変えず、まずはルールを守る習慣化を促していきます。

━━ネット上には、「明日は学校に行くから」とやっと言ってくれたのに、実際、朝になると、やっぱり行けなかったという親御さんからの苦悩の声も多く上がっています。

 それは、“あるある”ですね。でもこれは、脳科学的に当たり前のことなんです。私たちの脳にはホメオスタシス(恒常性)を維持する働きがプログラムされていて、一定の環境に慣れたら、そこから抜け出すときに止める反発が起きます。これまで何ヵ月も何年も行けなかった子が「行きたい」と本気で思っていても、いざ朝になったら、脳が反応してやっぱり行けなくなってしまう。これは、何回か繰り返しているうちに必ず乗り越えられますので。その間、先に申し上げたようなデジタル機器との付き合い方や生活習慣の改善、お子さんが自己肯定感を高められるよう親子のコミュニケーションを増やすなどの取り組みを継続していくことが重要なんです。

■“社会に出たら理不尽だらけ”なのに、「自由にやればいい」と気軽に言えてしまう風潮に警鐘

━━一般的な不登校や自立支援サービスは、親とは別に子に寄り添ってくれる他者がいて、対面にて改善指導を行うイメージがありました。しかし、スダチさんの場合は、家庭に介入することなく、子に存在を知られないよう徹底されています。あくまで子を導くのは親であるとする理由は?

 最終的に親子関係が良くなることこそが本質的な解決と考えているからです。寄り添ってくれる他者がいたとしても、その子のそばに一生いてくれるわけではないですよね。その人がいなくなってしまった時、また元に戻るようなことがあってはいけないのです。親子の距離を置かなければならないほど関係が破綻していて、他者が必要な場合ももちろんありますが、親御さんからの声掛けによって再登校できたほうが、親子の信頼関係は明らかに深まりますよね。他者を介在させるよりも、圧倒的にメリットが多いのです。

━━再登校できたら、もう心配はいらないのでしょうか?

 不登校を解消した後も、「勉強」「友達関係」「部活」などなど、親御さんの悩みが尽きるわけではありません。その現実を知って、再登校したお子さんを持つ親御さんが相談できる場所を作ることが重要だと考えました。弊社では、支援後の親御さんのお悩み相談コミュニティの「スダチサロン」を作り、現在300名を超す参加者がいます。なかなか相談できないことまで、オープンに会話できる場所となっています。親御さん同士の交流を含め、サロンが再登校以降も最後までお子さんが学校生活を楽しく過ごすことができ、社会に巣立つ一助になるならば、価値があると考えています。

━━最近では「学校なんて行かなくていい」という意見も取り沙汰されます。不登校問題に取り組まれ、実績を残されている中、今後、社会にどのような変化を望まれますか?

 最終的には子どもたちは社会に出なければなりません。社会に出れば、競争が始まり、そこでは自由に好きなことだけやっていたら評価されないし、理不尽もたくさんあるのが現実です。それらを無視して、「好きなことだけやればいい」「自由にやればいい」という今の社会の雰囲気、教育現場の状態には大きな違和感を抱いています。親や教育者の役割は、子どもたちを自立させて社会に送り出すことです。そのためには厳しいこともある程度言わなければいけないし、できないことをできるようになるためには苦しい時期もあるということをしっかり教え、そこに向けて努力する必要も教えなければなりません。“見守り”や“寄り添い”が行き過ぎた結果、今の世の中は子どもにとってむしろ残酷な事態になっているのではないか。その風潮が変わり、未来を担っていく宝である子どもたちを育てるために、本当の意味で子どもたちがこの先人生を幸せに生きていくために必要な力を養う観点を持つ人が一人でも増えていけばいいなと思います。


PROFILE/小川 涼太郎
株式会社スダチ 代表取締役
「不登校で悩んでいる人たちを1人でも多く救いたい」という想いから、2020年4月、不登校支援事業開始。2024年6月時点での再登校人数は990名を超え、平均再登校日数は18日。再登校率は90%を超える。DMMオンラインサロンにて、支援後の親御さんお悩み相談コミュニティ【スダチサロン】主宰。

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