マツダは、2023年度の業績で過去最高益を記録した。売上高は4兆8276億円、営業利益は2505億円。営業利益は前期比で76.4%もの増加を見せている。これは円安の影響ももちろんあるが、販売が好調であることが最大の理由だ。
近年、マツダ車を魅力的に見せているポイントは、大きく分けて3つある。1つ目はスタイリングだ。2012年にデビューした「CX-5」から採用された「魂動デザイン」と呼ばれるデザインテイストは、国内外で高い評価を受けている。
だが、マツダのデザインは昔からデザイナー(グラフィックデザイナーなどクルマ業界以外のデザイナーたち)からの評価が高かった印象がある。かつて存在したユーノスブランドの各モデルや、初のロータリーエンジン車となったコスモスポーツのデザイン性の高さは有名だが、ロータリー搭載のコンセプトカー「RX500」も社内デザイナーが手掛けた作品だと知ったとき(それも最近)には、少々驚きを覚えた。
当時は日本車でも、イタリアのカロッツェリアなどからデザインを買っていたことも多かった時代である。コンセプトカーは、そのメーカーの思想やセンス、技術力を示すものであるから、社内でデザインされるのが本来であるが、その頃のコンセプトカーを見比べてもRX500の洗練ぶりはダントツだった。
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BMWのキドニーグリルやメルセデスのスリーポインテッドスター(これはエンブレムを強調しただけで、昔は風格のあるフロントグリルがアイデンティティーだった)など、アイデンティティーを確立させたデザインは欧州に多い。マツダの魂動デザインは、このまま進化し続けていくのではないかと思わせるほど、その顔つきに個性と品格を感じさせる。
そして最新のマツダデザインと言える作品が、今年4月に北京モーターショーで発表された2台のモデルだ。とりわけ「EZ-6」というセダンは市販予定車で、まだセダンの需要が根強い中国向けに用意されたモデルなのであろうが、端正なスタイリングは日本市場でも通用しそうだ。
BEV(バッテリー式電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)のパワートレーンは中国の長安汽車が手掛けたようだが、マツダのクルマとして妥協のないデザインであると感じ取れる。
●エンジンで分かる、クルマへの熱意
2つ目はエンジン技術である。最近復活を果たしたロータリーエンジンや、ガソリンでの超希薄燃焼を実現するHCCI(均一予混合圧縮着火燃焼)の現実版であるSKYACTIV-Xなど、独自のエンジン技術をいくつも保持しているのは、世界的に見てもまれな存在だ。
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最新のクリーンディーゼルである直列6気筒エンジンは、驚くべき燃費性能を実現している。さらに、負荷の高い領域をモーターでアシストすることで、現在のマイルドハイブリッド仕様より燃費性能を高められる道筋も見えている。
トヨタのTHS(トヨタハイブリッドシステム)は燃費性能においては素晴らしいが、「エンジン車に乗っている」感はあまりない。ダイナミックフォースエンジンもかなり追い込まれた高効率エンジンだが、ハイブリッドの陰に隠れている感が否めないのは残念だ。
それにトヨタの全方位戦略は見事だが、あれはトヨタの企業規模だから採用できるもので、マツダで同じことをやればたちまちリソースが不足して中途半端な開発しかできないだろう。
これまでマツダはエンジンには力を入れるものの、トランスミッションはどちらかというと後回し的な印象であった。FRプラットフォームには8速ATが新設定されたが、横置きATも多段化などさらなる洗練を望みたいところだ。
●ドライバーを楽しませるクルマづくり
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3つ目はドライビングの追求である。どんなに優れたパワートレインやスタイリングデザインを実現しても、運転していて退屈なクルマであっては、飽きが来る。ここにマツダ車が人気を博している理由がありそうだ。
もちろんドライバーによっては「ひたすら楽な方がいい」という向きもあるが、そんな人はトヨタ、日産をはじめとするメジャーな自動車メーカーの最新モデルを選ぶだろう。一般的に、消去法でクルマ選びをするユーザーは、そもそもマツダ車を選ばない(ケースバイケースではあるが)のだ。
他メーカーでは飽き足らずマツダ車を求めるユーザーは、ドライビングにこだわる傾向も強い。ドライビングポジションや操作フィールにこだわり、運転を楽しみたいユーザーを育て、獲得するためにマツダはリソースを割いている。
シートの座り心地やホールド性といったパッシブな要素に加え、アクセルへのオルガンペダルの採用、ステアリングやペダル位置のドライバー中心からのオフセットの解消など、「いかに自然に運転操作ができるか」というポジションへのこだわりがある。ステアリングフィールやペダルフィールといった、人とクルマの対話についてもとことん追求している。
もちろん他の自動車メーカーも、このあたりの作り込みを怠っているわけではない。しかし他社よりもこだわりや熱量の高さを感じるのは確かだ。これはサプライヤーからも証言(泣き言?)を得ている。
●運転を楽しめる環境づくりに熱意
さらに、ドライバーの側に立った「使う楽しみ」の環境を提供することも忘れていない。それは走る場所を提供したり、走るステージを引き上げたりすることでも展開している。
走る場所というのは、マツダ・ロードスターのワンメイクレースとなるパーティレースはよく知られるところだが、それ以外にもJAFライセンス不要で仲間と楽しめる「マツダ・ファン・エンデュランス」(通称:マツ耐)といった、マツダ車であればさまざまな車種で楽しめるレースをサポートしている。3時間の耐久レースは、1人でやり抜けるものではないから、チームでゴールを迎えた時の達成感もひとしおだ。
その他にも、最近はレーシングゲームも広く普及していることから、プレイステーション用ドライビングシミュレータ「グランツーリスモ」とコラボして、バーチャル上でロードスターのワンメイクレースでのシリーズ戦を開催。シリーズランキング上位者を選抜してマツ耐に参加してもらう「バーチャルからリアルへの道」というプロジェクトを継続中だ。
実車のパーティレースの年間王座を獲得したドライバーをスーパー耐久選手権のドライバーとして抜てきするなど、ご褒美とステップアップへの道を用意している。運転を極めたいと思っているドライバーにとって、憧れの環境を用意しているのだ。
重要なのは、長期的な計画で物事を進めていることだろう。短期間の実施では、参加者数や全体のレベルなどが上下にブレることもあり、成果はつかみにくい。
日産もかつてはグランツーリスモとコラボして、レーシングドライバーを育てるプロジェクトを実施していたが、今はエントリーレベルの活動は途絶えてしまっているのが惜しい印象だ。こうした活動は続けることに意義があるから、自動車メーカー各社は何らかの方法でドライバーを生み出す活動を続けていく必要があるはずだ。
●エンジンの未来を感じた矢先の試験不正発覚
マツダはこれまでエンジンの可能性をとことん追求してきた。ここ数年はBEVへの取り組みが進んでいないと評価されるシーンもあったが、そうした確固たる姿勢がBEVの真の姿(実際はCO2排出量の削減にあまりつながらないという実情や需要不足など)が露見されるとともに、再評価されつつある。それも業績につながっているのだろう。
トヨタは既存のマスコミ以外のSNSやネット媒体なども含めて、さまざまな評判が世間をにぎわせ、自社のイメージに影響を与えることから、以前よりも情報公開を積極的に行っている。マツダも同様に、発売するまで非公開としてきた新技術を積極的に公開し、市販までの熟成ぶりを楽しませてくれることもある。
モータースポーツの世界でも久しぶりにワークス活動を行い、スーパー耐久選手権でCNF(カーボンニュートラル燃料)やバイオディーゼル燃料の開発、次世代スポーツカーの研究などを他メーカーと“共挑”しながら鍛えていく姿勢を見せている。
先日、トヨタとスバル、マツダの取締役が開いた共同記者会見は、エンジンの未来を感じさせてくれるものだった。マツダに関して言及したのはロータリーエンジンだけだったが、レシプロエンジンについてもさらに開発を加速していくはずである。
そう思った矢先、衝撃の事実が日本の自動車メーカー各社から飛び出した。なんとダイハツ同様の認証試験での不正をトヨタ、マツダ、ホンダ、スズキ、ヤマハの5社が行っていたことが発覚したのだ。先の共同記者会見での意気込みに対して完全に冷水を浴びせた格好だ。
ダイハツの不正が発覚した時点で、国土交通省から各メーカーに同様の不正がなかったか確認が入ったらしい。それで改めて社内で調査を行ったところ、不正が分かったのである。
●これから日本の自動車メーカーに求められるもの
マツダに関して言えば、不正が行われたのは商品改良モデルのみ。つまり新規導入時にはそのモデルは認証試験をクリアしており、実質的な品質においては問題ないと言えるものだ。
トヨタもマツダも衝突試験の内容に関しては、むしろ認証試験で定められている条件よりも厳しい条件下で行っている。そうしたことでデータの正確性が問題視されているのであり、エアバッグのタイマー作動も確実にエアバッグを作動させるための対策だった。
だが「それは言い訳にならない」と言われるだろう。旧態依然とした制度はまず変えていく必要がある。それを置き去りにしたまま、現場でインチキをしたのでは、まったく信用されなくなってしまうのだ。
社内試験というある意味カンニングし放題の環境が、エンジニアを誘惑したのか。認証試験の内容が厳しすぎる、複雑すぎるという問題もあるのかもしれないが、日本の認証試験の制度自体が性善説すぎることも原因の一つだろう。
今回の問題の直接の原因は、一言で言えばリソース不足だろう。発売予定までのスケジュールがタイトな中で、工数のどこを削って遅れを取り戻すかという時に、これまでの実績から試験データを流用して認証試験をクリアしようとすることは誰もが考えつきそうだ。
「ユーザーが乗っているクルマの安全性には問題がないなら実害はない」。そう思うのは、メーカー側のおごりではないだろうか。これまで実直に試験を行ってデータを蓄積してきて、問題が生じなかったから実験や試験の繰り返しを無駄に感じてくるようなまひが関係者に生まれていたのだろうか。
すぐさま襟を正し、法規にのっとった実験や試験、ものづくりを行っていくべき――と言うのは簡単だが、大きな企業だけにすぐにガラリと変わるのは難しいし、変わっているかの確認も難しいものだ。
「技術力にあぐらをかいている」と思われないためにも、日本の自動車業界は根本から変わっていかねばならない気がするのは、筆者だけではないだろう。
(高根英幸)
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