限定公開( 4 )
衣替えの時期。街を歩くのに半袖の人たちも多くなりました。季節が進み、そろそろ各地で梅雨の話題も聞こえてきます。雨の日、庭や傘に落ちる水音も聞こえてくるでしょうか。耳を済ませたくなるようなこの頃、今回は音楽に関係した同人誌です。
●今回紹介する同人誌
『ガクフネ ドビュッシー 子どもの領分』A4 34ページ 表紙、本文カラー
●楽譜か? 絵か? イラストと音符の重なりを楽しむ
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こちらのご本にはフランスの作曲家であるドビュッシーのピアノ組曲「子どもの領分」の6曲の楽譜が収録されています。楽譜であれば中身は白い紙に黒い音符が並んでいるイメージです。しかしページをめくると、そこにはカラフルな色や大胆な線がたくさん! 実はこちらのご本ではそれぞれの曲をイメージした絵が、楽譜そのものに重ねられているんです。
最初の練習曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」はさまざまな色や形が飛び出てきているようなにぎやかさで、「人形のセレナード」は人形を思わせる形を見せながらやわらかな色合いがページいっぱいに広がります。抽象的な絵だけではなく、「小さな羊飼い」で牧場の風景が繊細に描かれているのもすてきです。6曲を3人のイラストレーターが担当され、楽譜でありながら曲ごとの違う視覚的なイメージが提示されます。
●音への呼び水を絵の力で
楽譜は演奏するのを目的としていますから、通常であれば読み取りのしやすさも求められるところでしょう。そういった意味では、こちらのご本は少し趣が違います。例えば「雪は踊る」では深みのある青緑色に白色で音符が示され、そこに雪を思わせるような水玉模様と、たくさんのウサギたちがかわいらしく楽譜と一緒に跳ねています。注意深く楽譜を頼りにしたいときには難しいかも? と思うようなぎりぎりの線を攻めています。
本来は演奏のためのものなのに、あえて絵を施したのは、“楽譜は同じ記号を読んでも演奏する人によって違いが生まれる。さらにそこに他人の解釈として絵を付け加えてみたら、どんなことが起こるだろうか?”と考えてのことだそうです。楽譜を音の源として大切にしながらも、もっとイメージを広げてみたら? そのきっかけに他者の感性ものぞいてみようよ! と呼びかけているように感じられました。
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●見る、読む、聞く、そして演奏も。音楽を取り込むさまざまなアプローチ
ご本では楽譜と絵に加えて、ドビュッシーや曲に関するコラムが差し挟まれます。例えば、ドビュッシーが住んでいた地の雪の降り方について補足するといった丁寧さが印象的です。「子どもの領分」はドビュッシー自身による実演奏の記録媒体が残っていることや、曲が生み出されたときから時代や社会が変化したことなど、複数の著者によるコラムは多彩な視点やエピソードで、曲に対する想像力がますます膨らみます。
私はすぐにこのご本を持ってピアノの前に行くような腕を持っていませんが、絵を見たり、コラムを読むのは楽しく、どんな曲だろう? と想像してわくわくしました。さらに、演奏のできる方は、楽譜という記号を読み解く際に、絵や文章を知ることでより解釈の幅を広めるためのきっかけになってくれるのではと感じます。
楽しく、自分の中に音を取り入れるためにあえて装飾してみる。感性の押し付けではなく、船の帆を広げて「さあ、好きな方向に風を吹かせて出発してみようよ!」と待ってくれているようなイメージを受け取りました。
●サークル情報
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サークル名:Compasser.
次回出店:藝祭2024アートマーケット、デザインフェスタ
X(Twitter):@compasser_art
●レビュー担当:みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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