ガイナックス破産を受け指摘された商標問題 カラーは各地の「ガイナ」冠する会社とは“許諾契約なし”と明言

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2024年06月09日 14:10  おたくま経済新聞

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おたくま経済新聞

ガイナックス破産を受け指摘された商標問題 カラーは各地の「ガイナ」冠する会社とは“許諾契約なし”と明言

 6月7日、アニメ制作会社の株式会社ガイナックスが自社ウェブサイトにて、5月27日に同社が東京地方裁判所に会社破産の申し立てを行い、受理されたことを発表しました。


 同社は1984年創業。現在は株式会社カラーが著作権を保有する「新世紀エヴァンゲリオン」をはじめ、「トップをねらえ!」「放課後のプレアデス」など、数々の有名作品を送り出した企業ということもあり、発表直後からネットではこの話題でもちきり。加えて、発表の中で今後に残る問題点も見えてきました。


【その他の画像・さらに詳しい元の記事はこちら】


■ 「旧経営陣による会社の私物化で経済状態が悪化」とガイナックス社

 破産の経緯について同社は「2012年ごろから見通しの甘い飲食店経営、無計画なCG会社の設立、運営幹部個人への高額の無担保貸付、投資作品の失注等、経営陣・運営幹部の会社を私物化したかのような運営により、経済状態が悪化していきました」と説明しています。


 2019年5月には、当時の代表取締役が未成年女性に対する準強制わいせつ容疑で逮捕。同社ではかつて在籍していたアニメ監督・庵野秀明氏が代表を務める株式会社カラーの支援を受け、2020年2月に経営陣の刷新を図りますが、その過程で金融機関からの多額の借入やアニメーション業界各社への債務不履行、旧経営陣やその所属会社、個人に対して正当な権利者の許諾のない状態での知的財産や作品資料の売却や譲渡が発覚しました。


 これを受け同社では、協力各社とともに作品の権利確認や、作家、クリエイターへの権利保護、そして散逸状態にあった知的財産や資料の管理、運用に取り組んだものの、「多くの旧経営陣が株主として残る状況に加え、前体制時に積みあがっていた高額負債解消には至りませんでした」と説明。今年5月に債権回収会社から債権請求訴訟の提訴を受け、業務の継続を断念、破産申立を行ったとしています。


■ 支援続けたカラー社も声明 「ガイナックス」商標は同社管理下に

 同社の経営支援にあたってきた株式会社カラーも、ガイナックス社の発表と同日に「株式会社ガイナックスからのお知らせに関して」と題した声明を自社ウェブサイトで公開。「弊社の立場からいくつか補足を致したく、ガイナックス社・現経営体制との関係性も考慮した上で、公式サイトにて本コメントを掲載申し上げます」と述べました。


 カラー社はかつてガイナックス社に所属していた庵野秀明氏が独立し、2006年5月に創業した会社。冒頭の通り、「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの著作権は現在カラー社が保有しています。


 声明の中でカラー社は「かねてよりガイナックス社の経営不振及び負債の存在を確認しておりました」と説明。経営に対して庵野氏が懸念を伝え、経営改善に向けた提案をしてきたものの、長きにわたり受け入れられなかったとしています。


 「そのような状況であっても、当時の経営陣からの申し出を許容し、カラーとして援助的な融資などを行ったこともありました」とカラー社。しかしガイナックス社の状況は変わらず、事態はさらに悪化を続けていったといいます。


 こうした事態を受け、庵野氏は「エヴァンゲリオン」シリーズを中心とする関連作品への風評被害を防ぐため、株式会社KADOKAWA、キングレコード株式会社、株式会社トリガーの3社へ協力を仰ぎ、各社から取締役を迎える形でガイナックス社の経営陣を刷新。未払の解消、各所に散逸した知的財産や資料の取り戻しに取り組んだものの、内情を把握した時点ですでに手の施しようがない状態であったということです。


 なお、「ガイナックス(GAINAX)」の商標、称号についてはカラー社が取得し、管理していくとしています。


■ 各地方の“ガイナックス”冠する企業は「ガイナックス社と別法人」

 カラー社のリリースには、さらに気になる記述がありました。ガイナックス社の元関係者たちが全国各地に創業した「ガイナックス」あるいは「ガイナ」を冠した会社についてです。


加えて「ガイナックス社」とは、「株式会社ガイナ(スタジオガイナ)」および「福島ガイナ」(以上いずれも、旧「福島ガイナックス」)、「ガイナックスインターナショナル(GAINAX International)」「GAINAX京都」「米子ガイナックス」「株式会社ガイナックス新潟」「GAINAX WEST」などの、類似社とは別の法人であり、弊社と上記類似会社との間での商標使用許諾契約は行われておりません。
(カラー社6月7日発表より)


 これらはガイナックスの元メンバー、旧経営陣によって立ち上げられた企業ですが、株式会社ガイナ、福島ガイナのようにガイナックス社との資本関係が存在しないところもあります。カラー社いわく、「ガイナックス」の商標使用許諾が現時点で結ばれていないとのことですが、これが事実であるとしたら、各社が「ガイナ」「ガイナックス」の名称が使用できなくなることを意味します。


 この件については、ガイナックス社も6月7日の発表で「付記」として記しており、上記社名を挙げた上で「今後、株式会社カラー様との間での利用許諾の無いガイナックス商標の運用は、不正使用となる可能性があります」と指摘しています。


付記:
弊社の屋号やブランドの他者による悪用、乱用を避けるため、「ガイナックス(GAINAX)」の商標はすでに株式会社カラー様に譲渡され管理をいただいています。
弊社ガイナックスは、「株式会社ガイナ(スタジオガイナ)」および「福島ガイナ」(以上いずれも、旧「福島ガイナックス」)、「ガイナックスインターナショナル(GAINAX International)」「GAINAX京都」「米子ガイナックス」「株式会社ガイナックス新潟」「GAINAX WEST」等の法人とは無関係であり、今後、株式会社カラー様との間での利用許諾の無いガイナックス商標の運用は、不正使用となる可能性があります。


弊社が管理しておりました作品の今後の運用については、破産手続きによる確定後、別途お知らせする所存です。
(ガイナックス社6月7日発表より)


 しかしながら6月7日時点で、カラー社・ガイナックス社が言及した各社ともに公式声明は一切行われていません。唯一、米子ガイナックス代表の赤井孝美氏が自身のXアカウントでメッセージを出していますが、「ガイナックス」名称の使用等については言及していません。各社の今後の動きが気になるところです。




■ 関係者間では偲ぶ声あがるもファン達は「何をいまさら……」そのワケは?

 ガイナックス社の破産発表を受け、SNS上ではさまざまな反応が見られました。かつてガイナックス社の作品に関わったクリエイター陣からは当時を偲ぶ声があがる一方、ファン達の反応は「何をいまさら……」と白けムードが多勢を占めています。


 冒頭でも述べた通り、「新世紀エヴァンゲリオン」の著作権はカラー社に移行しており、「すでにガイナックスは『エヴァの会社』ではない」ということ、さらに2019年の元代表取締役逮捕が決定打となり、この時点ですでに「ガイナックスは『抜け殻』の状態」という見方が広まっていたようです。


 鳥取県米子市の方言で「大きい、すごい」を意味する「がいな」に未知を意味する「X」をかけて名付けられたガイナックス。今回の一連の声明によって庵野氏による「がいな」尽力が明らかとなるも、痛恨に満ちた結果となってしまいました。今後の動向についてはまだ不透明な点が多いものの、庵野氏の努力が無にならない形となることを願ってやみません。


<参考・引用>
株式会社ガイナックス6月7日発表
株式会社カラー6月7日発表
米子ガイナックス代表・赤井孝美氏公式X(@akai_takami)


(天谷窓大)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 天谷窓大 | 配信元URL:https://otakuma.net/archives/2024060904.html

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