「退職代行も使えない」うつ病で休職中の中学校教員が語る“定額働かせ放題”の実態

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2024年06月10日 16:31  日刊SPA!

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関東の公立中学校に勤める島田さん。担当教科は英語
「残業が100時間を超える月はザラでした。勤務時間に応じた残業代は支払われず、基本給の4%が上乗せされるだけ。『教員は定額働かせ放題』という言葉は的を射ていると思います」
 そう語るのは、公立中学校教員の島田純一さん(仮名・29歳)。うつ病を発症し、休職してから半年以上経つという。島田さんを苦しめたのは過酷な労働環境と、それに見合わない待遇だ。

◆若手が運動部の顧問をやるのは暗黙の了解

「毎日5時に起きて7時に出勤していました。定時は16時半ですが、運動部の顧問をしているのでその時間に帰れたことはありません。やりたくなかったけど、『運動部の顧問は独身の若手がやれ』というのが暗黙の了解だったんです。

 部活動が終わるのが18時で、そこから翌日の授業の準備や課題の採点、テストの問題作成をします。20時に帰宅できたら早い方で、文化祭や運動会などのイベントが重なると23時を超えます」

◆休日に働いても手当はたったの3000円

 どんなに遅く帰宅しても、翌日は5時起きの7時出勤。土日くらいは体を休めてほしいが、部活動の顧問になってしまうと休日出勤は避けられない。

「大会の時期は最悪ですね。だいたい生徒が8時集合で、教員は7時集合。持ち回りで担当する大会運営者になってしまうと6時集合です。迷子などトラブルはつきもので、集合時間に来ない生徒がいると肝を冷やしました。

 生徒に何かあったらすべて私の責任ですから、平日以上に気を張っているかもしれません。そんな一日がかりの労働で、自治体から支給されるのは3000円。一度飲みに行けば消えてしまう金額です(笑)」

◆盗撮した生徒さえ“怒れない”ストレス

 時間的な拘束に加えて、時代に合わせ多様化してく業務も島田さんを苦しめた。

「GIGAスクール構想という『生徒一人に対して一台タブレット端末を支給する』という文部科学省の取り組みがあります。構想自体は立派ですが、文科省からは端末が送られてくるだけ。生徒全員分のタブレットに保護フィルムを貼っているときは気が狂いそうになりました。

 また、生徒がタブレットで盗撮したり、投げて壊したり…よく問題になっていました。ベテラン教員はめっぽう機械に弱くて、『若い人がやって』と知らん顔。生徒たちの方が詳しくて、昭和生まれの教員はバカにされています」

 上記のような悪事を働いたり、態度が悪い生徒に「怒る」ことさえできないと島田さんは続ける。

「学校の基本方針は『怒る』ではなく『諭す』でした。私が子供のころは叩かれたり叱られたりして終わりでしたが、今は少しでも声を荒げようものならすぐに学校にクレームが入ります。『諭す』というのは時間がかかるし、その姿勢を舐めてくる生徒もいます。とにかく、根気がいる指導法です」

◆あまりの忙しさに転職を考えるも…

 島田さんは多忙を極め、ついには授業の準備さえ満足にできなくなる。仕方なく、何度か「やっつけ授業」をしてしまうこともあった。

「高校生の時、尊敬できる先生の授業おかげで、苦手だった英語を好きになれたことが教員を志したきっかけでした。最も注力すべき授業に向き合えていないと感じてから、歯車が狂っていった気がします。もう一度教壇に立ちたい気持ちはありますが、今の環境のまま戻ってもうつ病が再発すると思います。

 転職を考えていますが、今の精神状態だと辞表を出しに行くのもしんどい。退職代行会社に相談したら『教員は労働基準法の適用外なので、サービスの対象外です』って言われて驚きました。つくづく、自分がいる組織は普通じゃないんだって実感しましたね」

 文部科学省は残業に対する手当を基本給の4%から、10%以上への引き上げを検討していると報じられたが、基本的な「定額働かせ放題」の枠組みは変わらない。”普通じゃない組織”の形態は続いていく。

取材・文/日刊SPA!編集部

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