日米韓チェーンが激突! マムズタッチ進出で活況の「渋谷バーガー戦争」、それぞれの戦略

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2024年06月11日 06:40  ITmedia ビジネスオンライン

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マムズタッチ、渋谷の日本1号店

 東京・渋谷にハンバーガーの新勢力が続々と進出している。4月26日に、韓国で1400超の店舗を展開するチェーン「マムズタッチ」が日本1号店をオープンした。「マクドナルド」渋谷店跡地にオープンし、220席ある大箱でありながら、時間帯によってはZ世代を中心に行列ができる人気となっている。


【画像】現地で食べてみた! 韓国「マムズタッチ」前の大行列と看板商品、米国「シェイクシャック」のボリュームある商品、日本「ショーグンバーガー」のセット(計15枚)


 マムズタッチの1番人気は、チキンバーガーの「サイバーガー」(520円)。もも肉を使った骨なしフライドチキンをバンズで挟んだバーガーだ。日本ではこれまで「チキンバーガーの店は成功しない」といわれてきた。近年では、エターナルホスピタリティグループ(旧:鳥貴族ホールディングス)の「トリキバーガー」が記憶に新しい。東京・大井町に続く2号店を、2022年3月に渋谷でオープンしたものの、わずか2年ともたずに閉店した。現在、同チェーンは2店の展開にとどまっている。


 「ロイヤルホスト」のロイヤルホールディングスも「ラッキーロッキーチキン」というチキンバーガーを扱う店舗を2020年5月に立ち上げたものの、2店舗にとどまっている。そうした難しい市場を、マムズタッチは開拓しようとしている。


●渋谷で勃発「日米韓ハンバーガー戦争」


 マムズタッチの1号店がオープンする直前、4月13日にはニューヨーク発の「シェイクシャック」が渋谷店をオープン。同チェーンは日本に上陸した2015年当時、米国で「マックキラー」と呼ばれるほど、勢いがあった。1店舗当たりの売り上げが、マクドナルドの2倍もあるほど人気があったのだ。


 6月6日時点でシェイクシャックは国内に14店あるが、東京や大阪の中心部に店舗を出している。ステイホームを求められたコロナ禍は、苦戦していた。渋谷店は久々の出店となるが、道を挟んだ真向かいにインバウンド人気が高い和牛バーガーチェーン「ショーグンバーガー」があり、ホットな販売競争が起きている。ショーグンバーガーの渋谷店は2021年10月にオープンした。黒毛和牛100%のパティを使用している点が特徴である。


 このように渋谷には今「ポストマクドナルド」の実力派が覇を競うチェーンが集結している。しかも、それぞれのチェーンは韓国発のマムズタッチ、米国発のシェイクシャック、さらに和牛を武器にする国産のショーグンバーガーと国際色も豊かだ。今回は、この渋谷ハンバーガー戦争の現状を報告したい。


●渋谷にしては割安 レトロな「レシート」も人気


 日本初進出となるマムズタッチの爆発的人気は、ある程度予想されていた。2023年10月20日〜11月9日に渋谷でポップアップストアを展開しており、期間中は行列が絶えず、3万3000人が来店していた。満を持してオープンした渋谷店は、40日あまりで累計来店者数10万人、売上高1億円を達成したという。1日の平均来店者数は約2500人で、テーブル回転数10回は、業界平均の2倍を超えるとも発表している。


 マムズタッチは2021年から海外進出を行っており、これまでに米国・タイ・モンゴルに出店。日本は4カ国目の進出となる。特徴は、オーダーを受けてから店内のキッチンで作り上げる点にあるだろう。工場で生産した冷凍チキンを調理するのではないクオリティーの高さと、手に取りやすい価格から、韓国では“神コスパ”ともてはやされているらしい。ちなみに韓国での価格はサイバーガー単品4600ウォン、だいたい日本と同じ価格だ。


 サイバーガーはパティ1枚で相当なボリューム感がある。ラーメンでも普通に1杯1000円以上はする渋谷の外食事情では、相対的に割安だ。セットでポテトとドリンクが付いて850円というのも安い。


 日本進出に当たっては、ビーフバーガーの「本格プルコギバーガー」(550円)を新たに開発。骨なしフライドチキンは、プレーン(2ピース450円)だけでなく、日本で人気の韓国フードのヤンニョムチキン(2ピース490円)もある。


 フードだけでなく、2階に韓国で人気の「レシート写真機」があり、無料で使えるのも話題になっている。シャッターを押すと、スマホやプリクラでは撮れない、画像が粗いレトロなモノクロ写真がレシート状の紙に印刷されて、2枚出てくる。


●今後の課題は客層の拡大か


 渋谷で人気を得ているマムズタッチであるが、ただちに全国展開をして、成功できると考えるのは早計ではないだろうか。例えば、チキンの下味に辛いスパイスが使われているので、辛いものが苦手な人には受け入れられがたい。ドリンクにコーヒーや紅茶がないのも気になる。


 また、今のところ顧客層は韓国コスメや、韓国アイドルなど、韓国のポップカルチャーが好きなZ世代の若い女性に偏っている。この点は運営側も理解しており、1号店を流行り廃りの激しい都内の新大久保につくって、すぐに消費されてしまうのを回避したのではないだろうか。


 渋谷ならば、若い女性が多い新大久保と違って老若男女がいる。インバウンドも多く、まだ進出していない国の人たちへの宣伝にもなる。今後はいかに顧客層を広げられるかが、日本で定着するかどうかのポイントになるだろう。


●「ホルモン剤フリー」を武器に支持を拡大


 シェイクシャックは日本に上陸して9年になるが、コロナ禍が長期化したこともあって「スターバックスコーヒー」を成功に導いたサザビーリーグが経営している割に、発展していないイメージだ。


 渋谷店は「旗艦店」と呼べる程度のスケールがあり、アーティストとのコラボした壁画も話題を呼ぶなど、渋谷の新名所になることを目指しているようにうかがえる。懐かしいインベーダーゲームを想起させる壁画には、スクランブル交差点や渋谷センター街などの風景に紛れて、シェイクシャックの店員も描かれている。


 シェイクシャックはもともと商品のクオリティーに定評があり、ホルモン剤フリーのアンガスビーフを100%使用しているのが売りである。注文が入ってから丁寧に鉄板に押し付けて焼き上げるパティは、牛肉本来の風味を引き出しており、だからこそ米国ではマクドナルドを圧倒するほどの支持を得たといえる。


 ホットドッグにポテトフライ、店内で手作りするレモネードやシェイク、さらには「ブルックリン・ブルワリー」によるオリジナルビールも評判が良い。米国の健康を気にする意識の高い人たちは、成長を促進するためホルモン剤を飼料に入れて育てている、一般的な北米産の牛肉を敬遠している。だからこそ、米国ではホルモン剤使用を禁じられている、鶏のチキンバーガーが人気になってきたのだ。一方、日本やEUでは、牛はもちろん、家畜全般にホルモン剤の投与を禁じている。和牛が欧米で好まれるのは、味ばかりでなくホルモン剤フリーの食材だからでもある。


 シェイクシャックはホルモン剤フリーの牛肉を武器に米国で人気を博したが、日本ではまだマクドナルドを脅かすほどではない。日本のマクドナルドは世界の中でもレベルが高いとされており、消費者のデフレマインドの強さもあって根強い支持を得ている。


 しかし、意識の高いインバウンドにとってホルモン剤フリーは重要であり、シェイクシャックが渋谷に出店した意義は大いにある。メインのシャックバーガーはシングルで710円、ダブル1010円で、日本人には少し高いかもしれない。しかし、インバウンドにとっては、手ごろな値段のはずだ。


 シェイクシャックでは当初コーヒーを出していなかったが、2018年10月にホットコーヒー・ホットラテ、2019年4月からはアイスコーヒー・アイスラテの販売を始めた。日本ではファストフード店のイートインは喫茶店の機能を兼ねている。日本マクドナルドの原田泳幸元社長はこの点を理解し、2008年に100円で飲める本格コーヒーを仕掛けて販売を伸ばした。そうした需要を取り込めれば、さらに勢いは増すだろう。


●シェイクシャックと共存のショーグン、アメリカン訴求のKFC


 ショーグンバーガーは何よりも、インバウンドの観光客が喜ぶ和牛を使ったバーガーという点に、大きな特徴がある。黒毛和牛を粗挽きしたパティは、オーダーを受けてから丸めて、鉄板で押しつぶしながら焼く。旨味が強いスネ肉を使った、ゴリゴリとした食感が楽しい。国産小麦のバンズも使い、1000円を超えるハンバーガーながらコストパフォーマンスは高い。


 目の前にシェイクシャックの巨大な店舗ができたのは痛手だが、和牛のパティと濃厚なチェダーチーズの相性を追求したチーズバーガーが1380円ならば、人気が衰えることはないだろう。焼肉店に行くと非常に高額な和牛が、手軽に食べられる商品となっている。


 実際のところ、ショーグンバーガーの渋谷店は今、シェイクシャックがオープンする前よりも顧客が増えているように見えるほどだ。日米高級バーガーチェーンの相乗効果が起こっている。


●KFCの動向は?


 その他、気になるのがフライドチキンの王者であるケンタッキーフライドチキン(KFC)の動向だ。KFCは2022年12月16日に道玄坂店をクローズし、現在まで渋谷に店舗はない。その空白地帯を狙ってマムズタッチが入ってきたともとれるだろう。


 韓国のマムズタッチに対抗して、というわけではないだろうが、KFCでは、5月29日から期間限定で「ザ・アメリカンバーガーズ」と称する本格派バーガー3種を発売している。KFCが本格派バーガーと称し、かつわざわざアメリカンであることを強調して、商品を販売するのは珍しいことだ。


 紙袋やカップなどの包材もKFC創業時を思い起こさせる、レトロアメリカン仕様になっている。コロナ禍の最中でも好調を維持し、フライドチキンで独走しているKFCがマムズタッチの登場で刺激を受け、商品開発にいっそう力を入れてくれるなら、喜ばしいことだ。


 渋谷に集結しつつあるハンバーガーチェーンは、いずれも手作り感を強調し、健康志向にも寄り添ったプレミアム感のある商品を提供しているのが特徴だ。原田泳幸氏が自身のYouTubeチャンネルで「渋谷のマクドナルドは広告塔として出店しているが、家賃が高く採算が取れていない」と述べたことがあるほどの難しい場所ながら、各チェーンがそれぞれの方法で付加価値を追求して、高い集客力を発揮しながらチャレンジを続けている。


(長浜淳之介)


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