生クリーム好きの社員が考えた! 貝印の「生クリッチ」完売、どんな商品なの?

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2024年06月13日 06:10  ITmedia ビジネスオンライン

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生クリームをつくる「生クリッチ」が人気

 できることは、生クリームを泡立てること。これに特化した調理家電が現在、話題になっている。その調理家電は、貝印の自動生クリームホイッパー「生クリッチ」(8800円)。生クリームを自動で作り完成したら自動的に運転を終えるものだ。


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 冷えた生クリーム100ミリリットルをカップに注いだら本体上部のボタンを長押しして電源を入れ、自動モードを選択したら運転を開始。泡立ちが7〜8分立て(泡立てたときにちょっとした角が立ち、その角が立ったと思ったらすぐ倒れる状態)になったら、運転が自動的に止まる。


 2023年12月に応援購入サービスの「Makuake」に出店したところ、2カ月で1100万円を売り上げた。2024年3月に一般販売を始めると、初回生産分はほぼ完売し、現在入荷待ちの状態になっている(6月11日現在)。


●うまくいけば響いた人に刺さる


 生クリッチは社員のアイデアを商品化する「貝印開発コンペ」から誕生した。コンペは2021年に始まり、生クリッチは初開催のときに提案されたものだった。


 提案したのは、研究開発本部研究部 次長の小林甫氏。「マニア」と自称するほどの生クリーム好きで、普段から自宅で200ミリリットルの生クリームを泡立てては、1人で全部、1回で食べきってしまうほどだという。


 「食べている姿を見られると、みんなに引かれます」と話す小林氏が生クリッチをコンペに提案したのは、生クリームを泡立てることに不便を感じていたからだ。それが解決できれば自分のような生クリーム好きに喜ばれると思った。


 小林氏が言う不便な点とは、泡立てるためのボウルを冷やさないといけないこと、ホイッパーを持っていなければならないこと、時間がかかること。泡立てると周囲に飛び散ってしまうことも、何とかしたいと思っていた。


 コンペに提案する前、小林氏は身近な人たちに生クリッチのアイデアを話して反応を確かめたところ、反応は二極化した。


 「『別に欲しくない』と全く響かない人がいた一方で、『お金がかかっても買うよ』とものすごく響いた人もいました。響かなかった人のほうが多かった印象ですが、うまくいけば響いた人に刺さるものができる感触を得ました」


 提案から開発のゴーサインが出るのに要した時間は半年ほど。時間が経過するにつれて周囲の評価が変わっていった。小林氏はこう振り返る。


 「最初は社内の反応が鈍く『売れないんじゃないの?』といった声が多かったです。言葉だけでは伝えきれないところがあったせいですが、試作品を示したあたりから響くようになり、『これ結構イケるかも』『これ欲しいかも』などと言ってくれる人が増えてきました」


●材料のバラつきを乗り越えて実現したセンシング技術


 自動モードを選択すると、1分から4分程度で生クリームをつくれる。固さが足りないときは、マニュアルモードにして追加で泡立て好みの固さに仕上げることが可能だ。


 自動モードは新開発のセンシング技術によって実現した。ウィスク(泡立て器)を回すモーターの電流値をセンシング。泡立てていくうちに電流値が徐々に高くなるので、ある一定の電流値になったらでき上ったと判断して、運転を自動的にストップする。


 「生クリームは泡立てていくと液体から徐々に固くなっていきます。液体のときはモーターを低電流で回せますが、だんだん泡立ちが固くなってくるとモーターに負荷がかかり電流値が大きくなります。モーターの電流値をモニタリングすれば、生クリームの泡立ち具合が判断できます」


 モーターの電流値のセンシングは、技術的に難しいものではない。しかし、実際にやってみるとかなり難しいものだった。課題を乗り越えるのに1年近く要した。難しかった理由は、材料のバラつきが大きいためであった。


 「材料には動物性と植物性があり、動物性も安定剤が入っているものと入っていないものがあります。大きく3種類あるわけですが、それぞれで泡立て具合が変わってくるので電流値の上がり方が違うんです。生クリームの温度などによっても電流値が変わってしまうところがありました」


●コードレスにこだわった理由


 生クリッチでは、生クリームマニアである小林氏のこだわりも実現した。まずこだわったのが完成までの時間。早くできることを目指した。時間がかかると徐々に使われなくなる懸念があったことから、カップラーメンができる程度の時間で完成することを目指したという。


 7〜8分立てで仕上げることにしたのは、一番使われる生クリームの固さがこのあたりだという小林氏の実感に基づいている。ケーキやゼリーに使われる生クリームは6〜8分立てと言われている。


 もう1つこだわったのが、洗い物を少なくすること。飛び散りを抑え周囲を汚さないことに加え、使い終わった後の洗浄も簡単に済むようにした。


 そしてコードレスにもこだわった。本体にはバッテリー充電のためのUSB-Cポートを装備している。コードレスにしたのは、いろんなところで手軽に使ってもらいたいためであった。


 「キッチンだけで使うなら電源コードをコンセントにつなぎながら使うのもアリですが、生クリッチは生クリームを日常的に食べておいしさを味わい、幸せを感じてもらうために開発したツールです。いろんなところで手軽に使えるようにしたかったので、最初からバッテリーを搭載してコードレスで使えるようにするつもりでした」


●動画で独特の食べ方を提案


 Makuakeで先行販売したのは、生クリームのホイップに特化したとがった商品なので、サイトに集まる新しもの好きな人たちに響くと判断したからであった。


 貝印にとってクラウドファンディングのチャレンジはこれが初めてだったが、目標とした50万円は開始初日で達成。開始3日目で当初用意していた300個を完売したことから、急きょ1000個追加することにした。


 一般販売開始後、4月に明治の「明治おいしい生クリーム」とコラボしてX(旧Twitter)でキャンペーンを実施(現在は終了)。また、生クリームの食べ方もいろいろ紹介することにした。小林氏が普段からしている食べ方のほか、新たに試してみておいしかったものを紹介することにした。


 生クリームとの相性が良いものとして紹介したのはコーヒー、トースト、プリンのほか、カレーライスやすき焼きなど。カレーライスやすき焼きに生クリームは、以前から小林氏がしていた食べ方だという。


 貝印の公式YouTubeチャンネル「貝印の切れ味チャンネル」で、生クリッチを使ってつくった生クリームの食べ方を紹介する動画を公開。動画では、生クリームにココアパウダーや抹茶を入れて泡立てたものや、豆腐に砂糖入りの生クリームを乗せてその上にきな粉と黒蜜を掛けてスイーツに仕立てたもの、納豆に混ぜるといった食べ方を紹介している。


 動画の中で小林氏は、生クリームを白米に見立てて納豆を生クリームの上に乗せて食べるところを披露。マニアぶりを如何なく発揮した。


 新しい食べ方を提案するにあたり100種類程度の食材を試したので、中には生クリームとの相性が良くなかったものも。マヨネーズ、海苔の佃煮、たこ焼きの3つは生クリームとの相性が悪かったという。


●想定を上回る推奨外の使い方


 主な購入者は40代、50代で、男女比は3:7と女性が多い。


 「価格から見て30代以降の方にお買い求めいただけるとは思っていましたが、年齢が高めの人でも生クリームが好きな人が多いことには驚きました。マニアックな商品なので、女性の方が多く買い求めてくれたことは意外です。料理の使用例を紹介したこともあり、使い方のイメージがつかめたことが購入につながったのかもしれません」


 紹介した食べ方について、ユーザーからは「やってみます」「食べてみます」といった声が多い。「飛び散らない」「片付けが楽」「泡立てている間に他のことができる」といった利便性の高さを評価する声も多く聞かれる。こうした点も多くの女性ユーザーを獲得できた要因だろう。


 その一方で一部のユーザーから、「メレンゲづくりに活用しています」という声も聞かれた。少量のメレンゲが必要なときに生クリッチが便利だというのだ。


 「メレンゲづくりは推奨していないので、これが原因で故障などしたときは保証の対象外になります」と注意を促す小林氏。このような使い方はある程度は予想していたものの、想定を上回っていた。


 生クリッチについて、小林氏は「完成された商品」と評する。改良版を開発する予定はいまのところなく、クリスマスなどのイベントと絡めて認知度を高めながら、末長く使ってもらえるものに育てていきたいという。


(大澤裕司)


このニュースに関するつぶやき

  • この世で一番生クリームが好きかもと思う私だけど1つのことしか出来ない家電はセレブすぎるわ。キッチンがあれこれ溢れる。そして日々生クリーム食べてたらデブになるから管理してる
    • イイネ!8
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