「ワンルームマンション投資」に黄色信号。“複合的な要因”でついにブームが終焉か

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2024年06月13日 09:01  日刊SPA!

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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 投資目的で物件を購入したにも関わらず、住宅ローンを申し込んで資金をだまし取ったとして、不動産業の男らが逮捕されました。物件の購入者も書類送検される見込みです。

 個人による不動産投資は過熱の一途をたどります。長らくワンルームマンションの投資も熱を帯びていましたが、ここにきて暗雲が立ち込めている気がしてなりません。

◆23区のマンション平均価格が初めて1億円を突破

 日本銀行によると、2024年1月から3月までの個人による貸家業の新規貸し出し金額は9778億円(「貸出先別貸出金」)。前年同期間で10.6%増加しました。2019年から振り返っても、3ヶ月で9000億円を突破したのは今回が初めて。コロナ禍で冷え込みを見せる前の2019年同期間は8566億円でした。コロナ前よりも1000億円以上増加しています。

 2023年度(2023年4月〜2024年3月)に不動産投資ローンとして個人に貸し出した金額は実に3兆円にのぼります。

 投資用不動産は一棟アパートやマンション、戸建てだけでなく、店舗、ホテル、物流倉庫など多岐にわたります。

 三菱UFJ信託銀行は、2023年9月に発表した「不動産マーケットリサーチレポート」にて、同社が仲介する個人の不動産投資は都市部にある賃貸マンションが主体になっていると記しています。確かに、好立地の賃貸マンションは入居者による安定的なキャッシュフローと資産価値に期待ができます。人気の投資先なのです。ただし、マンション価格は高騰しているのも事実。

 不動産経済研究所によると、2023年の東京23区の新築マンション価格は前年比39.4%増の1億1483万円。かつて高級マンションは「億ション」と呼ばれる高嶺の花でしたが、今や平均価格が億を超えたのです。

 個人向け不動産投資ローン増加の要因の一つには、物件の取得額そのものが上がっていることがあるでしょう。つまり、高値でつかんでいる可能性があることを否定できるものではありません。

 個人の不動産投資において、人気を集めるのが区分マンション。いわゆるワンルームマンション投資です。物件によっては2000万円程度で取得ができます。大手企業の会社員や公務員、医師、看護師などの安定的な収入のある人の支持を集めています。

◆キャッシュフローがマイナスでもワンルーム投資をするのはなぜか?

 ワンルームマンション投資の表面利回り(家賃収入を物件価格で割り戻したもの)は年3〜4%程度が一般的。ただし、実際には固定資産税や修繕積立金、管理料などが必要になるため、キャッシュフローがマイナスになる人も少なくありません。物件価格が上昇していることから、近年取得した人の大半は事業としては赤字なのではないでしょうか。

 これは販売側も織り込み済み。

 営業トークで頻繁に語られるのが節税メリット。建物の取得費用は一定期間の減価償却費として経費計上ができます。本業など他の所得から赤字分を差し引く損益通算で、節税が行えるというのです。しかも、ローン返済後の物件は資産として手元に残ります。

 ワンルームマンション投資の是非は、キャッシュフロー上は赤字になることと、節税メリットがあるという2つの意見が対立しがち。視点が異なるために話が平行線で噛み合いません。

 
◆大手ワンルームマンション投資会社の業績に“異変”

 区分マンションの開発、販売の最大手がプレサンスコーポレーション。2023年9月期の売上高は前期比11.1%増の1613億円、営業利益は同23.6%増の255億円でした。この会社は原価率が73.9%と高いにも関わらず、営業利益率が15.8%もある驚異的な会社です。

 2023年の全国マンション販売数において、プレサンスは三井不動産レジデンシャルに次ぐ2位を獲得。野村不動産、住友不動産をも追い越しているのです。近畿圏においてはトップに立っています。

 しかし、2024年9月期上半期の売上高は、前年同期間比3.2%減の828億円とまさかの減収。通期の売上高を前期比3.8%増の1673億円と予想しています。業績に急ブレーキがかかりました。上半期は、主力のワンルームマンションの販売戸数が前年を割り込んでいます。

 ガーラマンションシリーズで知られるFJネクストホールディングスも今期は苦戦中。2024年3月期の売上高は前期比18.6%増の1004億円、営業利益は同14.3%増の94億円と大躍進を遂げたものの、2025年3月期の売上高は前期比2.6%増の1030億円、営業利益は同20.5%減の75億円を予想。売上高は微増、営業減益を見込んでいるのです。

◆供給量が減少する投資用マンション

 不動産経済研究所によると、2023年上期の首都圏投資用マンションの供給数は2820戸(「2023年上期及び2022年年間の首都圏投資用マンション市場動向」)。前年同期間と比較して33.3%も減少しました。平均価格は3182万円で、55万円(1.7%)下落しています。

 野村不動産が投資用不動産サイトに登録している会員への2023年の調査では、購入したい投資用物件の種類で「ワンルーム区分マンション」と答えた人の割合は20.4%。前年から5.9ポイント下がりました。1棟マンションや1棟アパート、戸建てなど数ある種別の中で、これほど下がっているものはありません。

 物件価格が過剰なまでに高騰してしまったことや、金融緩和の出口が見えてきたことで金利の上昇を警戒した買い控えなど、複合的な要因によってワンルームマンション投資が下火になってきたのかもしれません。

 また、住宅ローンを使う巧妙な手口で投資用物件の購入を促すなど、悪徳事業者がワンルームマンション投資業界の悪評を招いてしまった面もあります。

 急成長してきたデベロッパーが転換点を迎えていると言えるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
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