KDDIの5Gが“真の実力”を発揮、通信品質の評価を覆せるか 「5G SA」の本格展開も見据える

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2024年06月15日 06:11  ITmedia Mobile

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KDDIは、4月から5月にかけ、Sub6のエリアを一気に拡大した。写真左は出力増強前、写真右は出力増加後の通信速度

 KDDIは、6月14日にネットワークに関する説明会を開催。Sub6と呼ばれる5Gの3.7GHz帯、4.0GHz帯の出力増強やアンテナの角度調整の結果、関東のエリアが2.8倍に広がったことを報告した。調整は約2カ月間かけ実施してきたが、既に関東での対応は完了している。KDDIはSub6のエリア拡大を2月に予告していたが、それを実現した格好だ。では、これによってどのような変化があったのか。その詳細をレポートする。


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●衛星干渉条件の緩和で出力アップ&アンテナ角度を調整、関東エリアは2.8倍に


 KDDIは、3.7GHz帯、4GHz帯の5Gをそれぞれ100MHzずつ保有している。合計した帯域幅は200MHz。自ら基地局を持つMNOの中では、ドコモと並ぶ広さだ。ソフトバンクと楽天モバイルは100MHzずつのため、キャパシティーという観点ではKDDIとドコモが有利になる。基地局数は2023年度末で約3万9000局まで拡大しており、4Gから転用した5Gと合わせると9.4万局に上る。


 ただ、これだけの基地局数があっても、Sub6のエリアは限定されていた。Sub6の一部が、衛星通信事業者の地球局と干渉してしまう周波数帯だったからだ。ドコモの4.5GHz帯はその影響が少なかった一方で、KDDIの3.7GHz帯、4.0GHz帯はどちらも出力を抑えたり、基地局のアンテナの角度をつけたりと、干渉を抑える条件がつけられていた。


 KDDIの執行役員 コア技術統括本部 技術企画本部長の前田大輔氏によると、同社の場合、特にその制約が厳しかったという。その理由は、総電力にある。前田氏は、「衛星事業者の地球局に届く総電力はここまでというように決められていた。基地局が多いと、他社よりより出力を抑えないと干渉条件を超えてしまう」という。3万9000局の基地局を展開していたがゆえに、1つ1つセルの範囲をより絞らなければいけなかったというわけだ。


 逆に言えば、この干渉条件さえ緩和されれば、抑えていた“真の実力”を発揮できるようになる。関東でそれが実現したのが、4月のこと。「衛星通信事業者のご協力のもと、地球局を移転していただくなどした。3月末をもってこれが完了し、干渉条件の緩和が実現した」(同)。これを受け、KDDIは4月、5月にSub6の基地局から発射する電波の出力を増強。アンテナの角度も、より広い範囲をカバーできるように調整した。


 もともと、KDDIはSub6の出力を向上させることを2月に発表していたが、その際には、関東圏のエリアがメッシュ単位で2倍に拡大すると明かしていた。だが、実際には、1月末時点と比べ、エリアは2.8倍に広がっている。出力の拡大で2倍に拡大しただけでなく、アンテナの角度調整も加わり、さらにカバーできる範囲が広がったからだ。以下に掲載したエリアマップの写真を見ると、その違いが分かりやすい。


 より詳細に言うと、「100メートル四方に区切ったメッシュが4.3万から12.2万にまで広がっている」(同)。これによって、例えば東京23区内であれば「データのログの8割、9割で5Gをつかむようになっている」(同)という。もちろん、ここには4Gから転用した5Gも含まれるが、ユーザーの体感としては、「5G」のピクトを目にする機会の方が多くなったといえる。


●受信環境が大幅に改善、スループットも300Mbps強に


 結果として、ユーザーが体感できる品質は、大きく上がっているようだ。出力増加やアンテナの角度調整により、5Gの電波が-100dBm以下になるメッシュは東京23区だけで1万を超えた。ここまで電界強度が強くなれば、「電車内や屋内でもSub6をつかめるようになる」。当然、屋外であればその速度は大きく上がる。


 -120dBmと電波が弱い場所も1万メッシュ以上あるが、東京23区内では4Gから転用したエリアはほとんどなくなってきたといえる。-120dBmのようなエリアでは屋内に入ると5Gが途切れてしまうものの、こうしたときには「無理をしすぎて通信を引っ張りすぎるとパケ止まりが起こってしまうため、すぐにハンドダウンするセッティングにしている」(同)。4Gから転用した5Gに引き継ぐことで、「快適な通信を続けられる」(同)という。


 ここまで電波の状況がよくなると、まず通信速度が向上する。4Gから転用した5Gが実行速度で70〜100Mbpsにとどまっていたのに対し、Sub6をつかむことで約3倍の300Mbpsまで速度が上がり、通信が快適になる。また、遅延が減り、30ms以下の割合が92%にも達している。20ms以下とさらに低遅延になる割合も75%に上がり、この指標で他社をリードしていたソフトバンクに肉薄した。


 衛星通信との干渉条件が緩和されたのは、関東だけではない。大阪、札幌、福岡、名古屋などでもそれぞれ出力増加やアンテナ角度の調整を行い、Sub6のエリアが拡大している。もともと、強い出力で電波を吹けていたエリアもあるため、関東だけを抜き出したときよりエリアの拡大率は下がるものの、全国レベルでも1.5倍に広さが増している。


 発表会当日には、会場となったザ・プリンス パークタワー東京をカバーするSub6のエリアを実際に広げるデモも披露された。同ホテルには、複数の基地局から電波が届いているが、その内の1局が出力増強前の状態だった。そのため、屋外で5Gをつかんでいても、速度は100Mbpsを下回ることが多かった。以下は、筆者の端末(iPhone 15 Pro)で行ったスピードテストの結果。100Mbpsを超えるときもあったが、おおむね2桁の速度にとどまっていた。


 ネットワークセンター側から遠隔で出力を上げ、完了後に速度を図ったところ、300Mbpsから400Mbpsまで高速化。出力を上げるだけで、品質はここまで改善される。エリアが広がったことで、上りの速度も10Mbpsを超えるようになった。ちなみに、前後の電界強度をGalaxy Z Fold5に入れたアプリで測定してみたところ、-106dBmから-87dBmまで電波が強くなっていることが分かった。このような品質改善が、全国各地で行われたというわけだ。その効果は、もともとSub6のエリアが限定されていた関東圏が、特に大きくなる。


●5G SAも2025年度からついに本格化、コンシューマー向けサービスも登場か


 4Gの上に4Gから転用した5Gを乗せ、その上にSub6の厚みを足したことで、「5Gの本丸が、いよいよ拡大している」状況だ。サービス開始から4年が過ぎ、ついにその本領を発揮しようとしているといえる。ただし、「2030年に向け、まだまだ基地局は増やしていく必要がある」(同)。前田氏によると、最終目標は4Gと並ぶ20万局。KDDIがその先に見据えているのは、5G単独で通信が可能になる「5G SA」の拡大だ。


 同社では、2022年2月に法人向けの5G SAを開始。翌2023年4月には、コンシューマー向けの5G SAもサービスインにこぎつけている。ただし、現状ではまだまだエリアが狭く、エリアマップも提供されていない。利用可能な場所は、大まかな範囲の住所でしか公開されていない。


 5G SAでは、ネットワークスライシングの導入などにより、サービスを多様化することが可能だ。前田氏も「5G SAは、サービスによってレールを引き分けられるスライシング技術に対応している。これが立ち上がってくると、いよいよ産業のニーズに応えられる」と語る。また、コンシューマー向けにも、「ゲームのストリーミングなどに使える」(同)品質を担保しやすくなる。


 Sub6のエリアが十分拡大していなかったため、足踏みしていた5G SAだが、展開に本腰を入れるタイミングも近づいているようだ。前田氏は、「5G SAが本格的に始まるのは、来年度以降になるとみている」と話す。当面のメリットはスループットの向上や遅延の低下などだが、Sub6のエリアが十分広がり、5G SAやネットワークスライシングが導入されれば、より多彩なサービスが実現する。今は、そのための助走期間といえる。


 一方で、調査会社の英Opensignalが4月に発表した2023年12月から2024年2月までのデータでは、「5Gエクスペリエンス」の項目や、「一貫した品質」でトップを走っていたのは、ソフトバンクだった。4Gからの周波数転用に積極的だったKDDIとソフトバンクはともに「5G利用率」でトップを取っていたものの、実体験では後塵を拝していた格好だ。ただし、これはSub6のエリアが拡大する前の状況。まずはこうした評価が、どのように変わっていくのかにも注目しておきたい。


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