九州豪雨で被災の「さかもと鮎やな」 15日から今季の営業開始

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2024年06月15日 07:01  毎日新聞

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プレハブの仮設商店街に入る「さかもと鮎やな」=熊本県八代市で2024年6月7日午後0時2分、西貴晴撮影

 熊本県八代市坂本町のアユ料理店「食処(しょくどころ) さかもと鮎(あゆ)やな」が、15日から今季の営業を始める。過疎化が進行する中、“清流”と呼ばれる球磨川沿いという立地を生かし、住民自ら生きがいやにぎわいづくりを目指してきた。4年前の九州豪雨では壊滅的な被害を受けた。それでも住民らは前を向き、店を続ける。


 同級生のほとんどは坂本を離れたが、地元の素晴らしさを、多くの人に店に来てもらって知ってほしい。今季の開店を前に7日にあった関係者向けの試食会。従業員の一人、上田大志さん(47)はそう願い、店頭のテントの下で炭火を使った塩焼き作業に取り組む。従業員25人はいずれも地区の住民。平均年齢74歳の中で上田さんは若手にあたる。


 八代市街地から南東に直線距離で約8キロ。両側を山に挟まれた球磨川沿いの一角に店がオープンしたのは2017年だ。住民の高齢化が進み限界集落への危機感が叫ばれる中で、住民組織を運営母体に開店にこぎ着けた。


 きっかけの一つが「国内初の本格的なダム撤去」といわれた地元の県営荒瀬ダムの撤去だ。ダム湖にたまった汚泥による環境悪化などを背景に、熊本県は12年から約6年かけて撤去工事を完了させた。「清流復活と体験観光」をアピールした店には初年度約7400人が訪れ順調な滑り出しをみせた。


 一転したのは球磨川流域を中心に甚大な被害を出した九州豪雨災害(2020年7月)だった。八代市坂本町でも住民5人が犠牲となり、店も天井まで浸水した。泥出しや片づけ作業だけで3カ月。「もうダメだ」「諦めるしかないのか」。揺れ動く思いの中で、住民らは市が現地に建てたプレハブの仮設商店街で翌年から営業を再開した。


コロナ禍乗り越え


 しかし、コロナ禍に伴い3年連続で営業を一時中止せざるを得ず、21年の来客数は約1900人とピークの8割減に追い込まれた。なんとか客足が戻ってきたのが23年。来客数も約4600人まで増えてどうにか黒字を確保した。


 住民らはなぜ店にこだわるのか。八代市街地から店に向かう国道219号は今も復旧工事に伴う片側通行が続き、災害をきっかけに地元を離れた住民も多い。「大勢の人が店を通じて坂本のよさを知り、ここに住みたい人が出てくれば」。店の運営組織で代表理事を務める松嶋一実さん(76)は語る。復興とにぎわい復活への願いが店を支えている。【西貴晴】


「食処 さかもと鮎やな」


今季の営業は11月4日までの土日曜と祝日の午前11時〜午後3時(お盆の8月13〜15日は連日開店)。定食の梅(1900円)〜鮎づくし(3800円)のほか鮎飯(385円)などの単品も。電話0965・45・2677。


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