「椅子引き」イタズラのつもりが大ケガ、子どもでも「法的責任」を問われるのか?

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2024年06月15日 09:20  弁護士ドットコム

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「椅子引き」が話題になっています。車いすバスケットボールチーム「岐阜SHINE」の選手として活躍する山田雄也さんが10年前、「椅子引き」をされたことをきっかけに下半身まひになったという話が最近、メディアで報じられました。


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このニュースが流れると、SNSでは「椅子引き」が注目を集めました。「学生の時にやられたことがある。絶対にだめ」「子どもの頃にやってしまっていたので、『絶対にやっていけない』と広めたい」など、経験したことのある人たちからのコメントが多く寄せられています。



弁護士ドットコムにも、子どもが「椅子引き」をされてケガをしたなどのトラブルについて相談が複数の保護者から寄せられています。もしも、自分の子どもが「椅子引き」によってケガをしてしまったら、どうすればよいのでしょうか。学校の問題に詳しい渡邊律弁護士に聞きました。



●少年の刑事事件は14歳で責任の問われ方が異なる

弁護士ドットコムには、中学生の子どもが同級生の男子に「椅子引き」をされ、吐き気などの症状が出た為、入院したという保護者からの相談が寄せられました。



子どもは1週間程度で学校にも通えるようになったといいますが、保護者は「椅子引き」をした男子の保護者から連絡がないことに不快感を持っており、警察に通報して傷害事件にしたいと考えているそうです。



学校で起きやすい「椅子引き」は、加害者側は少年であることが多いと思いますが、刑事事件になるのでしょうか。渡邊弁護士はこう説明します。



「未成年者が犯罪を起こした場合は、法律上『非行』というものとなり、警察が受理することが通常ですが、中学生の場合、14歳未満か否かで法律上の扱いが異なります。



14歳未満の場合、法律上では刑事責任能力に欠けるとされ、刑事責任は問われず(刑法第41条)、少年法上、触法少年という者に該当(少年法第3条1項2号)し、警察を通じて児童相談所に通告がなされます(少年法第3条2項、児童福祉法第25条1項本文)。その後、児童相談所によって相談や指導などがなされます。



例外的に、一定の重大事件の場合や家庭裁判所の審判に付することが適当と判断された場合には、児童相談所への通告で終わるのではなく、面接や調査等を経て、家庭裁判所に事件として送致されることもあります(少年法第3条2項)。しかし、例外的ですので、一般的には14歳未満の場合は、基本的には児童相談所の指導に服する場面が多いことが考えられます。



一方、14歳以上の場合は、家庭裁判所に行った事件が送致され、家庭裁判所調査官の調査等を受け、裁判官による審判の後、処分の是非を問われることがあります。本件を14歳以上の子どもが行った場合は、家庭裁判所の審理結果により、審判不開始、不処分、保護観察、児童自立支援施設送致、少年院送致等の処分が検討されることとなります。



ただし、少年法では、もちろん行ったことの非行の重さも重要とされますが、非行を起こした少年が再び非行を起こさないようにするにはどうすれば良いか、その原因を探り、その危険性の有無・程度等により、再犯防止のために必要な処分を決定します。そのため、一概に被害者側が加害者側に厳罰を求めるだけで、厳罰が下りるという趣旨のものとはなっておりません」



●未成年者が加害者の場合は、保護者に慰謝料請求

では、被害者側は加害者側に慰謝料請求することは可能なのでしょうか。



「民法第712条で、『未成年者が他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない』とされています。



この自己の行為の責任を弁識する能力とは、法的には、およそ12、13歳程度の者であれば通常備わっているものとされています。中学生であれば、その能力を有する者と一般的には考えられると思われますので、子ども本人が民事上の責任が問われる可能性があります。



しかし、未成年者は、経済的に賠償金を弁償する能力が不十分であることが一般的です。その場合を想定し、被害者側としては、加害者側の保護者に賠償請求を検討する場合(民法709条)が考えられます。



その場合、未成年者を監護養育する保護者において、未成年者に対し、加害行為を行わせることを防止することにつき故意過失があったかどうか、主に監督過失の有無が問われることとなります。



保護者に法的に監督責任につき故意或いは過失が認められる場合は、被害者には、実際の治療費や慰謝料を請求する権利が生じ、また、被害者が、将来の就労に支障が生じるほどの怪我を受けた(後遺障害というもの)者に該当すれば、その後遺障害慰謝料や、十分働けなくなるほどの後遺障害が残った場合には十分就労すれば本来得られたであろう利益(逸失利益)を請求できる場合もあります。



詳しくは、弁護士に相談されることをお勧めいたします」



●「椅子引き」の再発防止には何が必要?

「椅子引き」のトラブルは定期的に学校で発生しているように思えます。再発防止のためにはどうしたらよいのでしょうか。渡邊弁護士は次のように助言します。



「近年、いじめが大きく問題化され、そのメカニズムが分析されているとおり、加害者側の意識には、相手に対する否定的意図や嫌悪感の発露等の目的自体がない場合も多く、ただその場が楽しくなる、予期に反した姿を見たいという興味本位、皆が喜ぶ雰囲気になるから等の面白半分の思いが主原因である場合があります。



加害者側の軽い意図に反し、被害者側が抱える真に嫌がる心情や深刻な苦しみ等を何ら想像できず、結果、知らず知らずのうちに取り返しのつかない甚大ないじめ行為に至っているケースがあります。



つまり、相手の心情を想像し、気付けないことにこそ、問題の発端があると思われます。今回の椅子引きトラブルも、その一つと考えられます。加害者側には悪意なく行うことでも、相手の嫌がる心情を優先せず、ほんの少し先の結果すらも想像し、気付けない結果、予期に反した重大な結果をもたらすことになります。



結局は、自分が取ろうとする言動が、相手にはどのように受け止められ、どのような気持ちを抱かせ、その結果、どのようなことが生じ得るのか、そのほんの少しの相手への心情への理解や思いやり、そして、ほんの少し先の将来を予測すること、これらの想像力の欠如こそが、本件のような椅子引きトラブルの原因であり、想像力こそ、それを回避するために必要なものであると思います。



日頃の人間関係や学校生活等の中から、平易で些細な物事への単純な想像力でも構いません。それをいつも働かせる癖を身につけること、このことこそ、これからの人間関係をより平和で穏やかに続けていくための重要な力と思われます」




【取材協力弁護士】
渡邊 律(わたなべ・りつ)弁護士
一橋大学法学部卒業。弁護士になる前は、心理学、教育学、社会福祉学等を専門とする国家公務員(I種)である家庭裁判所調査官として、宇都宮家裁、前橋家裁、高知家裁、東京家裁立川支部等に勤務。多くの離婚、親権、面会交流事件や、非行少年の調査、心理分析、心理テスト等を行っていた経験を有する。夫婦カウンセラー資格を有し、相談時間の長さにかかわらず、1回の相談料を5500円(消費税込み)のみとし、時間を気にせずじっくり相談することを全ての基本姿勢としている。弁護士として離婚事件、相続事件、一般民事事件、企業法務、刑事・少年事件、破産等債務整理事件、交通事故事件等、幅広い業務に対応している。
事務所名:渡邊律法律事務所
事務所URL:https://watanaberitsu-law.com/


このニュースに関するつぶやき

  • 男子に椅子の座面に手を置かれていて、知らずに座って男子の手をお尻に敷いたことはあります。
    • イイネ!21
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