激安キャバクラで「“将来”どうするつもり?」と説教してくるおじさん客の意外な正体

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2024年06月18日 16:20  日刊SPA!

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激安キャバクラでも頑張って働いていたみずえちゃん
 大人の社交場・銀座のクラブにホステスとして勤めているみずえちゃんと申します。10年以上交流のあるお客様が先日お店へ遊びにいらっしゃいました。お互いおじさんとおばさんになったわけですが「あの頃は大変だったよね〜」と昔話ができる戦友を持つのは良いことですね。
 その傍ら、ライターとしても活動しており、これまでに私がお酌をさせていただいたおじさま方との実体験をもとに、夜遊びやモテに関する情報を発信をしています。

◆激安キャバクラでおじさんにお説教された話
 
 コロナパンデミック真っただ中でなかなか銀座に出勤できなかった頃、郊外の激安キャバクラに出勤していたことがあります。西武鉄道池袋線のとある駅から徒歩約1分、某牛丼チェーン店などが入居する雑居ビルにあり、いつもいい香りがしていたのを思い出します。

 セット料金は1セット(50分)がタックス&サービス料抜きで4,000円。お店でいただくお酒のほとんどがハウスボトルの鏡月でした。店内にはカラオケが設置されており、お客様は10枚つづりになっているカラオケチケットを1,000円で購入して、お気に入りの女の子に西野カナを歌わせたりしていました。

 そんなある日のこと。指名嬢のいるおじさんの席に、ヘルプ(指名されたキャバ嬢が他のお客様を接客している間、待っているお客様の席について会話やドリンク作りなどをする女性)としてつかせていただきました。その際に、私のとある余計な一言がきっかけでお客様を怒らせてしまったことがあります。わかりやすく“地雷”を踏みました……。

 今回は、激安キャバクラで私が出会った「お説教おじさん」についてお話したいと思います。
  
◆地雷ワードは「銀座から来ました」でした

 その日は、人気嬢のバースデーで、ほとんどの席が彼女のお客様でいっぱいでした。私は彼女のヘルプとして、おひとりで来店された男性の隣に着きました。

 スーツ姿のおそらく50代の彼は、ハウスボトルの鏡月を水割りで飲んでいらっしゃいました。シャンパンなどの抜きものが出ている席にかかりっきりになってなかなか帰ってこない指名嬢をちらちらと見ながら、煙草を吸ったり消したりしていました。

 指名している女の子が帰ってくるまでの間、場つなぎをするのが私のお仕事です。出身地や旅行先での出来事などを当たり障りのない話をして時間をつぶしていました。

「このお仕事は長いの? 前はどこにいたの?」と彼が聞くので「はい。大阪の北新地と、銀座で少しだけ」と答えました。どこで働こうと飲み屋の女なんて所詮飲み屋の女です。胸を張れることなんてひとつもないし、自慢する意図も当然ありません。ところが彼はみるみるうちに顔を真っ赤にして

「だから何だ!それは何だ?自慢か?バカにしているのか!」

 と、怒り出しました。さらに「都落ちしたつもりでいるんだろう」「銀座にいたからなんだ? そんな自慢話をしても惨めになるだけじゃないのか?」と続けました。

◆「将来どうするつもり?」とお説教スタート

 地雷を踏んでしまった私。さらにおじさんのお説教は続きます。

「こんな将来性の無い仕事をいつまで続けていくつもり?」

 と、畳みかけます。ちなみに、酔っぱらってお説教をするおじさんは結構います。全然珍しくありません。あなたも知らず知らずのうちに、若者にお説教をかましてオトナの対応をされていませんか? 気を付けましょう。

 おじさんはなぜ説教をするのかというと、常日頃我慢を強いられているからです。運よく女に生まれ、ちやほや甘やかされて生きているとあまりピンと来ないかもしれませんが、おじさんという生き物に対する世間の風当たりは相当キツイんです。上司に叱られ、後輩にバカにされ、妻に怒鳴られ、子どもたちには軽蔑され……こうして不平と不満をため込んでいるのがおじさんです。

 彼らは何があっても上司や妻に逆らわず、ダメ出しに耐えて耐えて耐え抜いています。キャバクラで酔っぱらっているときくらい好きなだけダメ出しをさせてあげましょう。「そうですね……」とシュンとしておくのがこの場では正解です。

◆そして始まる英会話
 
 おじさんは「常に自分自身をブラッシュアップすることが大切」と言いました。彼曰く、おじさんは週1回、英会話教室で駅前留学をしているそうです。

「Do you speak English?」

 唐突に英会話が始まりました。おじさんのいう通りで、新しいことにチャレンジするのは素晴らしいことです。だいたいの大人は照れたり、諦めたりして新しいことにチャレンジできないものです。ボクシングにチャレンジしているホリエモンを笑うおじさんおばさんの多いこと多いこと。

 しばらくルー大柴おじさんの英会話に付き合ってあげました。するとおじさんは、しんみりした顔で「俺も昔は銀座で飲んでいたんだ」と話し始めました。

◆お説教おじさんの正体
 
 以前は銀座で飲んでいたと話すおじさん。総合商社の営業マンとして活躍していたそうですが、ストレスと過労で体調を崩し、退社を余儀なくされました。それ以降は派遣のお仕事で食いつないでいたそうです。近頃では派遣のお仕事にも就けず、実家の世話になりながら再起の機会を狙っているとのことです。

 おじさんは「ゆくゆくは同時通訳の仕事がしたい」と言いました。なるほど。お前、他人(私)の心配している場合じゃないだろ。

 怒っている人をよく観察すると、彼(彼女)のコンプレックスの正体が見えてくることがあります。例えば、容姿や学歴、職歴、預貯金の額など。容姿に自信の無い人ほど「あの人は整形だから」と言って喜んだりするものです。

 おじさんの場合は明らかに「将来に対する不安」でしょう。

 彼は誰よりも「これからどうするつもり?」と言われてきたはずだし、自身にも問いかけ続けてきたはずです。安キャバのヘルプ以上に、子ども部屋おじさんのストレスのはけ口にちょうどいい対象ってありませんよ。しかし、そこで得られる快楽こそ超危険。

 駅前留学で“ゆくゆくは同時通訳の仕事”ができるレベルまで語学力を向上させるには何年かかるだろう、などはいったん横に置いておくとしても、少なくとも「こんな将来性の無い仕事をいつまで続けていくつもり?」と、どうでもいいキャバ嬢の心配をしている場合ではありませんので。

◆おじさんを癒やす魔法の「さしすせそ」

 今回は、激安キャバクラで私が出会った「お説教おじさん」について書いてみました。都落ちしたような気分で求職活動に励み、かつての自分を眩しいもののように感じているのは彼自身でした。

 しかしキャバ嬢は「他人の心配してる場合じゃないよ」と、わざわざおじさんを叱ってくれるほど親切でも優しくもありません。だってキャバ嬢なので。

「さすが〇〇さん!」「知らなかった!」「すごい……よく頑張りましたね」と、魔法の言葉であらゆる不安も、向き合うべき諸問題もいったんは無かったことにしてくれます。酔いがさめてしまえば、年老いた両親と暮らす無職の子ども部屋おじさんなんですけどね。南無。

 全てのお説教おじさんに幸あれ。終電を逃してしまったのか、駅前のコンビニのイートインスペースでカップ麺をすすっている彼の背中に心の中で手を合わせました。

<文/みずえちゃん>

【みずえちゃん】
1989年生まれ。新潟県長岡市出身。関西外国語大学卒業後、大阪市内の広告代理店に勤務する傍ら、キャバ嬢デビュー。結婚、離婚、地方の激安キャバクラを経て、現在は銀座ホステスとライターを兼業。X(旧Twitter):@mizuechan1989

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