幼稚園の絨毯倒れて女児骨折、二度の手術とリハビリも踏み込んだ「調査」されず…保護者の憤り

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2024年06月19日 09:50  弁護士ドットコム

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東京都江東区にある私立幼稚園の保育室で一昨年、丸めて立てかけられていた絨毯(高さ160センチ・重さ11キログラム)が倒れて、近くでままごとで遊んでいた女児が下敷きになる事故が起きた。


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左上腕を骨折する大ケガを負った女児は、二度の手術を経て、現在もリハビリを続けている。



園や区教委から「適切な対応」をされなかったことから、保護者はこのほど、保育事故の調査と検証のために第三者委員会の設置を求める陳情を江東区議会に出した。(ライター・渋井哲也)



●「絨毯でケガ」という説明をされて・・・

大ケガを負ったのは、事故当時5歳だったケイちゃん(仮名・2023年3月卒園)。



「娘さんが絨毯で腕をケガした。近くのクリニックへ連れて行く。お母さま、病院に来る準備をしてください」



ケイちゃんの母親によると、2022年10月7日午前中、幼稚園の主任から、こんな電話があった。「絨毯でケガ」という説明だったため、母親はケガの様子が想像できず、「絨毯の上で転んで打撲でもしたか?」などと思い、重傷ではないだろうと感じたという。



その後、あらためて園長から電話があり、「肘が外れたかもしれない。近くのクリニックか、救急外来のある都立病院、どちらかにカルテはありますか?」と受診先の相談があった。



いずれの病院にもケイちゃんは通院歴はない。この段階でも重傷ではないだろうと思っていた母親は、近所のクリニックでの受診で良いと園長に返答した。そして、園長はみずからの車で、近所のクリニックへケイちゃんを連れて行った。



クリニックでレントゲンを撮ると、すぐに手術が必要と判断され、都立病院に移ることになった。このとき、クリニックの医師が「救急車を呼ぼう」と提案したが、園長はやはり自分の車で運ぶことを選んだ。クリニックから駐車場まで10分ほど、園長とケイちゃん、母親の3人は歩くことになる。



●都立病院で緊急手術がおこなわれた

この日は、ケイちゃんが楽しみにしていた幼稚園生活最後の運動会の前日だった。いったい何が起きたのか。



事故報告書や母親の証言によると、同日10時45分ごろ、保育室で自由遊びの時間があった。10時50分ごろ、保育室の角に、ままごと遊びで6人程度の園児が集まっていた。その付近には、ままごとキッチンがあり、その隣に丸めた状態でカゴに入った絨毯が立てかけられていた。



近くで遊んでいた園児が接触して、絨毯が倒れた。そのとき、近くで座ってままごとをしていたケイちゃんの左肩にあたり、衝撃で左上腕を骨折した。もし、少しズレて頭や首に絨毯があたって、床に打ち付けられていたら、死亡事故になっていた可能性すらある。



当日、都立病院で緊急手術になった。骨折部分に金属を入れて入院した。当時、コロナ禍のため、親の面会は限定的。登園できない日が、延べ30日にもなった。その後、二度目の手術を受けたが、現在もリハビリを継続している。



●保護者説明会は「コロナ禍」理由で開かれず

事故当日、園側は「予見できない事故」と保護者に説明したうえで「誠心誠意対応する」とした。



ケイちゃんの保護者は、突然のことで頭の中が真っ白になり、事故について冷静に理解できなかった。そのため、当時は園を信じて「予見できない事故なら仕方がない」と思っていた。



しかし、話し合いの中で、保護者が「行政には報告するのか?」と尋ねると、園長は「報告します」と返答するだけで、その後も、具体的な行政とのやりとりについて説明はされなかった。



保護者は、何かしらの行政対応はおこなわれるだろうと考えていた。園側に保護者説明会の開催も求めた。しかし、コロナ禍を理由に、説明会は開かれず、事故発生から12日後、園のホームページにある保護者用ログインページに事故報告された。



●保護者に無断で報告書が提出されていた

そして2023年3月、ケイちゃんの二度目の手術後、母親が保育事故についてネットで調べはじめた。



すぐに鳥取県の私立幼稚園で起きた熱傷事故に関連して、県が第三者委員会を設置していたことを知った。同時に、国からは保育や学校事故対応の指針やマニュアルが出されていることもわかった。一方で、ケイちゃんの事故では、園からも行政からも、指針通りに対応されてないことに気付いた。



「いろいろと調べているうちに、内閣府HP(現在はこども家庭庁HP)で、娘の事故報告書を見つけました。報告書には『保護者の了解を得た上で提出』との条件がありましたが、園は無断で提出していました。



その中には、『絨毯を立てかけている保育室の角は、普段遊ばない場所であった』と書かれていました。ですが、実際には、ままごとキッチンの横に絨毯が置かれていましたので、(園児の)遊ぶ場所です。



危険は予見できたと思います。事故に対する区教委の対応は、現地調査などなく、事故報告書の行政欄にコメントを書いて終了だったのです」(母親)



さらに、保護者が園の過去の写真を調べたところ、保育室内でこの絨毯が立てかけられている写真が複数見つかった。



「日常的に絨毯は危険な保管状態でした。この絨毯は登園時には敷かれた状態になっていたのを記憶しています。また、当時はコロナ対策で保護者は原則保育室への入室禁止でしたので、絨毯の危険な保管状況には気づきませんでした」



●安全点検と第三者委員会の設置を求めたが・・・

幼稚園での事故に関しては、文科省が定める「学校事故対応の指針」(2016年3月・2024年3月/以降は改訂版)がある。



それによると、(1)死亡または重篤な事故の場合、学校(幼稚園を含む)の設置者に報告をする、(2)幼稚園による基本調査は3日以内を目処に終了させる、(3)外部の専門家が参画する詳細調査をするかどうかの判断は学校設置者だが、保護者の意向を踏まえる――とされている。



私立の場合、都道府県等担当課にも報告する。しかし、東京都の場合、私学行政課があるが、1999年以降、特例条例によって特別区が幼稚園事務を担当することになっている。



また、幼稚園の場合、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」も参考にすることになる。マニュアルでは保育施設内の家具や備品等の転倒による事故を防ぐため、固定の措置を取るように明記されている。



保護者は区教育委員会に、ケイちゃんが重大な心身の苦痛を受けたことと、絨毯が日常的に危険な保管状態にあったことなどを示した書類を提出し、園の安全点検と第三者委員会の設置を求めた。その数日後には、警察に被害届を提出した。



「その後、警察の捜査が始まり、夏ごろには園への立ち入りは終了したと聞いています。そのすぐ後が区教委の立ち入りのタイミングだったと思うのですが、事故発生から1年2カ月後の2023年12月まで、区教委は園に立ち入りませんでした。



このときに、一般検査をおこなっています。区教委からは、警察の捜査状況の判断と園との都合調整の結果、この日程になったと説明を受けましたが、園の安全管理に問題があった以上、これでは遅いと思います」(母親)



●踏み込んだ調査がされていなかった

また、江東区の「検査実施要綱」によると、一般検査と特別検査の2種類ある。



一般検査は、基準に基づいておこなわれる。特別検査は、法や条例に違反など当該施設の運営等に重大な支障を及ぼしている、あるいは、一般検査で施設に対して指摘した事項について改善されていないーなどと、区長が認めるとき、施設が正当な理由なく一般検査を拒否したときにおこなわれる。



ケイちゃんの保護者は「特別検査」がおこなわれるのを期待したが、一般検査だけおこなわれた。



それによると、設備面について「保育室や廊下の収納ボックスや棚など転倒の恐れがある備品に対して、固定したり、高さを下げたりするなど転倒防止の対策を講じてください。また、その他の物品等も避難の際に障害となる場合があります」などと助言されている。



しかし、絨毯の転倒事故がなぜ起きたのか、という踏み込んだ調査はされていない。



「第三者委員会どころか、区の特別検査すらおこなわれなかったことに絶望しました。江東区の子どもたちが『安全に教育を受ける権利』は、どうなっているのでしょうか」(母親)



ケイちゃんの保護者はこのほど、区議会に陳情を提出して、受理された。区議会文教委員会で議論され、採択されれば、本会議へ送られることになる。なお、区教委にも取材を申し込んだが、取材の可否についての返事がまだない。


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