「PLATEAU」って知ってる? 日本の都市を“完コピ”した無償3Dデータとゲームエンジンでできること

0

2024年06月19日 14:21  ITmedia NEWS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia NEWS

写真

 UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンは、いまやゲームだけに使われるものではない。むしろこれからは、産業用途でいかに活用するか、という点が重要になってきている。


【画像を見る】無料で使える都市データ、実は国交省が配布している


 そんな中、2020年から国土交通省が手掛けている「PLATEAU」は、ゲームエンジンと連動で使われることの多いプロジェクトとして注目されている。


 なぜゲームエンジンは産業用途で注目され、利用が広がっているのか? そこでPLATEAUはどのような役割を果たしているのかを解説してみたい。


●映像やXRへ、ゲーム以外に広がるゲームエンジン活用


 ゲームエンジンとはどのような存在か?


 ざっくり言ってしまえば、「ゲームを作るために必要となる要素を揃えて、ゼロからソフトを書かずにゲームを構築するためのフレームワーク」である。


 ゲームを作るには多数の要素が必要だ。一方で、グラフィックやサウンドの処理やコントローラからの入力の扱いなど、多くのゲームに共通する要素も少なくない。だからそうした部分をまとめ、グラフィックや音楽のデータ、ゲーム本編を構成するロジックなどに作業を集中させ、開発を効率化するために導入するのが「ゲームエンジン」、ということになる。


 もちろん開発者の方から見れば「いやいや、そうそう簡単な話ではないんですよ」というのは百も承知。だが、ゼロから作るよりは確実に効率的であり多くのメリットが存在するため、多数のゲームがゲームエンジンで作られるようになっているのは間違いない。


 そして、同時に進んでいるのが「リアルタイム・グラフィックツール」としてゲームエンジンを使うという方法論だ。


 リアルタイムCGを必要とする用途はゲーム以外にも多数ある。典型的かつ注目度も高いのが「映像作品での利用」だ。


 例えば実制作に入る前に、どのようなアングルでどう撮影すればいいのかを確かめる、通称「プリビズ」を作る際、アングルを動かしながら試行錯誤するにはゲームエンジンを活用するのが向いている。また本編の撮影時にも、背景を巨大なLEDディスプレイを背景にしつつ、カメラの動きと連動することでCGの中にいるようなイメージで撮影できる「バーチャルプロダクション」もしくは「インカメラVFX」と呼ばれる手法でも、カメラの動きと映像をリアルタイムに同期させる必要があり、ゲームエンジンの活用は必須だ。


 例えばソニーは、ゲームエンジンを使った映像制作やそのソリューションの提供を新規事業としての重点分野に掲げている。それだけ活用が進み、市場としての可能性も大きくなってきている、ということだ。


 映像業界での利用はわかりやすい例だが、もちろん他にも広がっている。特に「ゲームエンジンがほぼ必須」とされているのが、いわゆるXRやデジタルツインを活用する現場だ。


 こうした用途はリアルタイムCG技術が必須であるのに加え、「こう作ればいい」という定番が定まったジャンルでもない。すなわち、ソフト開発の中での試行錯誤が多くなる傾向にある。そうすると、グラフィックスの表示などの基本的な部分へ手戻りしては効率が悪くなる。この辺はゲーム開発と事情が似てくるのだが、だからこそゲームエンジンを使うのが一般的な発想になってくるわけだ。


 事実、Metaにしろアップルにしろ、XR関連アプリ開発を助けるためにゲームエンジン・プラットフォーマーとの協業を行なっており、ほぼ必須の要素になっている、と考えていいだろう。現状、映像制作向けには「Unreal Engine」が、XR向けのゲームやモバイル向けのアプリでは「Unity」が選ばれる傾向にある。


●都市データを無償公開する「PLATEAU」とは


 一方で、もう1つ重要になってくるのが「データ」だ。例えば、街中で使うARアプリを作るとしよう。効果的なアプリを作る際には、その場所の地形や建物などの形状データが必要になるが、それをすべて作っていると大変なコストがかかる。


 ここでPLATEAUとの関係が出てくる。


 PLATEAUとは、国土交通省が進めるデジタルツイン支援プロジェクトだ。国土交通省には元々、多数の地形・建物データが集積されている。それを民間が扱いやすい形でまとめ、さらに、追加で整備した日本中の都市・建物・地形に関するデータを公開するのがPLATEAUの役割である。


 税で整備されたデータなので、利用は商用利用も含めて「無償」。一般社団法人社会基盤情報流通推進協議会が運用する「G空間情報センター」で、オープンデータとして公開されており、自由にダウンロードして利用できる。形式は国際標準データである「CityGML」の形で用意されていて、ゲームエンジンやグラフィックツールなどでは、コンバートしてから利用する。


 PLATEAUの公式ページには多数の実装例が公開されている。ビジュアライズに使った例も多いが、建物や地形の形状データを使った災害シミュレーションやインフラ管理など、ある種のシミュレーション的な活用も多いのが特徴だ。3D都市モデルをオープンデータとして整備することにより、様々な用途が広がっていくことこそが、PLATEAUの狙いそのものである。その辺は、以下に示したPLATEAUのコンセプトビデオからも見えてくる。


●ゲームエンジンSDKやマニュアルなど「活用」がポイント


 PLATEAUが広く使われるのは、無償で使われるからだけではない。主要なゲームエンジンで使うためのSDKや、3D都市データを扱う上で重要となるドキュメントが整備されているため、活用を始めやすい、という点も大きい。SDKはGitHubにまとまっているし、データ活用に関するドキュメントも非常に詳細だ。


 データがあるだけでは活用されない。国際標準に基づく形でデータが整備され、それを扱うドキュメントが存在し、さらに、ゲームエンジンから使うための情報も公開されているからこそ、それまで地図データ・都市データを扱ってこなかったような開発者も使うことができるのだ。


 また、前述のような使用例が多数生まれる背景には、ハッカソンなどの開発者イベントが積極的に開催されている、ということもある。


「都市データは日本の資産であり、日本でデジタルツインを作る人々が自由に活用して可能性を開拓する」ことをしっかり考えて展開されているのがPLATEAUの特徴だ。


 もちろん課題もある。


 データがある範囲は増え続けているが、全域ではない。人口が多く、地方公共団体側として整備の意思が強いところから優先して作られている状況で、2027年までに約500都市を整備する計画となっている。


 3Dデータとしての詳細さ、建物のテクスチャーの精細さなども、地域によってまちまちだ。もっとも詳細なデータを使ったとしても、映画のセットやゲーム内のオブジェクトとしてそのまま使えるような品質ではない。


 ただ、こうしたことは時間が解決することでもあるし、ディテールが圧倒的に豊かなデータ自体は、やはり民間がコストをかけて「自らの付加価値」として作るべきものだろう。


 実際の地域と建物のデータが無償で使える、ということにはまた別の価値がある。まさに「産業のベース」となるべき資産、と言っていい。


 同様の考え方で、政策としてデジタルツインの構築に力を入れる国や地域は多い。日本より先に進めていた国も多いが、PLATEAUでの整備により、日本はかなり進んだ状況になってきていると理解している。


 XRや地図データなどに興味がある人以外には認知度が低い印象もあるのだが、非常に良いプロジェクトなので、地域開発やサービス開発などで自由に使い倒していくべき存在である。


    前日のランキングへ

    ニュース設定