「金利のある経済」に移行する日本の変化とは、「MASAMITSU 日本株戦略ファンド」運用責任者に聞く

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2024年06月19日 16:40  サーチナ

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サーチナ

ファイブスター投信投資顧問の取締役運用部長である大木將充氏(写真:左)と営業部シニア・マネジャーの岩重竜宏氏(写真:右)に、当面の運用の見通し等を聞いた。
 「MASAMITSU 日本株戦略ファンド」は運用責任者である大木將充氏の名前をファンド名に入れたユニークな商品だ。大木氏の経験と卓越した分析力を発揮して設定来、約10年の運用期間ではTOPIX(東証株価指数)を上回る投資成果を実現してきた。今年、日本株は日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新する上昇になった。大木氏は、今後の日本経済について「明確に金利のある経済」に移行すると捉え、従来の超金融緩和期とは異なる銘柄群が活躍する市場に変化すると見通している。ファイブスター投信投資顧問の取締役運用部長である大木將充氏(写真:左)と営業部シニア・マネジャーの岩重竜宏氏(写真:右)に、当面の運用の見通し等を聞いた。

 ――日本がインフレ経済へと変わり、株式市場の物色対象も大きく変わるとの見通しを持っておられますが、日本がデフレを脱却したと考える根拠は?

大木 2022年に日本の労働力人口が減少に転じたことです。日本の人口は2008年にピークとなり、2011年以降は連続して人口減少を記録しています。ただ、総人口は減っても労働力人口(15歳以上で就労者と勤労意欲のある失業者を合算した人口)は、高齢者が60歳を超えても働く、女性の就業率の向上などがあって支えられていたのですが、それも2022年に明確に減少に転じました。これによって「人の価値」が上昇するフェーズに入ったと確信したのです。

 人手不足については、外食でタブレット端末に客が自ら注文を入力することが当たり前になり、コールセンターも自動音声での応対が増えるなど、人が応対してきたところを機械が代わりに行うことが目立ち始めていました。ところが、昨年のゴールデンウィークに、インバウンド需要を取り込んで観光客が増えている地域の旅館が、人手不足のために休業するという事態にまでなりました。稼ぎ時の重要な時ですら人手不足で休業せざるを得ないというのは、相当深刻な人手不足になっているということです。このニュースなどで、人手不足による賃金インフレが起こることを確信しました。

 2022年以降のインフレにロシアのウクライナ侵攻による世界的な穀物価格やエネルギー価格の上昇の影響があったことは間違いないのですが、ウクライナ戦争がなくても日本は深刻な人手不足による賃金上昇によって内製的なインフレが起きていたと思います。ウクライナ戦争によって輸入物価インフレが理由になって製品価格の上昇が通りやすくなったという側面はあったでしょう。本質は人手不足にあることが重要です。今後は、日本の総人口が減ることに合わせて労働力も減少しますから、賃金は上がり続け、それによってインフレも続くと考えられます。

 ――人手不足が原因の賃金上昇がインフレをもたらすという話ですが、人手不足についてはAI(人工知能)の発展などでロボットや自動運転などが導入されて人手不足が緩和されませんか?

大木 AIの進化のスピードは異常に速く、現在想定されているよりも社会への普及は速いと考えられます。AIがものを考えて開発を進めるエージェント化も予想よりも早く進んでいます。また、従来は機械では難しいと考えられていた介護ロボットもどんどん実用化に向けて実験が進んでいます。それを考えれば、自動運転によるドライバー不足への対応なども前倒しで進むのでしょうが、実用化には社会の規制やルールの整備も必要であるため、向こう1〜2年で一気にロボットが普及するということにはならないでしょう。

 人手不足の現状に対する経営者の行動は、まず、人手不足による機会損失を解消したいということで動きます。今年と同程度の賃上げは来年も続くでしょうし、来年中にロボットの導入が始まるということでもなければ、再来年も賃上げが続くというように、向こう数年間は賃上げの圧力は残ることになると思います。

 今は賃上げによるインフレが続くという見通しに基づいて投資戦略を作りながら、その次の投資環境については、走りながら考え続けるということをやっています。

 ――インフレ期に活躍が期待される銘柄群とは?

大木 インフレ期には、「モノを持っているものが強い」。これは日本のバブル期を経験したからこそ理解できる経験値です。バブルが崩壊して、経営破たんしたダイエーが象徴的ですが、ダイエーがおかしくなったのは、不景気で小売業の業績が悪化するところに重ねて不動産価格の下落が追い打ちをかけたからです。ダイエーがダメになる中で成長を遂げたのはフランチャイズでコンビニを展開するセブンイレブンでした。不動産を持たずに店舗ネットワークを広げていきました。インフレ期に成長したダイエーとは真逆のコンビニチェーンが小売業界のリーダーになったのです。

 インフレ期になるとデフレ時代の常識が逆回転します。まず、不動産を持っている企業が強くなります。不動産の流通に関係する企業も好調です。それから、インフレ期には製品価格が値上がりするので企業は設備投資に積極的になってモノを生産することに注力するため、設備投資資金を供給する銀行や債券発行などをサポートする証券といった金融業が活躍します。銀行は金利が上がると利ザヤも拡大するので収益は一段と良くなります。そして、手数料型のビジネスをしている会社も業績が拡大します。1万円に対して3%の手数料を取っていた場合、インフレで商品価格が1万2000円になれば、同じ3%でも手数料の額は大きくなります。不動産仲介業が良くなるのは手数料型ビジネスだからです。商社も基本的には手数料型ビジネスなので大きく業績を伸ばすと考えられます。

 一方、インフレ期に避けたいのは政府が価格を決めているような業態です。医薬品は代表格といえます。医薬品業界やドラッグストアはインフレ期には、インフレで潤う業態と比較すると魅力が劣ります。

 また、インフレ期は株式市場にとって追い風であることは間違いないのですが、「インフレ疲れ」ということが必ず起こるので、その変化には注意をする必要があります。日本よりもインフレが先行したアメリカで「インフレ疲れ」を感じさせる動きがあります。スターバックスの1−3月の北米売上が3%マイナスだったとか、マクドナルドで5ドルセットという低価格セットが発売されたということがニュースになっています。日本でも、たとえば、牛丼が1000円を超えたらこれまでのように牛丼屋に行くでしょうか? そのような変化に常に気を配って戦略を作っていくことが重要です。

 ――「MASAMITSU 日本株戦略ファンド」は2014年11月の設定で10年近い運用実績があります。設定来のパフォーマンスではTOPIX(東証株価指数)を上回っていますが、過去5年となるとTOPIXに劣後しています。この理由は?

大木 2022年に欧米市場がインフレになって中小型株が売られるということが起きました。インフレ期に大型株が選好されることはよくあることなので、欧米市場の変化は予測できる動きだったのですが、インフレになっていない日本の中小型株もこの時一緒に売られたのです。これは想定外の動きでした。

 ファンドは、中小型株に特化した運用を行うわけではないのですが、運用の付加価値を上げるため、個別銘柄の調査や分析によって大きな成長が狙える中小型株は、ファンドのコア資産の1つになっています。その分野が想定外に下落したため、市場に負ける結果になりました。

 ここ2〜3年の日本株相場は、米国の大型グロース偏重の相場に似ています。米国株の運用でアクティブファンドはインデックスに勝てなくなったといわれて久しいですが、それと似たような状況が日本株でも起きました。日本株には、まだまだ大型株にはない中小型株のダイナミックな成長があると思っていますが、過去3年は残念ながら流動性が重視された大型株優位の展開が続きました。

岩重 確かに、過去5年のパフォーマンスでTOPIXに勝てていないのですが、中小型株を戦略的に組み入れてパフォーマンスで実績のある日本株アクティブファンドの中では、「MASAMITSU 日本株戦略ファンド」はよく健闘していると評価していただけています。今、日本株のアクティブファンドで活躍しているように見えるのは、過去10年のパフォーマンスが悪かったファンドに多いです。

 アベノミクス相場などでパフォーマンスが劣後していたアクティブファンドの一部が、総合商社や鉄鋼、自動車など大型株に追い風が吹いた2022年以降の相場でたまたま救われたようなところがあります。それらの銘柄を抱えていただけのファンドが、今後10年、20年という先を展望して勝てるといえるのでしょうか? 戦略的にポートフォリオを構築している「MASAMITSU 日本株戦略ファンド」との戦略の違いは、今後のパフォーマンスに現れると思います。

 ――今後の運用方針は?

大木 日本がインフレ経済に入り、「明確に金利のある経済」に移行していく中、日本株は引き続き堅調な相場が続くと考えてよいと思っています。また、欧州ECBが利下げに動き、米国も金利のピークアウト感が出てくると考えられることから、欧米でパフォーマンスの悪かった中小型株にもファンダメンタルズを評価する動きに戻っていくと考えられます。日本株もこの数年は中小型株に厳しい相場でしたが、しっかりと業績を伸ばしている企業が評価される相場に戻ってくるでしょう。

 今、世の中では世界の大型株に投資する「全世界株式(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」に連動するインデックスファンドが人気ですが、2018年ごろからのインデックスファンドのパフォーマンスには、1ドル=110円前後から1ドル=160円近辺まで進んだ円安のゲタを履いていることを忘れてはならないと思います。今後、日本の金融政策が正常化に向かい、日本の金利も上昇する中では、いつまでも現在の円安が続かないでしょう。大型株を主力にした海外インデックスファンドには、大型株優位の相場の転換と円高への転換という2重のリスクが潜在していることを意識した方が良いと思っています。

 「MASAMITSU 日本株戦略ファンド」は、日本経済の変化を捉えた投資戦略をしっかり押さえることでインデックスに勝るパフォーマンスを愚直にめざし続けます。
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