1年後、生成AIは採用市場をこう変えている──あるHRテックベンダーの予想

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2024年06月20日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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1年後、生成AIは採用市場をこう変えている

 メディアで取り沙汰される「2024年問題」含め、あらゆる業界・職種で人材不足が叫ばれている。対処法として生成AIの活用が期待されているが、国内の生成AIの活用率は、どの調査結果を見ても10%前後にとどまっている。


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 AI専門メディア「AINOW」編集長のほか、生成AI活用普及協会で協議員を務める小澤健祐氏は「対話型のシステム、あるいは答えを教えてくれるチャットbotと思われているため活用例が増えない」と指摘する。


 今回はHR領域に特化した生成AIの活用法を取材した。人事は業務の中でどのように生成AIを活用していくべきか。採用プラットフォームを提供するThinkingsの佐藤邦彦CHROと小澤氏が登壇した「HR領域における『AI活用』最新トレンドと展望の発表会」の内容をレポートしていく。


●生成AIは、採用市場をどう変える?


 生成AIの本質は対話ではなく、あくまでデータを基に最適な文章や動画、イラストなどを生成できる点にある。「ネット検索の延長のように捉えてしまうと、HR領域での活用は進まない」(小澤氏)


 生成AI活用を、DX戦略の一部に位置付ける企業は少なくない。企業のDXは「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」に分けられると小澤氏は話す。


 例えばアナログデータをデジタル化するのはデジタイゼーション、デジタルデータを活用して新たな付加価値を生み出すのはデジタライゼーションに当たる。


 「多くの企業では、そもそもデジタイゼーションができていないのにいきなり生成AIを使おうとしている。


 これまでのツールは表形式やCSVなどコンピュータが処理しやすいデータしか扱えなかったが、生成AIの登場でテキストのみでなく画像や音声を含む非構造化データを扱えるようになった。HR領域におけるインパクトはここだ。


 例えば、候補者の志望動機や職務経歴書から、業界や経験年数だけでなく『どんな経験があるのか』が分かるようになる。また近年、注目が集まる採用広報の分野においては、もっとデジタルデータを貯めながらフロー管理し、KPIに落とし込みより良い人にアプローチできるようになるだろう」(小澤氏)


 膨大なデータを扱える生成AIの登場で、独自情報、一次情報の重要性が高まると小澤氏は指摘する。その波は、採用市場にも及びそうだ。


 例えば現在、転職を考える人はまず検索エンジン経由で「○○(職種)が転職する際、おすすめの職種△選」などのキュレーションメディアの記事を閲覧することがある。ユーザーはそこから具体的な仕事の情報や、各社の求人へと遷移して情報収集する。三次情報にあたるキュレーションメディアの記事から二次情報のSEO記事に移り、そして求人の一次情報にたどり着く──といったように、情報収集には多次元の構造がある。


 生成AIの登場で、一次情報をまとめているだけのSEO記事や、高い付加価値を提供できていない転職エージェントの重要性は評価されなくなると、小澤氏は見ている。


 「人事も、独自の一次情報を持っていることが大事になる。インターネットに載っていない情報に価値が生まれることになる」(小澤氏)


●今後数年で、採用市場はどう変化していくのか


 採用市場は今後どのように変化し、AIはそれに対してどのような支援をできるようになるのか。Thinkingsは、今後数年の採用市場の変化を4つのフェーズで捉えている。


 現在は、採用競争力のある大手企業も人材獲得に苦戦し始めている段階だ。ここでAIに期待されるのは、特定業務の支援・代替と、佐藤氏は分析している。


 2つ目のフェーズは1〜2年後。2024年問題の影響で、人手不足が深刻化する。ここでは候補者に合わせた採用プロセス作成や、候補者のステータスに合ったメール作成および自動での送信といった、候補者に合わせた個別最適化をAIが担えるのではないかと同社の佐藤氏は話す。


 「ここはデータ化が済んでいたとしても、デジタライゼーションができなければ、(現時点では)人事が判断しなければならないところ。その仕事をAIが取って代わるようになるのではないか」(佐藤氏)


 2〜3年後には人事担当者不足が顕著になり、採用がより困難になる。これが第3のフェーズだ。AIの現場業務への活用はさらに進むだろうと予想している。


 「例えば大手企業では、(新卒採用の)一次面接を2000〜3000回ほどセッティングしなければいけない状況がある。これを人事が差配するのではなく、AIが面接官をマッチングしていくような活用法も有り得る。また、現在は一律で行っているオンボーディングを、個別に最適化して行うことも可能になるのでは」(佐藤氏)


 以降に迎える第4のフェーズにおいては、採用の複雑化、多様化がますます進行していく。AIは採用目標 に沿った採用計画の立案や実行支援といった、より戦略的な働きを求められる。


 「今後、採用市場が好転することはない。ベンダーとしてさらに開発力を上げ、採用難を乗り切らなければならない」(佐藤氏)


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