なぜテールランプがまぶしいクルマが増えているのか

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2024年06月21日 07:31  ITmedia ビジネスオンライン

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まぶしい! クルマのテールランプ問題

 夜間のドライビングで神経を使うことが増えてきたように感じるのは、筆者だけではないはずだ。コロナ禍によって一時は減っていた道路の交通量も、今はすっかり元通りのようだ。


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 行楽の時期の週末には高速道路でひどい渋滞が起こっているし、市街地の道路もクルマがあふれかえっている。そのため、夜間は光害とも呼べるほど多くのクルマから光が放たれているのだ。


 ヘッドライトがまぶしいクルマは、ハイビームの切り替え忘れや爆光HIDの拡散光、フォグランプの無駄な使用、光軸が狂っていてロービームが対向車の方を向いていることなどが原因だ。


 しかしリアのテールランプがまぶしい原因は、それらとは全く異なる。前走車のテールランプがまぶしくて目に付く、イライラするといった経験をしたドライバーは増えているようだ。


●テールランプがまぶしいのは、誰かが無神経だから


 テールランプの構成要素は、ブレーキランプ、バックランプ、ウインカーのほか、スモールランプ、それにリアフォグランプといったところ。


 スモールランプがまぶしいクルマはないだろう(夜間常時点灯しているライトがまぶしいほど明るければ、他のランプの被視認性に問題が生じる)し、走行中にバックランプが点灯することはないので、この2つがまぶしいということはない。


 となると、残るブレーキランプとウインカー、そしてリアフォグランプがまぶしさの原因となる。


 リアフォグランプはその名の通り、リアのフォグランプで、濃霧や豪雨時に自車の存在を後続車にアピールすることで衝突事故を防ぐ。しかし、通常の夜間走行時にリアフォグランプを点灯させているクルマもある。


 これらは知らずにスイッチを押し、点灯していることに気付いていないドライバーもいるようだが、なかには目立ちたいだけという理由で点灯させているドライバーもいる。濃霧時以外に使用するのはマナー違反であるだけでなく、道路交通法の施行細則に抵触する可能性があることを知っておいた方がいい。


 例えば大阪府の道路交通法施行細則の場合、第14条に道路における禁止行為として「車両等の運転者の眼を幻惑するような光をみだりに道路に投射すること」とある。


 これは建物などから道路に投射することを想定したものだろうが、施行年月日が昭和35年(1960年)と古いから、クルマから外部に強い光を投射することは想定されていなかっただけだ。この第14条は車外からの行為に対する規定だけでなく、車内行為の規定も含まれているから、クルマの灯火類もこの規定に抵触する可能性は高い。


 道路交通法施行細則は都道府県ごとに定められるものだが、多くの地域で同じ細則が施行されている。他のドライバーを強い光で幻惑した場合、罰則は罰金5万円だが、これによって交通事故が発生した場合は当然、事故の責任が問われることになる。


 最近はドライブレコーダーや防犯カメラで走行車両の映像が撮られている。思わぬところで自分が危険な行為をしていた証拠が残されてしまう時代なのだから、自己防衛の観点からも正しい使い方をする方がいいだろう。


●ブレーキランプの規制が変わったことも原因


 また、最近ブレーキランプやウインカーがまぶしい理由の一つが、これらのランプにおける規制の撤廃だ。ブレーキランプは従来、発光する面積が20平方センチメートル以上(2006年以降は15平方センチメートル以上)とされていたが、現在は面積に関する規制が解除されており、スモールランプの5倍という照度を確保していれば保安基準はクリアするようだ。


 これによって、ブレーキランプがまぶしいクルマが出現している。


 トヨタのハリアーは現行モデルとなってテールランプのデザインが大胆に変わり、話題となっている。ウエストラインにある薄いテールランプは、その間も細いスモールランプがつなぐことで端正な印象を放っている。


 しかしブレーキペダルを踏んだ途端、その一直線の帯から、強い光を放つブレーキランプが主張を始めるのだ。それ自体は安全のために必要だが、1カ所から放たれる光は、後続ドライバーから見ればやや刺激的すぎるのである。


 さらにウインカーはバンパーの下部にマウントされており、かなり奇抜なデザインである上に、至近距離では被視認性が低い。降雪時には走行によって巻き上げられた雪がウインカーランプを覆い、見えにくい状況になることが話題になった。


 デザイナーが意図したもの、それを支持して採用した開発や販売の現場の判断が間違っていたとまでは言わない。だが、ブレーキランプのまぶしさ、ウインカーの被視認性の低さなどが指摘されるようであれば、安全性を最重視すべき量産車にあっていささかデザインを優先してしまいすぎた感がある。


 トヨタ車でブレーキランプがまぶしいクルマは他にもある。RAV4や先代のアルファード/ヴェルファイア、クラウンクロスオーバー、レクサスNXなどもブレーキランプがまぶしい部類に入る。


 面発光のフィルターを介して広く光らせるタイプであれば、LEDを使ってもまぶしさは感じない。けれども、まぶしさを感じるクルマはブレーキランプの面積を小さくして、LED3灯が点灯する光を直接放つような構造になっているのだ。


●誰からも評価されるのが「いいクルマ」


 もちろんトヨタのクルマだけがまぶしいのではなく、マツダのCX-8など、他メーカーでもこうしたデザインは見られる。


 これらは、照度は基準値をクリアしているから問題ない、ブレーキランプの点灯がスモールランプより強い光だから判別できる、という判断なのだろう。しかし、ブレーキランプがLED3灯によって賄われるということは、それだけ小さな面積で強い光を放っていることになる。後続のドライバーにとって迷惑以外の何物でもない。


 離れたところから見るのであれば、ブレーキランプの点灯が分かりやすく安全だが、低速で走行しているときは車間距離が近くなり、そこで頻繁にブレーキランプが点滅すると後続ドライバーを刺激する。交差点などで停車中も、ずっとブレーキランプの光を浴びることになるのだからたまらない。


 ウインカーランプも、LED化により強い光を放つ車種もある。これも見る角度によっては、かなりまぶしさを感じるものがあり、本来の合図を逸脱しているのではないかと思われるケースもある。


 結局、売らんがためのデザインであり、買ってもらうユーザー以外の配慮に欠けたデザインは、長い目で見て、多くのユーザーから反感を買うことになりかねない。「要は売れればいい」という感覚であれば、ブランドイメージは低下していくだろう。


 「いいクルマ」というのは売れたクルマではなく、購入したユーザー、運転するドライバー、同乗者、周囲を走行するドライバーなどから評価されるものである。


 そんな理想論を言っても、売れなければ意味がないと思う方もいるだろう。しかし日本の自動車メーカーは、ユーザーへの細かい配慮が評価されてきた。


 リアにエンブレムを付けて、後続のドライバーにブランドをアピールしている割には、印象の悪いテールランプを採用するなど、矛盾している要素があるなら、改善すべきだ。これは先の認証試験の不正問題にも通じる、自動車メーカーのおごりと言われかねない。


●自動車メーカーの努力を無にするユーザーも


 また、テールランプを社外品にしているためにまぶしいクルマも存在する。特にトラックではテールランプを改造してたくさん取り付けたり、ステンレスの泥よけやバンパーなどで飾り立てるカスタムを施したりした、いわゆるデコトラが存在する。


 ステンレスの大きな部品、特に泥よけなどの揺れる部品は、後続車のヘッドライトの光を反射して、そのドライバーを幻惑する原因になる。しかし現在のところ、これは規制されていないので、後続のドライバーは防ぎようがない。


 自車のヘッドライトがギラギラと反射してまぶしいなら、追い越すか、ルートを変更して曲がるか、コンビニにでも入って時間をつぶして、まぶしいクルマから離れるしかない。


 テールランプを純正品から社外品に交換している乗用車も珍しくない。これらの多くはデザイン性で個性を際立たせているが、なかにはまぶしく光る製品もありそうだ。なにしろ全ての社外品が保安基準に適合しているわけではないのだから。


 ドライバーは高齢になっていくと、目の老化現象によりまぶしさを感じるようになるものでもある。しかし若年ドライバーからも、まぶしいテールランプは苦痛という声を聞く。それに日本全体でドライバーが高齢化しているのであれば、自動車メーカーはそうしたドライバーの特性に合わせる工夫も必要ではないだろうか。


 運転がしやすい、乗り降りが楽といった乗員目線の評価だけでなく、周囲のドライバーや交通参加者への配慮も出来てこそ、自動車社会になじむクルマとなる。その要求レベルは環境性能や安全性とともに、これからも上昇していくことになるだろう。


(高根英幸)


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