レンジローバーのPHEVがかなり安くなってる! 理由は?

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2024年06月21日 11:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
値上げラッシュの世の中で、英国の高級車「レンジローバー」の価格に異変が起こっている。例えば「レンジローバースポーツ」という車種のプラグインハイブリッド(PHEV)モデルは、昨年より250万円も安くなっているのだ! どうして値段が下がった? どうやって値段を下げた? ジャガー・ランドローバー・ジャパンに聞いてきた。


そもそもPHEVとは?



PHEV(大体の場合、日本ではピーヘブと発音する)というのは、エンジンを搭載するクルマと電気自動車(EV)の「いいとこどり」をしたような車種だ。エンジンとモーター&バッテリーの両方を積んでいるので、燃料を入れておけばエンジンを使って普通に走るし、バッテリーを充電しておけばモーターを回してEVのように走ることもできる。



「EVだと移動中にバッテリーが切れて動けなくなるかも……」という人でも、PHEVなら給油しておけるので心配なし。家や職場でクルマを充電できる人なら、毎日の移動(通勤や買い物)は(距離にもよるが)バッテリーの電力だけで済ませることができる。普段は燃料消費ゼロで、たまに遠出するときにだけ燃料を燃やす、というようなクルマの乗り方が可能になる。

ネットゼロカーボンを目指して



「レンジローバー」「ディスカバリー」「ディフェンダー」「ジャガー」の4ブランドを展開するジャガー・ランドローバーは、クルマの電動化にかなり意欲的な姿勢で取り組んでいる自動車メーカーだ。日本でレンジローバースポーツなどのPHEVが安くなったのも、大まかにいえば同社が電動化モデルの普及に力を入れているからだ。


ジャガー・ランドローバーは2039年までに「ネットゼロカーボン」を実現するとの目標を掲げている。「ネット」というのはクルマの排気ガスをなくすだけではなく、クルマの製造過程など事業活動の全ての段階でゼロカーボンを目指すことを意味する。



目標達成の核となるのがクルマの電動化だ。ジャガーでは現行モデルを一新し、2025年には全てのラインアップをEVとする方針。残りの3ブランドでも2030年までにEVをラインアップする。「レンジローバー」のEVは2024年に発表する予定で、日本には2025年に入ってくる見通しだという。


とはいえ、急にEVに移行するということになると、ユーザーからは不満や不安が出かねない。ジャガーやレンジローバーのファンであれば、大排気量で美しい音がするエンジンに強い思い入れを持っていても全く不思議ではない。そこで大事になってくるのがPHEVだ。ジャガー・ランドローバー・ジャパン マーケティング・広報部 プロダクトアナリストの蓮見昇陽さんはこう語る。



「内燃機関(エンジンを積むクルマ)に乗り慣れている我々が、急にBEVにシフトチェンジをすることには大きな心理的ハードルがあります。PHEVはEVに移行するまでの『ちょうどいいソリューション』です。完全にEVに移行するまでに、充電の仕方や電気でのドライビングなどを体験し、バッテリーでどのくらい走れるかに慣れていただければ、EVにもスムーズに移行できるはずです」

PHEV普及に向けた施策は?



日本でのPHEVの普及に向けてはラインアップの拡充と戦略的な価格設定に取り組んでいる。4ブランドだと今のところ「ディフェンダー」にPHEVの選択肢がないが、「110」というボディサイズでPHEVを導入するべく準備を進めているという。

価格設定はかなり思い切っている。例えば「レンジローバースポーツ」のPHEVは、2024年モデルに比べて2025年モデル(販売中のモデル)の方が250万円も安くなっているのだ。


なぜ安くできたのか。どうやって安くしたのか。どんな工夫があるのか。「大きな工夫はないんです(笑)」と話すのは、ジャガー・ランドローバー・ジャパン マーケティング・広報部 プロダクトマネージャーの生野逸臣さんだ。以下、生野さんから聞いた話をそのままお伝えしたい。



「当然、クルマには利益を乗せて販売しているんですが、(価格を下げるに際しては)単純にそれ(利益)を削っています。(こういう価格で日本で販売すると本社に説明=説得する際の)論法としては、1台当たりの利益は減るんだけど、その分、たくさん売れるようになれば、掛け算としていいでしょ、という話をするんですけど、普通であれば、こういう提案でOKをもらえることはまずありません。それが今回は、イギリス(本社)の理解があるからなのか、もっとPHEVを売っていかなければという提案をしたところ、『仕方ない』というような形でOKがもらえました」



つまり、何らかの素材を減らすなどのコストダウンを実施したわけではなく、単純に利益を削って値段を下げた、ということらしい。今回の価格設定については、英国本社で「副社長レベルまで」話を上げてもらい、OKをもらったそうだ。


ガソリン車とPHEVが同じ値段! どっちを選ぶ?



日本でPHEVの価格を下げて台数を多く売るということは、英国本社にしてみると、生産したクルマの日本への割り当てを増やさなければならなくなるということでもある。ほかの国に割り当てればもっと高い利益でクルマが売れるかもしれないのに、それでも日本向けの台数を増やしてくれるのはナゼなのか。考えてみると納得がいかない。納得がいかないのだが、生野さんからは「確かに、業界を見渡してもレアなケースだと思います。本社側の『心の優しさ』としか言いようがないんです(笑)」との回答が得られたのみだった。



上のスライドをよく見ると、PHEVの値下げにより、ヴェラールとイヴォークでは、ガソリンエンジン車とPHEVが同じ価格になるという特異な事態が生じている。「同じ値段ならPHEVを買おう」というユーザーが増えるのか、それとも、「電動化には抵抗がある」ということでガソリンエンジン車を選ぶ人が多いままなのか。このあたりは「1年かけて検証してみたい」というのが生野さんの考えだ。もしPHEVの販売が大幅に増えるということになれば、ガソリンエンジン車の導入をやめて、ディーゼルとPHEVにラインアップを集約するという話になるかもしれない。



ジャガー・ランドローバー・ジャパンのPHEVモデルは、これまでのところ、そこまでたくさん売れていたわけではなかったという。同社のクルマの購入者でPHEVを選ぶのは、全体の5〜10%程度だったらしい。ただ、同社はPHEVを「2024年の柱」とする方針を掲げ、実際に戦略的な価格設定に踏み切っているわけなので、PHEVの販売割合は間違いなく増えるはずだ。(藤田真吾)
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