物流で守るべき「一対一の原則」とは? 工場物流は「回収作業」を通して生産統制を実行せよ

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2024年06月21日 12:01  ITmedia ビジネスオンライン

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 工場物流作業の中でも比較的、目にとまりにくい作業に「回収作業」がある。この回収作業とは、その名の通り生産ラインからいろいろなものを回収する作業のことを指す。


【画像】生産ラインから不用品などを回収する作業を「静脈物流」と呼ぶ(筆者作成)


 生産ラインに対して資材や部品、完成品容器や生産指示情報などを届けることを血管になぞらえて「動脈物流」と呼ぶ。一方で、回収作業は「静脈物流」と呼ばれている。工場の外では不良品を回収したり、空になった通箱を回収したりすることを回収物流という。工場の中では生産ラインで生産された完成品や空になった通箱、生産過程で発生した廃棄物などを回収する作業のことである。


 このように、回収作業は効率的なものづくりを支える大切な役割であるにもかかわらず、あまり注目されていないのが実情である。生産ラインで出来上がったもの、不要になったものはタイムリーにその場から撤去しなければ生産工程が詰まった状態になってしまう。そこで、物流担当者がそれを回避するための作業を行う必要があるのだ。


●完成品引き取り作業で生産をコントロールせよ


 前回の連載記事「物流現場は『宝の山』 生産効率を最大化する供給改善法とは」では、供給作業を通じて生産コントロールを行うという話を紹介した。生産ラインに必要な数量の部品などをギリギリのタイミングで届けることで生産秩序を保ち、つくりすぎのムダをなくそうという試みである。


 これは物流が計画通りの生産に必要な資材を届けることで生産を制御することから「入口統制」と呼ばれる。入口とは生産工程の入口、すなわち部品などを供給する場所のことだ。


 一方、完成品引き取りで生産を制御することを「出口統制」と呼ぶ。出口とは生産工程から完成品が出てくるところのことを指す。出口統制の基本的な考え方は以下の通りである。


・原則として生産に必要な部品などの供給数規制は行わなくてもよい


・原則として完成品容器も供給数は規制しなくてもよい


・ただし完成品は計画通りの数のみ引き取る


 つまり供給作業では細かなコントロールを行わず、生産工程の出口だけで秩序を保とうとする考え方である。今必要な分(生産計画分)だけしか引き取らないため、生産ラインサイドのエリアには完成品を置ききれなくなり、結果的につくりすぎが規制されるというわけである。


 この回収作業で生産コントロールを行うことで、(決して望ましいことではないが)次のような物流が可能となる。


・部品などの供給時に必要数をピッキングする必要がない


・したがって納入荷姿のまま生産ラインに供給ができる


・完成品容器も一定の数量をまとめてラインに供給できる


 本来であれば、工場内物流は最初に「サービス業としての役割」を果たさなければならない。しかし、上記の方式であれば「生産をコントロールする」という第二の役割は果たしていることになる。工場内物流改善の終着点ではなく、その途上としての位置づけであればこの方式は許される範囲と言えるだろう。


●物流で守るべき「一対一の原則」とは?


 物流には「一対一の原則」というものがある。これは、中身入りの容器を1箱供給したら、空になった容器を1箱回収するという考え方である。特に工場内での回収作業においてこの原則を守ることを徹底していきたい。


 生産ラインに部品などを供給するケースを考えてみよう。供給作業者は生産ラインに部品を供給すると同時に同じ箱数だけ空容器を回収する。つまり、50箱供給すれば原則として空容器を50箱回収することになるのである。


 別のパターンも考えられる。部品などを供給する帰りに完成品を回収するパターンである。物流で避けたいのは、行きに荷を運んでいても帰りは手ぶらという状態だ。工場の中で何も持たずに走っているフォークリフトを目にすることがあるが、これだけは避けたい。工場内物流の運用設計では、一対一の原則を守れるような物流作業を構築したい。厳密に一対一にならなくても「常に行った先で帰り荷がある」状態を構築し、物流上のロスを極小化したいものである。


●返品管理という業務について


 工場では不良を出すことは何としてもなくしたいところではあるが、なかなか不良をゼロにすることは難しい課題だと言えるだろう。いったん不良を流出してしまうとその回収作業が必要になる。それを担うのが物流である。物流では客先から不良品を回収するとともに、それを工場内の必要部署に返却することになる。


 この業務のプロセスにおいて大切なことに、在庫数管理がある。通常であれば客先で返却伝票を作成し、それとともに不良品を返却することになる。しかし、返却伝票に書かれた製品番号や製品名称が実際の製品と異なることがあるので厄介である。場合によっては返却伝票が発行されずに製品だけが戻されてくることもあるのだ。この確認作業に少々手間取ることがあるかもしれない。


 回収された製品は完成品在庫に戻すもの、生産ラインで補修して完成品在庫に戻すもの、廃棄処分にするものなど後処理が必要になってくる。これらの作業についても回収作業の一環として物流が担当することが多いので効率的な運用設計を考えたい。


 以上のように回収作業はあまり目立たないが工場運営にとって重要な作業である。今一度見直し、ムダなやり方をしていたらぜひ改善していただきたい。


●著者プロフィール:仙石 惠一(せんごく・けいいち) 


合同会社Kein物流改善研究所代表社員。物流改革請負人。ロジスティクス・コンサルタント。物流専門の社会保険労務士。


1982年大手自動車会社入社。生産管理、物流管理、購買管理を担当。物流Ierの経験を生かし荷主企業や物流企業の改善支援、各種セミナー、執筆活動を実施。


著書『みるみる効果が上がる!製造業の輸送改善 物流コストを30%削減』(日刊工業新聞社)『業界別 物流管理とSCMの実践(共著)』(ミネルバ書房)


その他連載多数。


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