増える「推し活」トラブル、あなたは大丈夫? 精神科医が原因と対処法を分析

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2024年06月22日 09:00  女子SPA!

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 アイドルやキャラクター、作品コンテンツなどを応援する「推し活」。いまや3人に1人の割合で「推し」がおり、市場規模は8000億円超えを予測されるほどの大ブームとなっています。彼ら、彼女らは日常の4割を「推し活」に費やしているという調査結果も(※)。

 もはや生活の一部となっている「推し活」。推しのおかげで豊かに過ごせている人がいる一方、「推し活」を巡るトラブルで病んでしまうケースも……。人生に潤いを与えるための行為で精神を蝕まれるのは本末転倒です。

 では、充実した「推し活」ライフを送るにはどうすればよいのでしょうか。

『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』(大和書房)を著書に持つ精神科医の熊代亨氏に、「推し活」の楽しみ方やその注意点を伺いました。【前編】では「推し活」に依存するケースや、推しとの距離感についてお話しいただきます。

※出典:HAKUHODO & SIGNING「OSHINOMICS Report」(2024.02)より

◆1対1の「萌え」、集団で応援する「推し活」

――いま「推し活」が大ブームですね。この現象をどう捉えていらっしゃいますか。

熊代亨氏(以下、熊代):私は「推し活」が特別な活動だとは思っていないんです。“ファン活動”自体は、昔から存在していました。

違いを指摘するとすれば、かつてオタクの間で使われていた「萌え」は基本的に対象と愛好家との関係が「1対1」だった一方、現在の「推し活」は、みんなで共通の対象を一緒に応援するという点でしょうか。

――確かに、「萌え」時代に流行った“俺の嫁”という言葉は「推し活」であまり聞きません。

熊代:「推し活」の特徴のひとつは集団性ですね。プロ野球やサッカーなどは20世紀の頃からみんなで応援していましたが、「推し活」はそうした行為とも似ていると言えます。

ただ、「推し活」はCDをたくさん買うとか、同じ映画をリピートで何度も観に行くとかグッズをたくさん集めるとか、お金をかける行為が応援の中に組み込まれている面があるようにも感じています。

そしてもうひとつ、SNSの存在が前提であるというのも特徴でしょう。自分がいかにリピートし、熱心に応援しているかをSNSを通じて他者にアピールする。それも「推し活」では大きい要素になっていると思います。

◆トラブルは「推し活」のせいではなく個人の問題

――多くの人が「推し活」を楽しんでいる一方、まさに金銭面やSNS等でトラブルが発生する事例も見られますね。

熊代:「推し活の功罪」の「罪」については端的に依存しすぎてしまう、あるいは具体的にお金を使いすぎてしまう、ということがよく語られると思います。

ただ、そうした問題を抱える人がもし「推し活」をしていなかったら、お金は使っていなかったのか? 何かに依存することはなかったのか? と考えるとそうではない。

何かに依存しやすい状態にある人、お金をコントロールしづらい心理状態にある人が「推し活」にハマってしまった結果、アンコントロールな状態に陥ってしまうのではないでしょうか。

――「推し活」が孕む問題というより、それを行う個人の性質の問題。

熊代:そう。ただし、その上で社会の問題として考え直すなら、SNS上でお互いの「推し活」を煽り合ってしまった結果、気付いたら活動がインフレしてしまう面もあるでしょう。

あるいは「推し活」をする人にお金を使わせるような、言ってしまえば「搾取」するような仕組みがビジネスとして組み込まれていてもおかしくない。それは個人の問題だけに矮小化してはいけない部分ですね。システムの問題も無視してはいけないものだと思います。

――「推し活」に依存しすぎないようにする秘訣はあるのでしょうか。

熊代:難しいですが、ひとつ言えることは、心を満たしてくれるものがなさすぎると暴走しやすいですね。これは「推し活」に限りませんが、ひとつのものだけが心の拠り所になってしまうと、どうしても人はそこに捕らわれてしまいやすい。

だから、推し以外にも自分にとって大事なもの、心の拠り所になるもの何かがあるほうが、「推し活」自体もスムーズになると思います。推しを複数つくる、という方法も有効です。その場合はアイドル、アニメ……など異なるジャンルで推すのが理想的ですね。

◆「推される側」も意志を持って成長していく

――著書(※)の中で「推しの対象を理想化しすぎない」とも書いていらっしゃいました。

熊代:それが意外に難しいんです。我を忘れて「推し活」に夢中になってしまっている人の中にはやはり、否応なく対象を理想化しすぎてしまう人もいます。あるいは、たまたま推しがSNSで自分に「いいね」をつけてくれたという出来事をきっかけに、気持ちがエスカレートしてしまうこともあるかもしれない。

「推す側」と「推される側」の心の距離感をいかに保つかというのは、理想のファン活動を考える上で大切な要素です。

応援していた相手がスターダムを昇っていくとか、あるいは推していたコンテンツの作風が変わっていくようなことも、きっとあるでしょう。結果、最初は理想の推しだったのに気付いた時には失望して、逆恨みするようになってしまう、といったことも起こる。

※『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』より

――SNSやオンラインイベント等で距離が近くなっている「ような気になる」ことで、複雑に拗れてしまいやすいのでしょうか。

熊代:悩み所のひとつですね。でもそれって深刻な問題であると同時に、実は大事な経験でもあります。「推される側」と「推す側」は別の人間ですし、「推される側」も自分の意志を持って成長していくものですから。

ある時点でファンの気持ちと違う方向に向かっていくのは必然だし、そこで「思い通りにならない」という経験をすることもある。重要なのは、そこで逆恨みをしたりするのではなく折り合いをつけていくことです。

◆「推し活」が苦しくなったら離れるサイン

――「思い通りにならない」ことでトラブルになるケースが多そうです。

熊代:相手に気に入らない部分がみつかったり、カチンとくるような言動をされる瞬間もあるでしょう。でもお互いに許し合うことができると心が成長する、と心理学者のハインツ・コフートは論じています。

それが正しいとするならば、推される側と推す側の間柄で溝が生まれる瞬間があっても、乗り越えられたら心が成長して、より幅広い「推し活」ができるような人柄になれる。

そのために逆恨みしたりするのではなく、推しを理解しようとしてみてください。そうできればきっと相手を推すだけではなく、自分の心も少し豊かになるはずです。

――どうしても受け入れることができない場合は?

熊代:「推し活」が苦しくなったら、やはり加減しなきゃいけないというサインです。そんな状態になってしまったら、「推し活」と距離を取る必要があるかもしれない。自覚して注意したほうがいいですね。

――自分の生活を豊かにするためには必要なことですね。

熊代:せっかく「推し活」するのであれば楽しんでいただきたいのですが、「推し活」だけで人は生きてはいけない。現実とどう辻褄を合わせをするのか、「推す側」と「推される側」の間柄をどうセッティングしていくのかは、意識した方がいいと思います。

その上で「推し活」を自分の日常や職場でも応用できると、より活き活きとした生活が送れるのではないか……そんな風に提案していけたらと。

――応援するのは「楽しいこと」であるはず。

熊代:そう、まずそこが原点です。

<取材・文/鈴木雅展>

【熊代 亨(くましろ・とおる)】
精神科医・ブロガー。ブログ「シロクマの屑籠」にて現代人の社会適合のあり方やサブカルチャーについて発信。著書に『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(ともに花伝社)、『何者かになりたい』(イースト・プレス)、『「推し」で心はみたされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』(大和書房)など

【鈴木雅展】
神奈川県出身。人文科学系出版社に勤務し翻訳書籍等の編集を手掛けた後、フリーランスとしてアニメ雑誌やWEBサイトを中心に各社・各媒体で編集・ライティングを担当したほか、アニメ関連ムック、原画集等の編集に携わる

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