ディズニーリゾート“相次ぐ値上げ”は成功?客層の“足切り”で、客単価は5年で1.4倍に

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2024年06月22日 09:30  日刊SPA!

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Antelope - stock.adobe.com
 経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は東京ディズニーリゾートの運営企業である株式会社オリエンタルランドの業績について紹介したいと思います。
 ディズニーリゾートでは6月6日から、シーの新エリア「ファンタジースプリングス」が開業しています。アナ雪やラプンツェルをテーマとした新エリアは人気を博していますが、入場制限を行っているため、入れない客も多いようです。コロナ禍以降、オリエンタルランドは従来の客数を重視する姿勢から顧客満足度を重視する姿勢へと転換しており、値上げや変動価格制の導入、そして入場制限を実施してきました。こうした施策は客層の“絞り込み”に成功し、結果として業績は以前を上回っています。

◆2018年度の35周年イベントで過去最高の営業利益をたたき出す

 2013年以降、ディズニーリゾート全体の入場者数は年間3,000万人台で安定し、オリエンタルランド全体の売上高も4,700億円で横ばいに推移していました。

 そんな状況を打開したのが2018年度に実施した35周年イベントです。年間を通してスペシャルイベントを実施、テレビCMでの積極的な宣伝もあり、年間来場者数はそれまでの水準を大幅に超える3,256万人を記録しました。客をとにかく呼び込むような施策といえるでしょう。会社全体の売上高は5,256億円、営業利益は1,293億円と過去最高を更新。

 しかし、翌20年3月期は前年の反動に加え、最後の1か月間はコロナに伴う休園を実施したことにより、業績は悪化したのです。

◆さすがのディズニーもコロナには勝てず

 20年3月期から24年3月期の業績は次の通りです。

【株式会社オリエンタルランド(20年3月期〜24年3月期)】
売上高:4,645億円→1,706億円→2,757億円→4,831億円→6,185億円
営業利益:968億円→▲460億円→77億円→1,112億円→1,654億円
入場者数:2,901万人→756万人→1,205万人→2,209万人→2,751万人
営業日:333日→274日→365日→365日→365日

 2020年度は6月末まで臨時休業を実施、入場制限も行ったため年間入場者数・売上高ともに大幅に悪化しました。その後は段階的に入場制限を引き上げたもののコロナ禍は依然続き、22年3月期、23年3月期も軟調に推移しました。

 ちなみに入場制限数の詳細は公開されていませんが、現在、パークチケットを現地で買うことはできず、公式サイトまたはアプリで購入する方式を取っています。

◆5年間で客単価を40%引き上げた

 24年3月期は一転します。売上高は35周年記念の19年3月期を約1,000億円上回り、利益とともに過去最高を再度更新しました。ホテル事業を除くテーマパーク事業の売上高も4,375億円を上回る5,138億円となりました。入場者数自体はコロナ禍以前の水準を下回っているため、24年3月期の好調は客単価の増加に支えられた形です。

 テーマパーク事業単体の客単価は19年3月期平均で1万1,815円でしたが、コロナ禍で年々上昇し24年3月期では1万6,644円となりました。5年間で40%引き上げることに成功しています。この間、入場料の引き上げを4回も実施しており、1デーパスポート(大人1人)の価格は以前の7,500円から、現在では変動価格制を導入し7,900〜10,900円となりました。

◆値上げで上客の絞り込みに成功した?

 お得な年間パスポートも廃止。この他にもディズニーは“有料版ファストパス”といわれる「ディズニー・プレミアアクセス」を2022年から導入しています。ディズニー・プレミアアクセスは1回1,500〜2,500円を課金することで、特定のアトラクションを並ばずに楽しめるほか、専用エリアからパレードを鑑賞できるシステムです。

 ちなみに開業したばかりの新エリア「ファンタジースプリングス」はパークチケットだけで入場することはできません。アプリで特定アトラクションの「スタンバイパス」(無料)を取得するか、ディズニー・プレミアアクセスで課金する必要があります。

 また、特定の宿泊プランを利用する客は1デーパスポートの「ファンタジースプリングス・マジック」(大人22,900円〜25,900円)を購入でき、同チケットがあれば新エリア内のアトラクションを時間指定無しかつ並ばずに楽しむことができます。

 このような値上げと課金システムにより、コロナ禍では客単価が増加しました。ただ、物品・飲食販売の増加も客単価増加の要因であると同社は発表しており、実際に入場料の増額分以上に客単価は増加しています。大きく膨らんだ理由として入場料の値上げが客層の“足切り”をもたらしたことが考えられます。7,500円の客と1万円の客では、入場料以外に使える金額も異なるでしょう。ディズニーは足切りにより、上客の絞り込みに成功したといえます。

◆値上げのきっかけは「満足度の低下」

 従来の客数重視から客単価・質を重視する姿勢に転換した背景には、顧客満足度があります。コロナ禍以前の数年間、ディズニーは顧客満足度の低下に直面していました。日本生産性本部が実施した調査にも結果が現れています。

 繁忙期では2〜3時間待ちのアトラクションも当たり前、異常ともいえる混雑が満足度低下の主な要因です。「地方からせっかく来たのに、混雑であまり乗れなかった」「レストランも混みすぎて行けない」などの意見も聞かれました。値上げにはコスト高を回収する狙いもありますが、こうしたこともあり、同社は質重視への方針へと転換したようです。現在でも繁忙期は混雑していますが、入場者数を見る限り以前よりは緩和していると見られます。

 なお、今後の入場制限について同社は、ゲストの満足度を勘案し、慎重に精査するとしています。国内の消費活動はほぼ正常化し、インバウンドも回復。ディズニーリゾート全体のインバウンド比率はコロナ禍以前で10%程度でしたが、24年3月期は12.7%と比率では増えています。新エリアの人気もあり、国内外問わずディズニーの需要は伸びていくことでしょう。今後の客数次第ではさらなる値上げ、そして“絞り込み”を実施するかもしれません。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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