『寄生獣』に負けない傑作と話題 実写ドラマ配信が迫る岩明均原作漫画『七夕の国』の見どころは?

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2024年06月23日 08:10  リアルサウンド

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七夕の国 全4巻完結(BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [マーケットプレイス コミックセット]

  7月4日より、Disney+(ディズニープラス)にてオリジナルドラマシリーズ『七夕の国』の配信が始まる。同ドラマは、人気漫画家・岩明均による同名マンガを原作とした実写化作品だ。


  岩明の代表作として知られる『寄生獣』は、累計発行部数2,500万部を突破したマンガ史の金字塔であり、アニメ化や実写化などのメディアミックスも行われてきた。それに比べると、『七夕の国』の方はややマニア向けの人気作であり、もしかすると作品の存在自体を知らなかったという人もいるかもしれない。しかし実際には『七夕の国』も『寄生獣』に匹敵するほど完成度の高い物語だと言える。  そもそも 『七夕の国』は岩明が『寄生獣』に続いて連載した作品で、1996年から1999年にかけて『ビッグコミックスピリッツ』にて掲載された。


  物語の主人公は南丸洋二、通称“ナン丸”と呼ばれる大学生。一見どこにでもいる平凡な男子に見えるが、「あらゆる物に小さな穴を空ける」というささやかな超能力を持っている。実をいうと彼は丸神家という超能力一族の末裔であり、その血筋が原因で思いもよらない運命に巻き込まれていくのだった。


  “丸い穴”があくという超能力のビジュアルだけでもどこか不気味だが、とくにインパクトが強いのが黒嶺郡丸川町、通称「丸神の里」にまつわる描写だ。おだやかな田舎町に見えるものの、そこに住んでいる人々は何かを隠しているような態度を取っている。そして丸神家の話題になった途端に急激に態度が変わり、山の頂上ではひそかに奇妙な儀式が行われている様子もある……。


  この町を訪れた丸神正美という大学教授が失踪するところから物語が動き出し、ナン丸や丸神教授の関係者たちが謎を追うなかで、次々と予想外の真実が明らかになっていく。ジャンルとしてはホラーとミステリーの中間にあたり、今風にいうと「因習村」的な設定とも言えるだろう。


  ほかにも、季節外れの時期に開かれる七夕祭り、東北にいないはずのカササギをモチーフにした旗、謎めいた「窓をひらいた者」「手がとどく者」の存在など、丸神の里には数多くの秘密が隠されている。この謎を紐解いていく作者の手腕があまりに巧みなことが、『七夕の国』の大きな見どころと言えるだろう。たった4巻でスピーディーに伏線が回収されていく様は、まさに圧巻だ。


  また、主人公の成長物語としても上手く作られていて、最初は将来のことを考えずに日々を浪費するだけのボンクラだったナン丸は、やがて自分の生き方と向き合い、“やるべきこと”を見つけていく。数千年規模の壮大なスケールのファンタジーと、地に足のついたリアルな青春を両立させているため、多くの人が共感しながら楽しめるはずだ。


『寄生獣』とのテーマ性の違いは?

 「地球上の誰かがふと思った 『人類の数が半分になったら いくつの森が焼かれずにすむだろうか……』」。『寄生獣』の冒頭で描かれる、あまりに有名なフレーズだ。同作はこの言葉に象徴されるように、人類を“地球の敵”として描き出すという画期的かつ野心的な作品だった。


  ある日突然地球外から飛来した謎の生き物が人間たちに寄生し、2つの種による壮絶な生存競争が繰り広げられる……というのが大まかな『寄生獣』のストーリーだが、そこには人間と自然との対立や、“異なるもの”との共生の可能性という現代的なテーマがいくつも詰め込まれていた。


  だからこそ『寄生獣』は今でも傑作として高く評価されているわけだが、そのテーマ性と比べると、『七夕の国』はやや射程が短いように感じるかもしれない。しかしそうした見方は必ずしも正しくないだろう。たしかに人類という大きなスケールの話ではないものの、“共同体”をめぐる深い思索に満ちているからだ。


 『七夕の国』の主人公はナン丸だが、物語の軸となるのは「丸神の里」という共同体に生きる人々。作中で起きる事件は、彼らの信仰心と結びついており、伝統文化に縛られて悩む人の姿も描かれている。いわば独自の文化を築き上げた共同体が“敵”の立ち位置となっている。


  しかし敵と味方の対立では終わらないのが、漫画家・岩明均の真骨頂。共同体をただ否定するのではなく、正面からとことん向き合った上で、対立を乗り越えた先に広がる景色を見せてくれる。だからこそ、現代の読者にも響く普遍的な物語になっているのではないだろうか。


  ちなみに実写ドラマ版では主人公のナン丸役を細田佳央太が演じるほか、藤野涼子や上杉柊平、山田孝之などの出演が発表されている。岩明の“もう1つの代表作”をいかにして実写化してくれるのか、公開の日を楽しみに待ちたい。


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