審査・担保不要で「最大100万円」 PayPayの“借りない資金調達”は何がすごいのか

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2024年06月24日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「借りない資金調達」をうたうPayPay資金調達(PayPay提供)

 PayPayが決済データを活用した新ビジネスに乗り出した。「PayPay資金調達」はデータを使って加盟店の将来の売り上げを予測、その一部を買い取る形で資金を提供する。店舗側の資金調達ニーズを満たすためのサービスだが、それだけではない。PayPayを使えば使うほど多くの資金が調達できるようにすることで、店舗のPayPay利用をさらに促進するのが狙いだ。


【画像を見る】PayPay資金調達は「貸付」ではないので「返済」とは呼ばない


 「何よりもキャッシュレス決済の拡大が目的です。資金調達という付加価値をつけることで、加盟店によるPayPay決済の利用をさらに促進できます」と、PayPay資金調達を立ち上げた金融事業統括本部金融戦略本部の柳瀬将良本部長は語る。


●PayPayの「借りない資金調達」 店舗側のメリットは?


 今回のサービスをPayPayは「借りない資金調達」と銘打っている。「加盟店の声を聞くと、突発的な資金需要はあるものの、金融機関からの借り入れには手間や心理的抵抗感があることが分かりました」と柳瀬氏。借り入れではなく売り上げの早期現金化という形にすることで、店舗側の心理的ハードルを下げる効果を狙っている。


 サービスの主なターゲットは中小店舗だ。「PayPayの加盟店の中でも、QRコード決済のみを導入しているような、比較的小規模の店舗がメインターゲットです」と柳瀬氏は言う。年商の規模でいうと、数千万円から数億円程度の店舗層をイメージしている。こうした店舗では、突発的な資金ニーズが生じた際、金融機関からの融資を受けるハードルは小さくない。


 店舗オーナーからすれば、突発的な資金ニーズに対し、審査や担保が不要で、PayPayのアプリ上でボタン一つで申し込める手軽さは魅力だ。通常の融資なら申し込みに必要な情報を集めたり金融機関に足を運んだりする手間がかかるが、それが省ける。精算も月次のPayPay売り上げから自動で行われるため、店舗側が口座振替の手続きをしたり、精算のタイミングを気にしたりする必要もない。店舗側にとっては資金調達の心理的・事務的な負担が大幅に軽減されるわけだ。


●「融資」と何が違うのか PayPay資金調達の仕組み


 PayPay資金調達は売掛債権の買い取り(ファクタリング)の一種だ。銀行が行ういわゆる融資と違い、審査も担保も不要だ。資金調達の規模は店舗ごとに事前にPayPayが設定する。また精算のペースは月次売り上げの5〜50%の範囲で提示された中から店舗側が選べる。


 「PayPayご利用実績から、今後の売り上げを予測し、その範囲内で資金調達可能な金額を事前にお伝えします」と柳瀬氏は説明する。売り上げ予測は過去の実績だけでなく、店舗の業態や立地なども加味して算出する。


 ここで疑問なのが、なぜあえて「融資」ではなく「ファクタリング」の形を取ったのかという点だ。実はPayPayは、グループ会社のPayPay銀行を通じて、すでに「PayPay銀行ビジネスローン」という融資サービスを提供している。審査はあるものの、最大100万円まで借り入れ可能だ。


 「ビジネスローンは少し規模の大きい資金ニーズに応えるもの。一方、資金調達サービスは、手軽さをウリに100万円以下の少額の資金ニーズを狙ったサービスです」(柳瀬氏)


 あえてファクタリングの形式を取ることで、金融ライセンスなしでもサービス提供でき、手続きの簡便さを実現できる。2つのサービスの住み分けを図っているというわけだ。


 調達金額に対する手数料は3〜18%。金額が大きく返済期間が長いほど、PayPayとして資金を回収するリスクが高まるため、手数料率も高くなる仕組みだ。


 ただし融資における金利とは異なり、期間によらず料率は一定だ。例えば、100万円の調達なら期間によらず手数料は10万円(手数料率10%)といった具合である。そのため、例えば手数料率10%で1カ月かけて返済したら、年率に換算すると120%になってしまう。規制がないため、実質的なコストが融資よりも高くなってしまう可能性があるのには注意が必要だろう。


●PayPay利用データを使って与信


 PayPay資金調達の技術的な特徴は、PayPay決済のデータを用いて与信を行うことだ。


 「PayPayのトランザクションデータを用いて、加盟店ごとの将来の売り上げを予測するモデルを内製で構築しています」と柳瀬氏は説明する。予測の要因としては加盟店の業種や立地、固定客比率などさまざまなデータを活用。機械学習の手法を用いて日々予測精度を高めているという。


 予測には販促実施時の売り上げ増といった特殊要因も加味している。「例えばPayPayのクーポンキャンペーンに参加している加盟店は、売り上げの伸びが大きい傾向にあります」(柳瀬氏)。こうした販促ノウハウの有無も、店舗の売り上げ予測を左右する要因になるわけだ。


 一方、予測とは裏腹に売り上げが立たない可能性も常にある。この点、資金調達実行後も売り上げデータを日次でモニタリングし、リスクの兆候を察知すれば速やかにアクションを取れるようにしているという。「予測がずれた場合に、どこまで許容するか。その線引きを日々調整していくことが重要になります」(柳瀬氏)


●他サービスと比べた利点


 実は、こうした“将来債権の買い取り”という形のファクタリングサービスは、PayPayに限らず、昨今各社が力を入れている分野だ。


 例えば三井住友カードは2024年3月、クレジットカード加盟店向けに「stera finance」の提供を開始。リクルートも2022年4月に「Airキャッシュ」をスタートさせるなど、ここにきてこの分野への参入が目立つ。


 背景にあるのは、キャッシュレス化の進展だ。クレジットカードやQRコード決済など、キャッシュレス決済のデータが蓄積されることで、AIを活用した売り上げ予測が可能になった。以前は難しかった、個人事業主も含めた中小・小規模事業者への融資リスク判断が、データドリブンでできる時代になったのだ。


 競合がマルチ決済端末のデータを元に予測を行えるのに対し、PayPayは現金やクレジットカードなどでの決済の状況は把握できない。ただし、加盟店側の決済情報だけでなく、どのユーザーがどこでPayPayを利用したかという情報も利用できる点が強みだ。


 「私たちは加盟店の決済情報だけでなく、ユーザー(消費者)の情報も持っているので、より高度なデータ分析ができるんです」と、柳瀬氏は競合サービスとの差別化ポイントを強調する。店舗への送客効果の高いユーザー層がどの程度いるのか、PayPay経済圏内での利用額や利用頻度はどの程度なのか――こうした消費者の行動データを売り上げ予測に活用できる点が、PayPayの強みだ。加えて、現在は活用していないが、将来的には消費者の属性情報なども売り上げ予測に生かしていく可能性があるという。


 今後は、こうしたさまざまなデータを売り上げ予測に活用することで、さらなる優位性の確立を目指す。まさに、キャッシュレス化の恩恵を生かした新たな金融サービスの胎動といえるだろう。


 現在はPayPayの取引データが十分にある加盟店への招待制での提供にとどまっているが、対象加盟店を徐々に拡大していく予定だ。将来的に、PayPay以外のQRコード決済や、クレジットカード決済を含む売り上げ全体のデータを捕捉できれば、より大きな資金ニーズに応えられる可能性がある。調達可能額の引き上げも検討課題の1つだ。


 サービス開始から1カ月が経過したが、手応えはどうだろうか。「想定していた申し込み数の5倍近い反響をいただいています。一度利用した加盟店の再利用率も高く、ニーズの大きさを実感しています」(柳瀬氏)。ただし、この実績はあくまで選別した加盟店に対する招待制での数字。今後は対象を広げるとともに、想定外のリスクが顕在化する可能性もある。


 リスクをコントロールしつつ、いかに多くの加盟店の資金ニーズに応えていけるか。PayPayが進める新たな金融サービスは、中小加盟店のキャッシュレス化をさらに促す起爆剤となるだろうか。


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  • でも利息はトイチだったり( ̄〜 ̄;)
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