【インタビュー】多様性を活かした価値創造に挑戦 新タイプの企業体スペースシャワーSKIYAKIホールディングス

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2024年06月24日 12:01  ORICON NEWS

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(左から)スペースシャワーSKIYAKIホールディングス 代表取締役共同社長 小久保 知洋氏、代表取締役共同社長 林 吉人氏
 今年4月1日付けで、コンテンツ・サプライヤーである旧スペースシャワーネットワークグループと、ファンプラットフォーム事業を行う旧SKIYAKIグループは経営統合し、新しい企業グループ・スペースシャワーSKIYAKIホールディングスとしてスタートを切った。両社の強みである「コンテンツ」と「テクノロジー」を掛け合わせて、多様性のあるチームを形成し、エンタテインメント業界に新しい付加価値を提供していくという。この時期に、2社が経営統合に踏み切った背景や、ホールディングスが目指す姿を聞いた。

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■フェアで対等な形の経営統合であることを内外に周知 新社名、共同代表制に込めた想い

――新会社名であるスペースシャワーSKIYAKIホールディングスは、2社の名前を並べ、共同代表という形をとられています。両社が対等にタッグを組まれていることに加え、互いの強みを活かし、新たなサービスを作ろうとする強い意思を感じました。

林 外から見たわかりやすさ以上に、社内に向けて発信する意味もありました。全く異なる出自の会社同士による経営統合なので、両社が1つになっていくプロセスの中で、フェアで対等な形の統合であることをきちんと示していかないと、上手くいかなくなると考えたからです。実際のところ、財務面でも対等に近い状態で、どちらかに買収されたわけではありませんからね。

小久保 ほっておくとどちらかのカラーに寄ってしまって、イノベーションが起きづらくなる。そういう意味でもパワーバランスはとても大事です。ギリギリ均衡を保った状態のほうが、お互いにリスペクトして学び合えますし、新しいものが生まれやすいと考え、この形を選びました。ただ、僕の周囲には、自身の経験に照らし合わせて「共同代表は絶対にお勧めできない」という先輩方もいましたが(笑)。

――スペースシャワーネットワーク(以下、スペースシャワー)は「スペースシャワーTV」というメディアを抱え、熱心な多くのファンをお持ちです。近年、熱狂的なファンによって形成されたコミュニティが生み出す経済圏“ファンダムエコノミー”に注目が集まっていますが、今回の統合により、そういった点も今後、強化していこうとお考えなのでしょうか。

林 ファンダムと聞くと何か少しチープな感じがしてしまうし、スーパーファンと言うと経済活動の話だけのような気がして、どうもしっくりこないのですが、確かにこの領域は注目されていますよね。僕はアーティスト・クリエイター・ファンのコミュニティって、現代社会における“サードプレイス”(第三の場所)と呼ばれる場所に近いものではないかと思うのです。自宅でも、学校でも、職場でもない、自分らしくいられる居心地のいい第三の場所。職場や学校でストレスを受けた時に逃げ込める場所を持つのは大切ですし、今後その重要性はいっそう高まっていくでしょう。そして、いろんなサードプレイスがある中で、自分の好きなアーティストやコンテンツの同好の士が集まるコミュニティの比重は大きくなっていく。これまで、スペースシャワーは、その辺りの取組みがあまり行えていませんでした。今回の統合により、サードプレイスのようなコミュニティを作っていけるのではないか。そこに社会的な意味もあるのではないかと考えました。

小久保 個人的な話になりますが、僕はSKIYAKIの前に10年ほどマッチングアプリを作っていました。当時はなんとか婚姻率を上げようと頑張っていましたが、人生100年時代を考えると、結婚というフォーマットも大事ですが、自分の好きなもののコミュニティに属したいというニーズが高まっていくのではないかと考えるようになりました。そんな時にSKIYAKIと出合い、このプロダクトには大きな可能性があると思ったのです。
 もともとファンプラットフォームは月会費300円程度で、チケット先行販売と定期的な記事更新くらいのサービスが主流でしたが、近年はアーティストとファンの距離を近くする機能が求められるようになり、ファンは推しを単に見ているだけでなく、参加するようになりました。そして、その体験が日常の一部に組み込まれていき、コミュニティ化していきました。僕はこの部分の余地はまだまだあると思っています。例えば、スペースシャワーのイベントでも、ファンコミュニティを活性化させて新しい体験を生んでいけるのではないでしょうか。

林 スペースシャワーがこれまで行ってきたコンテンツの仕事は、セグメントされたジャンルの人たちにどれだけ深く満足してもらえるものを提供できるか。そうやって深掘りしていくことで経済価値を生み出してきました。でも、おそらく僕たちだけでは掘り当てられない鉱脈があって、SKIYAKIのデジタルプラットフォームと接点を持つことで、新たな体験や経済価値が生まれるのではないかと思います。

■コロナ禍でアーティストとファンの関係も変化 新たな習慣への対応力が問われるファンクラブ運営

――SKIYAKIにとっては多様なソリューション機能を持つ、出口を持ったスペースシャワーは、非常に魅力的であったということでしょうか。

小久保 SKIYAKIはファンクラブ単体のサービスなので、もっと踏み込んだ提案をしてみたいと思うこともありましたが、非常に難しかったですね。デビュー時からアーティスト・クリエイターに寄り添い、信頼関係を築くことができれば、もっと相談できるパートナーのような存在になれるのかもしれませんが…。ただ最近は、事務所から独立した方たちから、活動の進め方についての相談を受けることも増えてきています。スペースシャワーのディストリビューションチームも、同様の問い合わせがあるということなので、我々双方のソリューションを活かして、ファンクラブの会員数が増えた、楽曲の再生回数が増えたといった成功事例を作っていければ、アーティスト・クリエイターのライフサイクルに常に登場する存在になり得る可能性があると期待しています。

林 全体で1つの絵を描くことに意味があると思っています。スペースシャワーは、放送やイベント、レーベルやマネジメントなどを通してアーティストディベロップメントに関する経験・知見を蓄えてきました。今回の経営統合により、両社のソリューション群を統合するだけでも意味があると思いますが、それに留まらず、スペースシャワーの知見を活かして、アーティスト目線でそれらのソリューションを組み合わせた立体的な展開プランを提案し、彼らの成長を後押しすることで、本当に付加価値あるサービス主体になっていきたいと思っています。

――コロナ禍でアーティストはファンという存在の重要性を再認識したと思います。それもあり、双方の距離も近くなりました。SKIYAKIも近年、双方のニーズをくみ取り、多くの機能を実装されています。今のファンクラブ運営において、肝になるのは何でしょうか。

小久保 この数年は、SNSの進化の影響を受けて、ファンクラブサービスも進化しなければならない流れになっていますね。それをできない会社がどんどん淘汰されています。例えば、TikTokやYouTubeなどを利用するユーザーが増えると、そこに新たな習慣が生まれます。そうなると、ファンクラブというコアなコミュニティの中にも、そういったエッセンスを取り入れる必要が出てきます。以前はファンクラブのシステムにライブ配信機能や投げ銭機能などはありませんでしたが、今はそれに加えて、One to Oneのビデオトークといった、濃いコミュニケーションツールも実装されているのが現状です。

――先日、YOASOBIの公式コミュニティが「Weverse」でオープンしました。Weverse は、アーティストとファンのコミュニティツールとして、K-POPファンにはおなじみですが、最近では日本人アーティストでも利用者が増えています。ファンクラブのマーケットも競争が激化していますね。

小久保 確かにWeverseは最大の脅威だと思っていますが、アーティストがWeverseを利用する理由は、YouTubeのようなメディアを使っている感覚に近いのではないでしょうか。一方で、もともとファンクラブというのは閉じた空間で、そこに参加した人たちだけの世界を作りたい、といった場所ではあります。そのため、今後Weverseがどう進化を遂げていくのか、YouTube的な広がりを見せていくのか。そこは分からないですが、いずれにせよ注視していかなければならないのは確かです。

■エンタテインメント業界の構造変化 アーティスト・クリエイターにパートナーとして選ばれる企業に

――今回の経営統合の最大のポイントが、ソリューションの強化であることをはっきりと理解しました。それにより、エンタテインメント業界において、どんなポジションを確立していきたいとお考えでしょうか。そのイメージを教えていただけますか。

林 フィジカル、デジタルも含めた、トータルなソリューションを提供できるソリューションプロバイダ、ソリューションプラットフォームを作ることが、これからとても重要だと考えています。おそらく世の中は今よりももっと分散化していくでしょう。世の中の人全員が、組織に属さないフリーランサーになる社会は来ないと思いますが、大企業からベンチャーに移る人、さらには個人で仕事を行う人は、今以上に増えていくはずです。エンタテインメントの世界にもそういった動きはあって、「個人へのパワーシフト」が重要なキーワードになっています。フルパッケージを備えた大企業に属するアーティスト・クリエイターがいる一方で、そうではない道を選ぶ人もいる。そういう人たちが十全に活動できるようなサポートを、エンタテインメント業界の一角にいる我々としては行っていきたい。多様化する各種ニーズに応えられるようなソリューション企業でありたい。クリエイターエコノミーと言われ、多くの人がクリエイターになり得る時代です。その中には素晴らしい才能を持つ人が当然いるわけで、そのビジネスをきちんとスケールするための機能を提供できる企業となる。今回の統合を通して、我々はそんな大きなテーマを掲げています。そのための基盤づくりを着実に行っていきたいですね。

小久保 アーティストやクリエイターの考え方も多様化しています。ある程度、人気を獲得したら大手レーベルに移籍するケースもあれば、その逆もあって、自分たちにフォーカスしてもらえないと感じて個にシフトするケースもあると思います。サポートしてほしいことがたくさんあり、どうすればいいのか悩む人たちに対して、トータルでソリューションを提供できる存在でありたい。当社と付き合っていれば、どんな局面においてもサポートしてくれて、何かいいことしかないよね、ってアーティスト・クリエイターに思ってもらえる状況が作れるようにしたいですね。

――先ほどおっしゃったように、独立して個人で事務所を立ち上げるアーティストやタレントも増えています。それができる時代に変化しているわけですね。

林 大手メジャーほどの規模ではありませんが、スペースシャワーもありとあらゆるソリューション機能を持っています。今後、個人で活動する人が増えれば増えるほど、我々のようなワンストップサービスを欲しがるニーズは増えていくと思います。とくにアーティスト・クリエイターは、自分の才能や価値で生きている人たちなので、自主独立を重視する傾向は強まっていくと思います。何か困った時、何かやりたいと思った時に、パートナーとして選ばれる企業になりたいですね。

小久保 従来のメディアを中心とした経済圏においては、これまでの日本の芸能事務所の型は必要であったと思いますが、昨今ではアメリカのエージェント制度を取り入れる事務所も出てきましたし、独立して個人で活動するアーティスト・クリエイターも増えつつあります。これからは仕事の内容によって適切な外部のパートナーに発注する形に変わっていくでしょう。そういう意味で、今はエンタテインメント業界全体の構造が変わりつつある時期にあります。今回の経営統合は、SKIYAKI側としては、今やらなければならないほど逼迫した状況ではありませんでした。でも、長い目で見ると、今のこのタイミングって、業界が再編されるくらいのチャンスじゃないかと。これからの時代のニーズに合った、新しいビジネスモデルを創造したいと思っています。

撮影・加藤千絵(CAPS)/ 文・葛城博子

林 吉人(はやし・よしと)氏プロフィール:1988年、伊藤忠商事入社。2002年スペースシャワーネットワーク入社。05年セップ取締役、07年スペースシャワーネットワーク執行役員 コーポレート企画室長、16年同社執行役員 エンタテインメント事業本部長、19年同社取締役上席執行役員。21年同社代表取締役社長に就任

小久保 知洋(こくぼ・ともひろ)氏プロフィール:富士写真フイルム(現、富士フイルムホールディングス)、光画印刷、オン・ザ・エッヂ(ライブドア)執行役員、NHN JAPAN(現、LINE)執行役員、Cerendip代表取締役、Diverse取締役を経て、2019年、SKIYAKIへ入社。2020年、同社代表取締役に就任

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