セダンでEV、ホントに日本で売れる? BYDの新型車「シール」を考える

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2024年06月25日 12:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
中国のBYDがセダンタイプの電気自動車(EV)「シール」(SEAL)を日本で発売する。EVは世界的に逆風という話を最近は頻繁に耳にするし、ボディタイプは減り続けているセダンということで、このクルマの先行きについては少し心配になってしまうのだが、実際どうなのだろうか。シールに試乗し、BYDジャパンに話を聞き、ライバルとの比較なども行いつつ考えてみた。


実は堅調? 輸入セダン市場の今



BYDは2023年、日本でSUV「ATTO3」とコンパクトカー「ドルフィン」の2台のEVを発売した。2023年1月〜2024年5月の累計受注台数は2,300台を超えている。今回のシールが日本で発売する3つめの車種となる。


日本自動車輸入組合(JAIA)によると、2023年の「輸入車セダンのセグメント別登録台数」では「Dセグメント」(一般的に全長4.6m〜4.8m、価格帯は350〜600万円)が全体の52%と半数以上を占めている。シールが参入するのはこの市場だ。同じDセグメントの輸入セダンとしてはアウディ「A4」、メルセデス・ベンツ「Cクラス」、BMW「3シリーズ」、テスラ「モデル3」などがある。日本車ではトヨタ自動車「クラウン」あたりが該当する。



この通り、シールが参入する「Dセグメントのセダン」というカテゴリーは、各メーカーの人気車種がひしめき合う激戦区であり、「セダンが売れなくなっている」といわれる日本でも、まずまず堅調な市場でもある。

最大のライバルはテスラのモデル3だ!



DセグメントのセダンでEVということになると、シールの最大のライバルはテスラのモデル3ということになるだろう。サイズ、性能、価格などで真っ向勝負することになる。


ここで、モデル3とシールの最もベーシックなグレードを客観的に比較してみる。



まずは価格だ。モデル3は531.3万円なのに対し、シールは528万円と若干ながら安い。



航続距離はモデル3が573km、シールは640km。フル充電ならカタログ上、シールの方が長く走れる。モデル3には航続距離706kmの「ロングレンジ」 というグレードがあるものの、こちらを選ぶと価格は621.9万円に上がってしまう。



ボディサイズはシールが全長4,800mm、全幅1,875mm、全高1,460mm、モデル3が全長4,720mm、全幅1,850mm、全高1,440mmで、こちらも大差がない。


ここまでスペックが似通ってくると、あとはデザインの好みやブランドイメージなどで判断するしかないわけだが、現時点でDセグメントのEVセダンを購入したいと考える人に対しては、シールの方が有利かもしれない。というのも、導入記念キャンペーン(1,000台限定)として特別価格が適用されるからだ。本来なら528万円のシールが、33万円安い495万円で買えてしまう。地域にもよるが、補助金をうまく活用すれば400万円台前半から最新EVのオーナーになれる可能性すらある。BYDの宣伝をするつもりはないが、ここまで安くなると選択肢に入れざるを得ないのではないだろうか。


BYDは不安? アフターサービス体制を聞く!



シールの試乗後、BYDジャパン技術部門のシニアアドバイザーに話を聞いた。まず、シールの強みは?



「バッテリーメーカーとして、バッテリーを他社よりも安価に手配できることが根底にあります。そのため、Dセグメントでは他社を凌ぐ圧倒的なコストパフォーマンスを実現できました。そこに、欧州のプレミアムカーに引けを取らない高いデザイン性、走行性、安全性が確保できていることが強みです。国産セダン市場は縮小傾向にありますが、輸入セダン市場にはシェア拡大の余地がまだまだ残っています。そこにシールを投入し、『e-Sport Sedan』というポジションを確立することで、存在感を高めることが可能だと思っています」



BYDは日本に参入したばかりということもあって、シールのスペックは気に入っているもののアフターサービスが不安で、購入を躊躇しているという人がいるかもしれない。そのあたりについても聞いてみた。



まず、現時点でBYDは全国に55カ所の拠点を構えている。ショールームを完備した販売店は30拠点だ。2025年末までには全国に100拠点のディーラーネットワークを整備し、実店舗サービスを充実させていく方針だという。目指すのは、どこに住んでいても最寄りのディーラーでアフターサービスが受けられる体制の確立だ。


さらに、横浜には約8万点(!)の部品類を常備しているパーツセンターがあり、ドアやガラスからネジ1本にいたるまで、あらゆるアイテムの在庫を抱えているという。万が一、BYDのクルマが故障したり、不意に事故にあったりしてクルマの修理が必要になったとしても、本国からパーツが届くまでユーザーを待たせることなく、すぐに部品を用意できる万全のアフターサービス体制を整えているというのがBYDジャパンの説明だ。シニアアドバイザーは「日本国内にパーツセンターを構えているのは、他の新興自動車メーカーにはないBYDの強みです」と強調していた。


アンチはいるかもしれないが…



輸入車というくくりでいえば、セダンはまだまだ衰えていない。そこに完成度の高いEVセダンを投入するとなれば、BYDの勝算はそれなりにあるのではないかと思う。ただ、EVそのものを毛嫌いしている人や、BYDが中国の企業であることをマイナスに捉えている人が一定数いるのも確かだ。その点について、担当者の考えは?



「確かに、EVについては『食わず嫌い』な人が多くいらっしゃいます。BYDでは、(ネット販売ではなく)実際に販売店を構えて、気軽にEVに試乗できる環境を整えれば、EVの魅力をより多くの人に伝えるられると考えています。また、我々としては中国企業ではなく、グローバル企業という意識で働いています。決して中国企業がダメということではなく、特定の国にとらわれないグローバルな企業活動をしているという意識なんです。ですから、『日本だから』とか『中国だから』という意識はなく、世界を見て仕事をしています」



クルマには整備、点検、車検などのメンテンスが欠かせないが、アフターサービス体制がしっかりとしていれば、どこの国のどんなクルマなのかはほぼ関係ない。むしろ、アフターサービスが充実しているブランドだということがわかれば、クルマを積極的に選ぶ理由にもなる。



BYDの日本事業に課題がないわけではないが、試乗と担当者へのインタビューを通じ、同社が今後、シールをブランドを代表する存在に育てあげるため、ほぼ完ぺきに準備を整えていることは伝わってきた。


室井大和 むろいやまと 1982年栃木県生まれ。陸上自衛隊退官後に出版社の記者、編集者を務める。クルマ好きが高じて指定自動車教習所指導員として約10年間、クルマとバイクの実技指導を経験。その後、ライターとして独立。自動車メーカーのテキスト監修、バイクメーカーのSNS運用などを手掛ける。 この著者の記事一覧はこちら(室井大和)
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