不足する「AI人材」 社会は変わる、学生はどうする?

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2024年06月27日 09:21  ITmedia NEWS

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 6月14日、AWSが開催した「AIスキルに関する記者説明会」の中で、AIスキルの人材育成に対して新たなプログラムを発表した。これまでAWSでは、技術への投資はもちろん、人材育成として社会人への教育プログラムにも力を入れてきたが、それは当然これまでのAWSのビジネスに直結するクラウドスキルに関するものが多かった。その教育プログラムに、AIを学べるものが加わった格好だ。


【詳細を見る】これから圧倒的に足りなくなる「AI人材」とは


 新たにAIに関する認定資格も2つ立ち上げ、自分のAIスキルを証明できるようになる。


 そもそもAWSが提供するトレーニングサービスは、3つの階層に別れている。AWS Skill Buidlerは、動画によるEラーニングプログラムで、自分が学びたい学習プランを選ぶと、多くの講座の中から適切なものが絞り込まれるという格好になっている。個人向けサブスクは月額29ドルだが、基礎的な講座は無償のものも多く用意されている。


 クラスルームトレーニングは、学びたい仲間が集まってハンズオンしたり、グループディスカッションなどを行って1日〜3日でトレーニングするコースだ。従来は実際に集まって学ぶクラスルーム形式だったが、昨今はオンラインでの実施が増えているという。今回生成AI開発に関するクラスルームが新設された。このコースは過去AWS系の教育プログラムで定評のあるトレノケート株式会社が担当する。


 なおAWS認定は各学習プランやトレーニングと必ずしも直結しているわけではなく、実力が着いたと思ったら認定試験を受験するという格好である。


 筆者も試しにAWS Skill BuidlerでAI人材育成メニューの無料講座を2つほど受講してみたが、日本で製作しているもの、英語のしゃべりに日本吹き替えをあてているものなどがあり、日本語での学習には問題ない。


 一方社会人向けの内容であるため、一部の説明にビジネス用語が出てくる。無料で学べるので学生が学ぶにもいい教材だと思うが、その点が学生には分かりにくいかもしれない。


●AI人材が足りない?


 AWSがAI人材育成に力を入れる理由は、2023年10月から11月にAccess Partnershipと共同で実施したアンケート調査「AIスキルに関するアジア太平洋地域の雇用主および労働者の意識調査」からも見て取れる。


 調査によれば、今後5年間でAIソリューションやツールを仕事で使用するようになると思っている労働者は92%にも及んでいる。AIタスクの割合は技術専門職、技術専門職以外の技術職、非技術職の順になっており、この順番は5年後も変わらないが、伸び率が一番大きいのが非技術職となっている。


 ここで言う技術専門職以外の技術職とは、カスタマーサポート担当者、テクノロジーマーケティング担当者、開発チームと他部門との連携を図るプロダクトマネジャーなどとなっている。また非技術職も肉体労働者というわけではなく、事務員や管理スタッフ、カスタマーサービス担当者等である。そう考えると、一般職ともいえる非技術職でも、5年後にはAIを利用するタスクが40%になっていると予想されているのは見逃せない変化だ。


 一方で雇用者側は、AI人材が不足していると思っており、特に採用に苦労していると答えた比率は韓国に継いで2位となっている。つまり労働者はAIを使うことになるだろうと思っているが、それは「AIユーザー」になるということだ。


 そのユーザーに提供するAIツールは、誰でも使えるUIや専門分野への絞り込み、既存ツールとの連携といった開発行為が必要になる。5年後の期待感とはうらはらに、雇用者はその世界を実現するAIエンジニアが圧倒的に足りないと懸念しているわけだ。


 AWSが無償・有償で多くのプログラムを今から用意している理由は、そこにある。企業のAIへの投資は、まず人材育成からスタートせざるを得ないということは、データが示している。


●大学でAIを教える?


 アンケートでイメージする5年後の世界(28年ごろ)というのは、単に区切りのいい数字にしかすぎないが、日本の学校教育を考えると、妙な符合のあるスパンである。


 高校教育において「情報」が必修となったのは22年のことで、現在の高校3年生が該当する。そして25年度の大学入試、すなわち現高校3年生の入試から、大学入学共通テストでは「情報 I」が必修科目として追加される。


 25年度入学の子たちが就職試験を受けるのが、ちょうど28年ということになる。企業はAIスキルのある学生を採用したいわけが、果たして大学教育はそれに応えられるだろうか。


 現在大学でAIを扱っているのは、情報工学やデータサイエンスといった分野の学部・学科は確実だろうが、他の分野で扱っているかどうか、扱うとしたらどのような使い方なのかは、まだあまり情報がない。そもそもAIが社会で騒がれ始めたのが23年のことで、まだ1年2年ではカリキュラムを立ち上げるのも難しいだろう。しかもAIサービス自体どんどん進化しているので、学問として確立、固定させるのが難しい。


 大学でのAI教育を難しくしているのは、AI利用に対するイメージの悪さだ。大学で真っ先に問題になったのが、課題やレポートをAIにやらせて提出してくる学生といかに戦うかという事だった。大学の方針として、AIの使用は自分のためにならないとして注意喚起したり、その利用を、禁止も含めて教員の裁量にまかせているところも多い。


 社会で不足するのは、AIを使った開発ができるエンジニアであり、理系というイメージが強いが、実際にAIを活用するのは文系の分野である。例えば経営やマーケティング、営業戦略を、AIによるデータ分析なしで乗りきろうとする会社がどれだけ生き残れるだろうか。


 今後の就活を考えれば、文系の学部・学科こそ、「AI活用」という意味でのAIスキルの取得を促進していくべきなのだ。専門性+データサイエンス、という組み合わせがイメージしやすいかもしれない。開発者が足りないというのはあくまでも目先の問題であり、最終的にAIを利用する分野は、理系も文系も関係なく幅広い。


 一方で大学の目的は研究・探求であり、就職のための職業訓練校ではない。膨大な紙の文献に埋もれながら、浮世離れしていても仕方がないのだという考え方もある。だが就職に弱い学部・学科はどんどん生徒数が減り、弱体化していくこともまた事実である。大学はすでに少子化ゆえに子供の取り合いになっており、「就活で強い」は学部・学科だけでなく、大学そのものの存続という意味でも重要なパラメータだ。


 大学は、去年までならChatGPTに目を光らせていれば十分だった。だがすでに今年、Apple、Google、MicrosoftがコンピュータやスマートフォンのOSにAIを組み込み始めている現状では、それらをツールとして利用する学生も、どこからがAIなのか、その境目が溶けて分からなくなってゆくだろう。教員の裁量に任せるといわれても、1人の教員があらゆるOSやツールに精通しているわけではなく、管理には限界がある。


 どの大学でも、あるいはどの学部・学科でも、もはやコンピュータやスマートフォンを使うということは、AIを切り離せないということを認識する必要がある。加えてどこからがAIで実現していることなのか、自分の学びの中にAIをどう使っていくべきかを総合教育科目の中で扱わなければ、試験やレポートの収集が付かなくなるだろう。


 くしくも25年度入学の子たちからは、AIの基礎知識となり得る「情報 I」を必修で学んでいる。加えてGIGAスクール構想で、コンピュータ(iPad含む)が扱えない子もいない。25年度に大学は、大きな変革の波を経験することになるだろう。


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