「壮絶な戦いになる」角川歴彦元会長、国賠訴訟について会見「拘置所の中で涙を流すこともあった」

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2024年06月27日 16:10  弁護士ドットコム

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東京五輪の汚職事件をめぐって逮捕・起訴され、226日にわたり拘留された出版大手「KADOKAWA」元会長の角川歴彦さん(80)が6月27日、長期間の拘束により自白を引き出そうとする「人質司法」の問題を問うため、国に2億2000万円を求める国家賠償訴訟を東京地裁に起こした。


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保釈を認めない検察官と裁判所は、憲法と国際人権法上保障されるべき「人身の自由」などを侵害し、刑事裁判で無罪を争うことに萎縮効果がもたらされ、冤罪を生み出す温床になっているとうったえる。



角川さんはこの日の記者会見で「壮絶な長い戦いになると言われています。裁判所には人質司法の問題を真正面から受け止めてもらいたい。画期的な裁判の結果が出ることを期待しています」と述べた。残りの生涯をかけて戦う姿勢だ。



●医者から伝えられた「拘置所からは死なないと出られない」

訴状によると、角川さんは五輪組織委員会元理事への贈賄容疑で2022年9月14日に東京地検特捜部によって逮捕され、その後、起訴された。一貫して否認を続ける中で、保釈を再三求めたが、検察は保釈に反対し、裁判所も「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」として却下し続けたという。



高齢で不整脈などの持病もある角川さんは、拘置所で新型コロナに感染するなど体調を崩し、主治医から「最悪の場合、死に至る可能性もある」と指摘されたが、拘置所では適切な治療を受けられず、命の危険があったと主張している。



拘置所の医師からは「あなたは生きている間はここから出られませんよ。死なないと出られないんです」と言われたという。



角川さん側は、裁判所は罪証隠滅の「明らかな差し迫った危険」や健康上の重大な危険がなければ、身体拘束を認めるべきではないと主張する。さらに、捜査機関も人質司法を積極的に利用して冤罪を生み出していると指摘している。



弁護団で、団長をつとめる元裁判官の村山浩昭弁護士は「角川さんは人身の自由を中核とした自由が奪われ、死の淵に立たされるところまで追い込まれました。自身の尊厳が侵されている。そのような刑事司法で良いのかと考えて訴えた」と話した。





今回の訴訟の目的は、国際的な批判を浴びる人質司法をつぶさに論証し、その制度改革、運用改善を求めることにあるという。慰謝料として2億円を請求しているが、認容された場合は拘置所医療改善のために寄付するとしている。



●角川さん「大都市のなかに別世界があった」

角川さんは「自分は拷問を受けたのだと感じた」と振り返った。



「東京の大都市の中で東京拘置所というまったく隔離された別世界があることを身をもって体験しました」



「警察の留置所や東京拘置所に入られた人はすべて同じ経験をしているはず」



「226日の中で涙を流すこともあった」



多くの人が屈辱的な身体拘束の屈辱的な体験をしているだろうとしながら、これは「人ごとではなく、リスクは大きいということを共有していただきたい」と訴えかけた。



同じく人質司法の被害でクローズアップされた「大川原化工機事件」では、逮捕された相嶋静夫さんが勾留中に病死した。



「胸が張り裂けそうです。相嶋さんは私と同じ場所にいて同じ経験をして亡くなった。死地を脱した私にはみなさんにお話しする義務があると思います。日本を変えたいと思っています」





冤罪事件の当事者で、大阪地検特捜部に業務上横領事件で逮捕・起訴され、無罪が確定した「プレサンスコーポレーション」(大阪市)の山岸忍元社長も裁判に賛同し、「角川さん裁判頑張ってください」とエールを送った。自身の長期拘留を踏まえて「検察は人質司法の制度を思い切り悪用します」と指摘した。



⚫︎身体拘束されたことのない人にとっても「明日は我が身のこと」

日本の「人質司法」は国際的に遅れをとり「中世」とも批判されている。弁護団によれば、日本で「人質司法」を問う訴訟提起するのは初めてだという。



刑事司法の抱える問題は、事件とは縁のないと生活を送る人には自分ごととして捉えにくいのが実情だ。しかし、弁護団の弁護士からは「経験」したことがない人にとっても身近な問題であり、「明日は我が身だと思う」という指摘が続いた。



村山弁護士は、制度改革を目指す今回の裁判を通じて「1人の人間が拘束されることがどれだけ重大なことかが社会一般の常識になる」と指摘する。



「今は逮捕されたという報道が出ても、皆さん驚かないじゃないですか。逮捕・拘留されることがいかに大変なことなのかがわかるような制度運用なり解釈運用になれば、人身の自由がどれだけ重要なことになるかわかると思います。身近な問題だと思っています」(村山弁護士)



「どんな人だって事件に巻き込まれることがあるわけです。そうなった時に、やっていないことはやってないと言えるし、黙秘権も行使できる。そういう社会になります。今は経験したことでない人であっても、いろんな人がリスクを抱えています。リスクがなくなる社会のために裁判は意義があると思います」(小川隆太郎弁護士)





「海外では重大事件で逮捕された人は翌日には釈放され、自分の意見をその場で言うことができます。それが普通のことです。日本では、起訴事実を認めた人は数日で保釈されるけど、認めないとずっと出られません。そんな社会は少なくとも文明化された民主主義国ではありえない。自分もそんな目に会うかもしれないと考えるきっかけになってほしい」(海渡雄一弁護士)



裁判の提訴とともに、この日、国連人権理事会恣意的拘禁ワーキンググループに申立をしたことも発表された。


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