4月24日、デジタルマーケティングを支援するCARTA HOLDINGS(東京都港区)と人流データ分析を手掛けるunerry(東京都港区)が幹事役となり、リテールメディアカオスマップを発表しました。
リテールメディアは、小売企業の膨大な顧客接点量を強みに、売場やアプリ、ECなどの顧客接点力を広告の価値に転換し、メーカーや地域の企業から広告収入を得てマーケティングに貢献していくビジネスです。
世界一の小売業である米ウォルマートは、リテールメディア事業の売り上げが既に5000億円を突破しているといわれています。売上高全体が約65兆円のウォルマートにとって、5000億円は1%ほどに過ぎませんが、インパクトは決して小さくありません。なぜなら、広告売り上げに原価がほぼかかっていないため、粗利に近しい数値だからです。ウォルマートの粗利率(24%)で考えると、売り上げとしては2兆円(構成比3.2%)に匹敵します。
●従来の競合同士がパートナーに
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出店が飽和し、かつ今後も人口減少が続く日本市場において、リテールメディアは小売業において大きな収益源になる可能性を秘めています。カオスマップを見れば分かる通り、電通、博報堂、サイバーエージェントなどの日本を代表する広告会社やイオン、セブン‐イレブン・ジャパン、トライアルなどの流通企業、さらにECプラットフォームからは楽天、人流データからunerry、アドインテなど、各市場の競合同士が名を連ねています。
旧来の各市場だと、各社はもちろん競合となることでしょう。しかしリテールメディアという新しい巨大なメディアを創り上げるに当たっては、全ての企業がパートナーとなり得ます。
プレスリリースにある「小売/広告/アドテクノロジーの各業界最前線に従事する主要24社とプロジェクトを組成し、主要プレイヤーの洗い出しやカテゴリー検討などの業界分析を重ね、リテールメディアカオスマップ2024年版を作成しました」という文章が、その証明です。つまり、各市場の代表的企業が協議を重ね、このカオスマップはできあがったのです。
カオスマップ作成をきっかけに、リテールメディア市場を各社で盛り上げていこうという大きな契機になっていることは想像に難しくありません。これらの企業が本腰を入れてビジネスを創り上げれば、必ずや大きな潮流が起きることでしょう。
●マスメディアの創成期と重ねてリテールメディアを考えると?
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こうした共創の状況を他のメディアに例えるなら、マスメディアの創成期と似ています。
テレビがなかった時代に電波塔が立ち、いくつものテレビ局が開局し、人が注目する数限りない番組コンテンツが生まれました。テレビ局の発展と並行し、テレビ機器も映像や音の鮮明度、録画機能、さらにネット接続など常に技術革新の歴史を歩んできました。昨今ではコネクテッドTVとしてテレビ広告とオンラインをつなげるサービスも拡大しています。その成果が、圧倒的な人数が接触するマスメディアの確立です。そして、広告サービスを広告主に提案して展開するための橋渡し役を、広告会社が担いました。
0から1を創り出し、日本のメディアの主流になる過程においては、各社が競合として取り合うのではなく、このようにマーケットを創って拡大していった部分が大きかったのではないでしょうか。
リテールメディアに置き換えれば、テレビ局が小売企業、テレビメーカーがサイネージ企業やAIカメラ企業、テレビとオンラインのハブを担うのが人流データやビーコンです。広告会社はプロデューサーを担うことになるでしょう。その役割はサービス設計や他媒体との差別化、IT・データ連携からメディアの事業計画書まで多岐にわたります。「ビジネスプロデュース企業」と表現するのが適しているかもしれません。
今回のカオスマップには各社のロゴが配されています。これは単なるプレーヤーの配置を示したものではなく、これだけ力を持った企業が手を取り合い、ともに新しいメディアを創り上げる覚悟を示しているといえます。
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今後は、各社の店舗への集客数、POSデータ、アプリ会員数、ECアクセス数などの多寡に応じ、各社のメディアポテンシャルを算出し、広告サービスを設計。その上で営業、というフェーズに入ることでしょう。
一方、今回のカオスマップにロゴがないような小売企業は、次のように感じているのではないでしょうか。
「リテールメディアが活況なのは分かる。しかし、小売企業が本当に広告で売り上げを生み出せるのだろうか。まして当社は、アプリ会員数やECへのアクセス数がまだこのカオスマップに載っている企業ほどには至っていない」
こうした企業にも、すぐ実行可能な策があります。人流データやビーコンとの連携です。人流データやビーコンにより、既にスマホの移動経路などのデータを持っている企業と店舗情報を連携することで、早期にメディア化できるのです。
●リテールメディア発展の10ステップ
今後、リテールメディアは次のような10のステップで発展していくことが予想されます。
(1)一部のイノベーティブカンパニーがリテールメディアの可能性に気付き、先んじて着手
(2)アーリーアダプター企業が追随しリテールメディアの構想を策定し広告会社などと協議を開始
(3)市場を牽引する主要なプレーヤーがメディア産業の確立へと手を取り合う
(4)アーリーマジョリティ企業が構想策定やメディア設計準備を開始
(5)メーカー向けの広告提案モデルやKPIが確立
(6)メーカーにおける成功事例が蓄積、データ分析精度の向上
(7)中堅・中小小売業も市場参入
(8)小売業横断型のリテールメディアサービスが拡大
(9)リテールメディアで得たデータを主事業である小売のマーケティングに活用し価値拡大
(10)グローバルでも同様のモデルで収益拡大
現状は(3)辺りであり、これから求められることが(4)〜(5)です。(4)は各企業のスタンスによって判断は分かれることから、(1)〜(2)の企業の成果状況に影響されることが多い部分です。 成果にはリテールの収益だけではなく、広告を出稿したメーカー側の成果も含まれます。そもそもリテールの成果とメーカーの成果は対をなしているといっても過言ではありません。顧客への成果なくしてビジネスの継続なし、だからです。
そのため、今後リテールメディア市場拡大の鍵を握るのがメーカーへの提案モデル・KPIの確立です。広告費用を投じるメーカーは、既にマスメディアやオンラインメディアを含め、多角的に広告を展開しています。マーケティングのレベルも日進月歩してきた歴史があるため、数値分析や費用対効果にもシビアです。新しいメディアであるリテールメディアは注目を集めやすいですが、費用を投じるメーカー側にとって、旧来の広告展開以上の価値や成果を感じれるものでなければ長続きはしません。
メーカーの対象商品のターゲットやブランドポジションはどのような状況か。そのメーカーが展開してきた広告の成果や課題は何か。どのようなKPIを上回ることが今後求められるのか。このような投げかけにリテールメディアの提案が明確に応えられ、かつコストメリットも提供できなくてはなりません。
YouTubeの視聴単価は4〜6円が相場だが、それと比較して店舗のサイネージはどうなのか。オンラインのバナー広告の表示単価は0.3円ほどであるが、ECサイトの広告表示単価はそれを下回ってくれるのか。あるいは、店舗の利用者とオンラインの相関率は何%なのか、競合商品購入者の移行率は何%なのか――など、求められる指標は挙げればキリがありません。
リテールメディアのインフラ基盤ができつつある中、今後のテーマは最大の難関である、お金を投じる顧客への価値創出です。メーカー側にとっても今までテレビCMやWeb広告に大きく投じてきた費用をシフトすることは大きな決断であり、慎重に判断することが予想されます。メーカーの商品によっても提案内容は大きく変動し、カスタマイズ力を求められることでしょう。小売業と、広告業界の柱となる可能性を秘めているリテールメディア市場において、メーカーの出稿判断と成果事例に大きな注目と期待が集まるところです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(佐久間俊一)
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