夏の激安ラブホに潜んでいた“黒い影”。「立派に育った大物」の正体は…

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2024年07月01日 16:20  日刊SPA!

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※写真はイメージです。
 夏のラブホ、それは刺激を求める人たちが訪れる場所。付き合いたてのアツアツなカップルから、一夜限りの秘密の関係まで……そんな場所に、時に招かれざる客が紛れ込んでしまうことがある。
 筆者(帆浦チリ、以下帆浦)は過去に、彼氏と訪れたラブホの部屋で、大きなトラウマになった経験がある。

◆悲劇の舞台は“リゾート風のおしゃれなラブホテル”

 当時の帆浦とその彼氏は遠距離恋愛中。お互い実家と社員寮に住んでいてどちらかの家にお邪魔はできなかったので、遊ぶ時は前日の夜にラブホに一泊して、次の日に出かけるという感じで過ごすことが多かった。我々は同棲を始めるまでに全国津々浦々、結構な数のラブホに宿泊してきた。だがお互い気分屋で、とくに彼氏は行き当たりばったりな性格なのもあり、前もって部屋を予約するという堅実な行動を一切したことがない。むしろ、「ラブホを予約するなんてナンセンス。ホテルも旅もその時のフィーリングで決めるから楽しい」とか考えていた。

 そんなことを繰り返していたせいか、予想外の出費も多く常に金欠気味だったので、もっぱら安めのラブホを探しがちだった。

 その日もホテル街をドライブしながら彷徨っていたら、たまたま、青々とヤシの木などの植物が生い茂り、クワガタやセミが元気過ぎるくらいに飛び回る敷地に建つ、レンガ屋根のリゾートな雰囲気のラブホを発見した。値段も安いし、「南国リゾートみたいでおしゃれ!」という安易な理由で宿をここに決定。

 これが悲劇の始まりだった……。

◆「見て! トトロに出てくるお家みたい!」盛り上がっていた矢先に覚えた違和感

 土日だったせいかそこそこ賑わっていて、空き部屋も少なかったので目についたところにすぐ入室。内装は見ずに選んだのだが、入ってみると和洋のレトロで雰囲気のあるステキな部屋だった。安かったこともあり、とくにクオリティは期待していなかったので「広ーい! おしゃれ!」と俄然テンションも上がる。

 和室には、ドリフのコントに出てきそうなちゃぶ台と小ぶりなテレビがあり、棚に並べられた漫画や成人雑誌がなんともいい味を出している。隣の洋室とはふすまで仕切られていて、壁には丸い大きな飾り穴が空いていた。この穴が「となりのトトロ」のサツキとメイたちが引っ越した家の壁にある、大きな飾り穴にそっくりで大はしゃぎ。

「見てみて! これ、トトロに出てくる家の壁にある穴みたいじゃない⁉」

 とか言いつつ、子どものようにそこから身を乗り出して室内を覗き込み、トトロごっこをする帆浦。その瞬間、視界をものすごい速さで黒い影が横切ったのを、確かに感じた。

「ん? 虫……?」

 そう、気にならないほどの虫だったらよかったんだが。

◆素早く動く黒い影が、正体を現す

 気のせいだと思いたかったが、それにしては存在感がありすぎた。とてつもなく嫌な予感……。男の浮気と害虫に対して、女の勘は高確率で的中する。そもそもよく考えたら、たくさんの植物に囲まれたこのホテルの立地環境では、室内にどんな虫が出てもおかしくないのだ。脳内に絶え間なく浮かぶ最悪のイメージ。真夏の蒸し暑い夜なのに止まらない鳥肌。とりあえず、隣の洋室で呑気にくつろいでいる彼を呼ばなければ。

「ねえ! 気のせいかもしれないんだけど、今そこに……」

 彼氏に確認してもらおうと大きめの声を出した途端、ちゃぶ台の足元の死角からものすごい勢いでそれが飛び出してきた。真っ黒でツヤツヤな体、不規則に動く長い触覚、間違いなく夏の天敵代表、ゴキブリだ。

 やっぱり気のせいじゃなかった!! どうしてよりによってこの部屋なの⁉ 本気でゴキブリだけは無理なんだよおおお!! 湧き上がるさまざまな感情が全て「ギャー!!」という渾身の叫びに変わる。この世の終わりのような絶叫を聞き何事かと駆けつけた彼氏に、取り乱しながらも状況を説明する。

「おー、立派に育った大物!」

 ビビりまくっている帆浦を横目に、彼氏はなぜか感心している。

 相手がゴキブリじゃなければ「立派に育ってくれて、お母さんも嬉しいだろうね!!」とかツッコんでいるところだが、今はそれどころではない。一刻も早くこの絶望的な状況を打破しなければ。

◆「そこのメニュー表とって」彼氏がとった独特な撃退法

 しかし、殺虫剤もハエ叩きもないこの部屋で、どうやってヤツを退治すればいいのか。スリッパやティッシュ箱の裏で叩いたらラブホの備品が汚れてしまうし、そもそも予測不可能な動きを繰り出されるんじゃないかという恐怖で、1ミリもヤツに近づくことが出来ない。

「どうしよう!?」と帆浦がオロオロしていると、彼氏がおもむろに部屋の隅にあったゴミ箱を掴んで、ゆっくりとゴキブリに近づく。

「ほっ」

 素早く上からかぶせて閉じ込め、次の指示を出す。

「そこの棚にあるメニュー表をとって」

 メニュー表なんか何に使うんだ…? と思いながらも言われたまま渡すと、彼氏はまるで丁半博打の壺振りのように、ゴキブリの上に被せたゴミ箱を激しくゆすり始めた。なるほど、ゴミ箱とメニュー表で挟みこんでそのまま外に投げ出す作戦だ。だが、元気いっぱいなままのヤツを閉じ込めようとしても、うっかり隙間から逃げだされる可能性があるから、あんなにゆすって動きを鈍らせようとしてるんだ! 突如始まる人間VSゴキブリのフィジカル対決。だが、相手は人間より遥か昔から存在し続ける強敵。そんな簡単にくたばるとは思えない。

 ひとしきりゴミ箱をゆするとピタッと動きを止めた彼氏。小さく息を切らしているが、そんな強度の運動だったか? 「お前さん、なかなかやるじゃねえか」とでも言いたげな顔でゴミ箱を見つめている。一体何を見せられているんだろうか。いよいよ、ゴミ箱の下にメニュー表をゆっくりと滑らせる彼氏。かなり離れた場所からハラハラしながら見守る帆浦。緊張の一瞬。

「……ふはっ」

 突然、彼氏が笑いだす。何が起きているのか分からず、ゆっくりと近づいて恐る恐る覗き込むと、メニュー表の上には散らばるゴキブリの足があった。な、なるほど……素早く走る自慢の足が千切れてしまっては、逃げるにも逃げられないはず。心底ゴミ箱内の状態は確認したくないけど……。

「足チョンパしちゃった、ごめんね」

 申し訳なさそうにゴキブリだったものに謝る彼氏。全力でぶつかり合った戦友のことだ、ゴキブリもきっと許してくれるだろう。それより私は今すぐにでもこの部屋を出たいな、ごめんね。

 結局その後、連絡していたラブホのスタッフさんが来てくれたので、処理はお任せした。スタッフさんは、部屋の中の不思議な状態のゴミ箱とメニュー表を見て首を捻ったのだろうか、それとも、彼氏と同じように可笑しくなってしまって笑っているのだろうか。どちらにせよ、お店の備品であるメニュー表をあんな用途で使ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいではある。ラミネートされていたのがせめてもの救いだ。

 それ以来、帆浦はこのラブホを“Gホテル”と呼び、恐れるようになった。真冬の寒い日以外は訪れることがなくなったが、どうしても他に空き部屋が見つけられず、泣く泣く恐怖に慄きながら再訪した夏の日もあった。そして不思議なことに、こんな目に遭いながらも、我々は同棲初日を迎えるまで予約するということを全く覚えなかった。

◆夏のラブホテルでは様々なスリルにご用心

 ラブホを訪れる時は、知り合いに見られたらどうしようとか、考えてしまうものだが、そんなハラハラドキドキのスリルすらも、一夜を楽しむための要素だろう。

 でも、一歩部屋に足を踏み入れたその瞬間には、また違った意味でのスリルが潜んでいるかもしれないということを、ほんの少しだけ覚えておいてほしい。

<文/帆浦チリ>

―[ラブホの珍エピソード]―

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