災害支援、にぎわい作り……自治体との提携も続々、コロナ禍を経たキッチンカーの「いま」を聞く

0

2024年07月03日 07:31  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

Mellow本社前に出店しているキッチンカー(編集部撮影)

 災害対策における「キッチンカー」の存在感が増している。機動力や調理のプロの手を生かし、災害時に避難所での迅速な食事提供が可能なことから、事業者団体と自治体との提携が続々と結ばれているのだ。3月には滋賀県、6月には徳島県が、関係する地元の団体と協定を締結した。


【画像】災害支援で提供した食事など(計7枚)


 キッチンカーと空きスペースのマッチング事業を展開するMellow(東京都千代田区)は、2019年からこうした災害支援に取り組んでいる。コロナ禍において新規の参入が増えたといわれるキッチンカーだが、災害対策の現場をはじめ、単なる「数」以上にその活躍シーンは広がりつつあるようだ。代表の石澤正芳氏に話を聞いた。


●全国で3000台が登録、ITにも注力


 Mellowはキッチンカー事業を中心に、店舗型モビリティと空きスペースのマッチングを行うプラットフォーム「SHOP STOP」を2016年から展開する。現在では約3000台のキッチンカー事業者が登録しており、首都圏の大手デベロッパーやゼネコン、自治体を主な対象として、1000を超える空きスペースと契約を結ぶ。売り上げの15%を同社が出店料として受け取り、うち5%程度を土地のオーナーが受け取るというシステムだ。


 出店場所の紹介とあわせて、月間52万食(2023年12月時点)という購買データをもとに、立ち上げのサポートや新規参入者への現場指導といった経営支援を行う。売り上げや出店スケジュールはITツールで一元管理しており、店舗ユーザー向けの出店情報アプリ「SHOP STOP」も提供するなど、デジタルの活用にも注力する。


●コロナ禍を経た「イメージの変化」


 キッチンカー事業者は、コロナ禍によって新規参入が増えたといわれる。Mellowの事業規模も、2019年12月末から2023年12月にかけて、トラック数は4倍に、契約スペース数は6倍に伸びた。オフィス街から人が減れば住宅街に移動できるといった移動型店舗の機動力や、「三密」を回避して食事を購入できる点が強みとなった。


 しかし、石澤氏は「店舗を持てない人たち」「屋台文化の派生」といったキッチンカーのイメージが変化した感覚の方が大きいと話す。「移動型店舗のメリットが注目されるようになった。キッチンカーの収益化は難しいと言われるが、飲食店の廃業率はどこも高く、結局はその店舗次第。『戦略的に運営する』選択肢がありなんだ、という気づきがあったのでは」。


●有志の災害支援は「かえって迷惑」? 善意を生かすには……


 キッチンカーの活躍の場は、その他の面でも変化しつつある。石澤氏が力を入れる取り組みの一つが防災だ。


 きっかけは、同氏がキッチンカーのオーガナイズ事業を展開していた2011年の東日本大震災。災害時に避難者に温かい食事を提供したいと支援を申し出る事業者は多かったものの、それぞれが個別に「何かできることはないか」と行政に連絡してしまうことで、かえって現地の負担につながってしまう問題を目の当たりにしたのだという。


 しかし、一般人による炊き出しには食中毒の発生事例もあることから、プロの手による支援に需要があるのも事実だ。それならばプラットフォームが信頼性を確保することによって、キッチンカー事業者の支援を被災者につなげられないか――そんな意図から、2019年の9月に組織されたのが「フードトラック駆けつけ隊」。災害時の炊き出しや支援物資の運搬を目的とした、登録事業者による任意団体だ。


 組織後1週間と経たずに発生した令和元年房総半島台風の際には、「この場所に来てほしい」という自治体の要望をMellowがとりまとめてSlackで事業者に共有するという仕組みにより、32の事業者によるキッチンカーを派遣。市原市、館山市、南房総市、山武市で、延べ4000食の食事を提供した。参加した事業者の拠点には千葉県のほか、東京都、神奈川県、埼玉県といった近隣自治体も含まれる。


 また、コロナ禍の2020年5月〜8月には、東京都と神奈川県内の複数の病院において、感染対策の観点から飲食店の利用が困難な医療従事者に対して支援を実施。110の事業者により、延べ1万1602食を提供した。


 こうした取り組みを受けて、自治体からの「提携したい」という申し出も増加。地域住民の避難先となることが多い「大学」との契約も増えつつあるという。


●ボランティアの負担、営業許可……課題も


 しかし、活動の中で難しさが可視化された側面もあり、課題は多い。


 まず、支援にあたっての負担を、ある程度事業者の持ち出しに頼らざるを得ない点だ。房総半島台風の際には、特に熱意のある事業者に負担が偏る問題も生じてしまったという。


 「熱い人は毎日行きたくなるんです。だから、『あなたは今日行ったから明日はいいです』とスケジュールをわざと外しました。その人自身が続かなくなったら、長期的な支援なんかできない。事業として成り立つようにコントロールしなきゃいけないなと、この時感じました」(石澤氏)


 こうした状況を受け、Mellowは2021年に「フードトラック駆けつけ隊」を社団法人化した。いまだ資金面では十分とはいえないものの、これによって賛同する企業から月ごと、あるいは災害等の事案ごとに活動費・食材の提供といった支援を募り、事業者に補填(ほてん)するという仕組みを整えつつあるという。


 また、「(出店場所の)ネットワークが整っていないと、発災時の支援活動は難しい」と石澤氏は話す。土地勘のない場所にいきなり向かっても、例えば道路が寸断されていれば迂回(うかい)路を探すことすら難しいためだ。


 さらに、自治体との調整の問題もある。災害時の無償での炊き出し行為に対して、食品の「営業許可」は求められない。しかし、キッチンカー事業者が炊き出しを行おうとする場合には、見かけ上「営業」との区分が難しい。そのため、一般のボランティアと異なり、市町村単位で発行される営業許可の有無を聞かれることで、支援につながらないケースも少なくないのだという。


●「○店舗にまで増やす」のではなく……


 欠かせないのが行政との連携だ。公園などの公共スペースへの出店は、防災対策の面からもニーズがあるほか、にぎわい創出の観点でも自治体にメリットがあることから、連携できないかとの声もあるという。


 しかし、キッチンカー事業は公園課、地域振興課といった複数の部署との調整を必要とする。そのため、縦割り組織が障壁になってしまい、導入の話があっても民間企業と比べてなかなか進まないケースが多いそうだ。


 提携が成功した例もある。世田谷区では部署をまたいだ横断型チームがMellowと提携し、役所前や公園にキッチンカーを導入。にぎわい創出に一役買う結果となった。少なからぬ反響があり、他自治体からの問い合わせにもつながっているとのことだ。


 避難所で炊き出しを実施する旨の自治体との協定は、Mellow以外の事業者においても増えつつある。石澤氏は「千葉県など、発災時に備えて実施要件を明文化する自治体も出てきた。平時はしっかりと事業者が成り立つ経済活動を行い、発災時はそれをぐるっと支援の場所に変えられる体制を作りたい」と話す。


 Mellowは今後、どのように事業を広げていくのだろうか。石澤氏は、「『何店舗にまで増やす』というよりは、社会的なネットワークにしていきたい」と語る。


「主に浸透しているのは首都圏ですが都心に偏っていて、郊外の団地などにはなかなか進出できていません。でもそういう所の方が、僕らのサービスは活きるはずなんですよね。ローカルエリアに広げていくためにも、まずは各都市に拠点を作っていけたらと思います」


    ニュース設定