両親が卒婚という形をとり、それぞれ自由に暮らしているように見えたものの、実は……という話を、娘の目から語ってもらった。
65歳で定年退職した父が実家へ戻る
65歳で会社勤めをやめた父が、北関東の自分の実家で暮らすことになり、都内の自宅に住む母と別居した。娘のアキさん(37歳)は、そんな風に話し始めた。「私の目から見て、両親は仲がよかった。2歳違いの弟がいますが、弟も同じ感想をもっています。だから父と母が別に暮らすことにしたと聞いて少しびっくりしたんです。ただ、母はもともと東京生まれだし、父の実家では暮らせない。パート仕事をしながらひとり暮らしを満喫したいと」
アキさんも弟も独身だが、東京郊外の実家を出て独立している。その時点で父の実家には90歳になる祖母がいた。父は自分にとっては実母である祖母の世話をしながら畑を耕し、昔の友だちと旧交を温めながら暮らしていきたいと母に言ったそうだ。
「祖母は当時、元気だったんです。畑にも出ていたくらい、足腰もしっかりしていた。父は18歳で東京に出てきてからあまり親元にも帰っていないし、最後は親孝行したかったんでしょう。母はそういう認識だったようです」
祖母が亡くなり、父は実家でひとり暮らし
2年ほど90代の母と60代の息子はともに生活したが、ある日、祖母が転倒して入院、そのまま脳梗塞を起こして還らぬ人となった。それが3年前のことだ。父はそれからも実家で暮らし、今年70歳を迎えた。
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家に近づいたときアキさんが見たのは、畑から女性と腕を組み、ベタベタしながら自宅に入っていく父の姿だった。見間違いかと思って、何度も見たが、やはり隣に女性がいた。
「どうしようかなと思いましたね。単に近所の人に畑を手伝ってもらっているだけだったら腕を組んだりしませんよね。いや、でもふたりともいい年だから支え合っているんだろうかとか、いろんなことを考えてしまいました」
それでも真相を確かめようと、アキさんは父の実家へ入っていった。
夫婦みたい? 父と見知らぬ女性の関係は
玄関で声をかけると、父と同世代の女性が出てきた。アキさんは名前を名乗って「父に会いにきたんですが」と言った。女性は慌てて奥へ駆け込んでいった。「父が出てきて、『おう、よく来たなあ』って。上がってと言われたので、上がりました。リビングに通されて座っていると、父がお茶を運んできた。『さっきの人は誰?』と聞いたら、『近所の人だよ。畑を手伝ってもらっている』と予想通りの答え。
『近所の人と腕を組んで、ベタベタしながら道を歩くんだね、お父さんは』と言うと、父は慌てふためいていました。いや、そういうことじゃなくて、あの、その……という感じ。まあ、別に私は構わないけどねと冷たく言うと、父は『お母さんには内緒にしてほしい』って」
内緒にしてほしいような関係なわけね、とアキさんが言うと、父は「そういうことじゃない」と言いながら、彼女が小・中学校時代の同級生で、夫に先立たれて近くでひとり暮らしをしていると明かした。
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この事実を母に知らせるべき?
父は別居後も2カ月に1回ほど東京の自宅に戻って2〜3日過ごすことはあったが、母はまったく父の元を訪ねなかった。離れているのが当たり前になっていったとき、父は実母を失った寂しさもあって女性と親しくなったのかもしれないと、アキさんは一定の理解は示している。「両親の夫婦の問題だから、私は別に口を出さないけど、こういう暮らしを平然としているのは母への裏切りだとは思う。離婚するならするではっきりさせたほうがいいんじゃないのと言うと、父は『いや、離婚なんてするつもりは……』とモゴモゴ言っていましたね」
アキさんは母にはその話をしていない。父を庇うつもりはないが、母を傷つけるつもりもないからだ。母は68歳になった今もパートをしながら、毎日元気に楽しんでいる。
「それでも父に何度か連絡はしました。相変わらずなのか、と。父には適当にかわされていますから、相変わらずなんでしょう。父と彼女と母、誰かが病気になったりしたときどうするんでしょうね。弟に言ったら、『放っておけばいいよ』と一言でした。
気にはなるけど、放っておくしかないんだろうなと私も思っています。ときどき、母に真実を知らせるべきかもしれないとは思うんですが、やはり伝える勇気は出ません」
アキさんは困ったような表情でそう言った。この先、どうなるかわからないが、母に言っておけばよかったと思う日が来るのか、言わないでよかったという結末になるのか、それは誰にもわからないのかもしれない。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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