わずか2、3年前、パリ世代はセンターバック(CB)の人材難が不安視される世代だった。
不当な低評価、ではなかっただろう。実際、他のポジションに比べ、所属クラブで出場機会をつかんでいる選手は数少なく、当然、目立った活躍をする選手がいるはずもない。
パリ五輪本番ではオーバーエイジ(OA)枠の活用が必須――。それが、この世代のCBに対する当たり前の評価だったのだ。
早くから冨安健洋や板倉滉がOAの候補として名前が挙がっていたのも、そんな事情が影響していたはずである。
しかし、U−23日本代表がパリ五輪での戦いを終えた今、その評価を改める時を迎えている。
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木村誠二と高井幸大のCBコンビは、それほどに優れたパフォーマンスを披露していた。
守備の面でまだまだ緩さがあることは否定できないが、ロングボールに対しても簡単に高さ負けすることがなく、相手の前でボールを奪いにいく積極的な姿勢を保ち続けることができるのは魅力的だ。
また、ふたりに共通するのは、攻撃面での能力の高さ。自らボールを持ち出しながら周囲の状況を見極め、前線に縦パスを"刺せる"技術と判断は特筆すべきものを持っている。
ふたりはそろって、日本が優勝したU23アジアカップ(兼パリ五輪アジア最終予選)の時にも主戦CBとしてコンビを組み、出色の働きを見せていた。
次はパリ五輪本番の舞台で、どんなパフォーマンスを見せてくれるのか――。そんな期待を持ちつつも、同時に不安がなかったわけではないが、世界でも十分に通用するレベルにあることを証明してくれた。
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即A代表入りはともかく、少なくとも将来的なA代表入りを期待させるには十分なパフォーマンスだったと言えるだろう。
かつては世代別も含めた日本代表の悩みの種であったCBも、最近では世界で通用するだけの人材が育っている。
10数年前なら、ヨーロッパで活躍する日本人選手と言えば、技術や俊敏性に優れたMFと相場は決まっていたものだが、時代は変わり、多くのCBがヨーロッパでプレーしている。ヨーロッパ屈指の強豪クラブ、アーセナルに所属する冨安はその筆頭だろう。
もはや隔世の感を覚えるほどに、CBの選手層は確実に厚くなっている。
だが、今年8月で36歳になる吉田麻也が代表から遠ざかり、代表常連の谷口彰悟もすでに33歳。冨安、板倉に続く人材の確保は、安泰とは言えない状況になりつつある。
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だからこそ、木村と高井には期待したい。
ともにようやくJ1でコンスタントに出場機会を得るようになったばかりであり、経験という点では十分とは言えないが、裏を返せば、まだまだ成長の余地を残しているということでもある。
特にまだ今年20歳の高井は、同じ20歳にしてA代表の主力にのし上がった冨安のように、早くチャンスを与えれば、一気に大化けする可能性も秘めているのではないだろうか。
今大会では、小久保玲央ブライアン、細谷真大、藤田譲瑠チマらが、"見た目にもわかりやすい活躍"で評価を高めた。彼らが今後A代表入りを期待される選手であることは疑いようがない。
しかし、細谷と藤田に関して言えば、彼らはA代表に選出されたことのある選手であり、小久保はA代表経験こそないものの、すでにヨーロッパでプレーする選手である。
本当の意味での新戦力候補を挙げるのであれば、強く推したいのはグループリーグ無失点でベスト8進出に大きく貢献したCBコンビである。
もしもパリ五輪でOAを活用していれば、木村や高井が活躍する機会を奪うことになっていたかもしれない。さらに言えば、パリ世代はCBの人材が乏しかった世代として、それこそ不当な低評価とともに記憶されることになっていたかもしれない。
しかしながら、幸か不幸か、チームにOAの選手が加わることはなく、23歳以下の選手だけでパリ五輪に臨むことになった。
これが後々、どんな結果につながるかはわからない。
準々決勝でスペインに0−3で敗れ、目標としていたメダル獲得はならなかったが、彼らにとっての"本当の結果"が出るのは、まだ先の話である。
若きCBコンビが、パリ五輪で得た手応えとともに、A代表入りを実現してくれることを楽しみにしたい。