旗手怜央の欧州フットボール日記 第27回 連載一覧>>
2024−25シーズンがスタート。旗手怜央に昨シーズンの振り返りと新シーズンの目標を聞いた。ケガの多かった昨季は、自分のなかで気づくことが多かったという。
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【なるべくボールを蹴らない】
シーズンオフは、かつてのチームメートや日本代表で切磋琢磨する仲間たちに会い、貴重な時間を過ごした。それぞれ異なる土地や場所で頑張る戦友たちの言葉は、その一つひとつに学びがあり、刺激があった。
帰国中には、来る新シーズンに向けて、しっかりと自主トレも行なった。実はプロになってから、シーズンオフはなるべくボールを蹴らないトレーニングを実施している。
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というのも、一年のうち単純計算でシーズン期間は10カ月あるとする。残りは2カ月――そのうち、キャンプなどの準備に1カ月を費やすと考えると、残る時間は1カ月になる。要するに、一年のうち11カ月もの間、サッカーボールを蹴っているのだから、たとえ1カ月間ボールを蹴らなくても、それほどボールフィーリングが鈍ることはないだろう。
むしろ、シーズン中は嫌でもボールを蹴るため、身体や走りをメインにしたトレーニングは、この期間にしか突き詰めることはできない。そのため、シーズンオフの自主トレでは、なるべくボールを使わずに、自分自身の身体に目を向けるようにしている。
同時に、この期間は昨季の自分をしっかりと見つめ直し、新シーズンへ向けた整理と、英気を養う時間にしている。
【ケガとの付き合い方で気づいたこと】
思い起こすと、昨季の自分はたびたびケガに苛まれ、思うようなプレーができなかった。
サッカー選手である以上、ケガは表裏一体で、言わばつきものでもある。特に昨季は、個人的にさまざまなことにトライしていた一年でもあっただけに、自分のなかで見えてくること、気づくことも多かった。
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ひとつは、サッカー選手にとって、つきものと表現したケガとの付き合い方だ。
これまでケガを繰り返す機会はなかっただけに、復帰しては負傷し、復帰しては再び負傷するという負のサイクルを経験したのは初めてだった。
ケガをした直後は、患部の回復を優先して、リハビリすらできない期間もある。そうした時には、時間を持て余すだけに、ひとりで物思いに耽ったり、ネガティブな思考に陥りがちだったりする。
実際、僕もケガを繰り返した過程では、それなりに気持ちの浮き沈みがあった。そうした時、自分はその感情に素直に従うことで、自分の心と向き合った。
気持ちが沈んでいるからといって、無理に気持ちを上げようとか、高めようとは思わず、落ち込んでいるのであれば、落ち込んでいる自分の気持ちを受け入れる。自分の気持ちに素直になることで、自分を客観視し、心境を整理する時間にもなった。その結果、自分を奮い立たせるに契機にもなっていたように思う。
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また、ケガをした直後は、未来が描きにくくなるからこそ、僕は具体的な目標設定をするように努めていた。たとえば、2度目に負傷した10月ならば、1月に行なわれるAFCアジアカップのメンバーに入るのを目標にしてみたり、3度目に負傷した冬であれば、シーズン終盤のタイトル争いで活躍することを目標にした。そして、その目標に近づき、クリアしていくことで、自信を取り戻していった。
その経験を踏まえ、何かに躓いたり、何かに悩んだりした時には、一度ありのままの感情を受け入れてみるのも手段や方法のひとつではないかと思う。自分の気持ちに蓋をして、無理に前向きになろうと抗うよりも、落ち込む時は落ち込むことで、逆に前向きな部分や改善点、はたまたきっかけを見つけられるからだ。また、日々を前向きに過ごすためにも、明確な目標を掲げて、そこに向かっていくのもプラスに作用するように思う。
【学びや発見が多かった昨シーズン】
前述したとおり、昨季はケガを繰り返したこともあり、リーグ戦16試合に出場して3得点という結果に終わった。リーグとカップ戦の2冠に貢献できたとはいえ、個人的にこだわっていた結果=数字を残すことはできなかった。
ただし、シーズン終盤にピッチへ戻ってきてからは、自分がインサイドハーフでプレーすることでチームに流動性を生み出し、チャンスの量や数を増やせたのではないか。数字には残らなかったが、そうしたチームへの貢献が、結果的に逆転でのリーグ優勝にもつながったと思っている。
また、昨季のセルティックはアンジェ・ポステコグルー監督からブレンダン・ロジャーズ監督に代わって、初めて迎えたシーズンでもあった。目指すサッカーや戦術も変化したなかで、起用してもらえたことは選手としての自信になった。
特に、ロジャーズ監督になって変わったのは守備だった。プレスの掛け方や相手の追い込み方には、これまでとは違いがあり、個人的に学びや発見も多かった。また、インサイドハーフは攻守における走力も求められたため、運動量や動く範囲も意識するようになった。
また、ロジャーズ監督からはボールを大事するようにと言われていた。以前は、大袈裟に言えば、五分五分の確率のパスやイチかバチかのパスでも、決定機につながる可能性があるならば強気な選択をすることもあった。しかし、昨季はより確実に、より正確なプレーを心がけるようになった。自分が出した先の相手が危険な状況に陥りそうな時には、無理をしてそこを狙うのではなく、確実にキープできる味方を探すように意識した。
そうやって監督のニーズに応えて、プレーを変えていく作業や行為は、自分の選択肢を増やし、可能性を広げてくれたとも思っている。そこに取り組んだ結果が、ケガを繰り返しながらも、戦列に復帰した際には必ず試合に起用してくれる信頼へとつながり、ピッチで存在価値を証明する結果にもつながった。
【新シーズンは決定的な仕事ができる選手に】
2024−25シーズン。自分自身がさらに突き抜けるために向上させなければならないところはたくさんあるが、なかでも目に見える結果であり、数字にはこれまで以上にこだわっていかなければいけない。
いわゆる「8番」や「10番」といったポジションでプレーしていくには、誰が見てもわかるようなゴールやアシストが増えてくると、選手としての価値や怖さも増していくと思うからだ。
たとえば、目標とするマンチェスター・シティのケヴィン・デ・ブライネやバルセロナのイルカイ・ギュンドアンは、ひとりでプレーを完結できる力も備えている。最後のところでゴールを決めきる力――自分もゲームを作るだけでなく、そうした決定的な仕事ができる選手になりたい。
試合に関わり続けながらも、フィニッシュに顔を出せる選手。その理想を追い求めて、欧州で迎える4シーズン目もチャレンジしていきたいと思う。