「これは江戸時代のアイヌの話ではなく、今に通じる話だということです」寛一郎、緒形直人『シサム』【インタビュー】

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2024年09月12日 16:00  エンタメOVO

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(左から)緒形直人(ヘアメーク:野中真紀子(eclat)/スタイリスト:大石裕介)、寛一郎 (ヘアメーク:KENSHIN/スタイリスト:坂上真一(白山事務所))(C)エンタメOVO

 北海道の大自然を背景にアイヌと和人との歴史を描いた『シサム』が9月13日から全国公開される。本作で、蝦夷地に交易の旅に出た先でアイヌの人々に命を救われる松前藩士・高坂孝二郎を演じた寛一郎と、孝⼆郎の先輩の松前藩⼠・大川を演じた緒形直人に話を聞いた。




−最初に、この映画の脚本を読んだ印象から聞かせてください。

寛一郎 時代劇ではありますが、キャラクター個々の精神性は割と今と近い気がしました。ということは、ただ過去の話をということではなく、今とつながる、リンクする部分がたくさんあって、さらにアイヌの文化を一つ一つ丁寧に描いていて、それがいいバランスになっていたので、エンターテインメントとして成り立つんじゃないかと思いました。

緒形 僕は割と北海道とは縁があるのですが、北海道の歴史とか、アイヌ民族についてはほとんど知りませんでした。アイヌについてはあまり話してはいけない、あちらの人も話したがらないみたいな雰囲気がありました。そういう歴史がある中で、この映画を通して、「こういうことがあったんだ。だからアイヌについては話してはいけなかったんだ」ということを、ようやくきちんと皆さんにお伝えできると思いました。「シサム」というのは「隣人」という意味なんですけど、今は隣人や隣国のことを改めて考えた方がいい時代じゃないですか。だから、そういうことも含めて、今やるべき映画だと思いました。

−寛一郎さんは『プロミスト・ランド』に続いての自然相手のハードな映画でしたが、撮影は大変でしたか。

寛一郎 『プロミスト・ランド』は雪山だったので…。今回は去年の7月に撮影したんですけど、本当に気候が良くて。白糠町は冷房がないんです。もうそれぐらい涼しくて湿度も素晴らしい。だから、すごくロケしやすい環境でした。もちろん自然の中で熊やいろんな虫という天敵はいたんですが、それほど過酷な設定ではなかったです。

−演じた高坂孝二郎というキャラクターについてはどう思いましたか。

寛一郎 これは時代劇ですけど、観点や描かれている役柄がちょっと現代的なんです。孝二郎はストーリーテラーであり、見ている人たちは彼を通してアイヌを知っていきます。僕も時代劇を何回かやらせていただいた中で、もちろんその時代のことを描くのだけど、時代へのリスペクトも込めつつ、そのままでは終わらせないという思いで演じました。また、孝二郎の兄に対するコンプレックスであったり、人と触れ合うことで変わっていくというのは、僕も大なり小なり経験してきましたし、そういった意味では非常に共感性の高いキャラクターなのかなと思います。

−緒形さんが演じた大川は孝二郎の師範ですが、後に相反する立場になりますね。

緒形 まだ半人前の孝二郎に対して、大川はある種父親のような存在で、これは孝二郎の成長物語だと思うんです。半人前だった彼が、たくさんのことを経験していく中で、自分の答えを見つけていくわけですよね。大川はどちらかというと、現場の声も分かるけど藩への忠誠心が大きい人なので、孝二郎の側にはなれない。しかし孝二郎の本質というか、彼の目を見て、彼の経験したことを、彼の言いたいことを理解した上で、彼の方につくという意味合いだと思いました。おまえの言っていることは分かったぞみたいな。彼を信じているというのが一番近いかなと思います。

−孝二郎はアイヌに助けられて、彼らの精神性や文化に共鳴していくわけですけど、例えば、インディアンと白人との関係性を描いた『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(90)と重なるところがあると思いました。

緒形 もちろん歴史的に見ても、アイヌと和人だけではなく、大きな国が小さな国の領土を取り、言語を奪うというのはいろんな国がやっていることです。それが今なお続いている中で、これはもちろんアイヌを描いた映画ではあるけれどもそれだけではない。今とつながる、今の僕らが考えなければいけないことを描いた映画だと思います。

−2世俳優の先輩である緒形さんから見た寛一郎さんの印象は。

緒形 まあ彼は3代目ですけど、とても芝居に対して真摯(しんし)だし、目線がいいし、彼独特の雰囲気というか、オーラがあります。もともと生まれ持った華が備わっているので、この先楽しみだなと思います。華が備わっている人と備わっていない人がいる中で、彼は大きく備わっていると思います。

寛一郎 もちろん緒形拳さんのことは知っていますし、緒形(直人)さんとは、おやじ(佐藤浩市)のことも(祖父の)三國(連太郎)さんのことも話しましたし、ついこの間、息子さんの緒形敦さんともご一緒しました。何かもう一つの文化というか、伝統芸能ではないところでみんなが能動的に役者をやっているのは不思議な感覚になりますね。

−最後の森の中での戦いで矢が飛び交うところが印象的でしたが、あれはどうやって撮影したのでしょうか。

寛一郎 あの矢は全部CGです。矢が飛び交っているふりをしている(笑)。でもそれは撮影のリアルですから。想像してやるのが僕らの仕事でもありますから。

緒形 あそこはエンターテインメントを盛り込んだというか、監督が「あそこぐらいはちょっと派手にやりたいな」と。そこは映画としてよかったんじゃないかと思います。

−今回アイヌに触れてみて改めて感じたことを。

緒形 一番大きいのは、彼らの思想的、宗教的なところです。自然と人との共存の仕方、人の受け入れ方というのは、僕らが学ばなければいけないと思いました。彼らは争うことは極力しなかったし、多様な文化を持ち、自分たちの必要なものしか取らないし、搾取もしない。みんながそうであれば、もしかしたら幸せになれるかもしれない、そういう彼らの精神性みたいなものを僕らは知った方がいいと思いました。厳しく豊かな自然の大地の中で、彼らはそういう生き方を見つけ出して、周りにあるもの全てを神とあがめたり、自然に対する畏敬や畏怖みたいなものも彼らには備わっていて、誇らしい人たちだなと思います。彼らの生き方や、日本の先住民である北海道にいたアイヌの人たちがこういう暮らしをしていたということも、今多くの日本人が知るべきではないかと思います。

−この映画の意義は。

寛一郎 文化を未来に残していくという意義があると思います。アイヌという文化がだんだんと消えつつあり、アイヌという存在自体を知らない人たちもいる中で、この映画を入り口として、アイヌのことを知ってもらうきっかけになれればいいと思います。今もまだこういった問題は世界中で起きています。未来に対して解決の方法を模索していかなければならない。そのための何かを知るきっかけになる映画になってくれればいいと思います。

−最後に観客に向けて一言お願いします。

緒形 見ていただいてどんなことを感じていただくかというのは、こちらも楽しみにしているところです。日本にこういう先住民族がいたんだというところと、この人たちの思想や行動をどのように受け取るか。それは人それぞれです。でも、アイヌ文化がきっちりと根付いていたというところも見てほしいし、映画全体を見て、それぞれの意見で、きちんと判断してほしいと思っています。

寛一郎 こういう人たちがこの地にいたということを知るきっかけになる映画であってほしいということと、これは江戸時代のアイヌの話ではなく、今に通じる話だと思っています。

(取材・文・写真/田中雄二)


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