最近、やたらと警察の不祥事が目立つ。中でも鹿児島県警のそれは組織的な隠蔽も相まって、たびたびニュースになっている。今回、その闇の中身を探るため鹿児島で現地取材を敢行。さらには警察のやらかしが続いている理由についても識者に聞いてみた!
■署員の異様な対応「闇をあばいてください」
そんな一文で始まる内部告発文書が、鹿児島県警を大きく揺るがした。
その闇を見るべく、本誌記者が最初に訪れたのは鹿児島中央署だった。2021年9月、鹿児島県医師会が運営していた新型コロナウイルス感染者用の宿泊療養施設で、同医師会の男性職員が女性看護師を自室に連れ込み、複数回にわたって同意なく性交に及んだとされる事件。その捜査を担当したのが中央署だった。
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被害女性が同署に被害を訴え出たのは事件発生から約3ヵ月後の22年1月。対応したのは強行犯係の女性署員で、聴き取り調査は4時間にも及んだという。だが、この事件を取材し続けているインターネットメディア『ハンター』代表の中願寺純則(ちゅうがんじ・すみのり/福岡県在住)氏がこう話す。
「被害女性には弁護士も同行していましたが、なぜか弁護士の同席は認められず、女性署員は事あるごとに部屋を出て上司の判断を仰ぎに行っては『防犯カメラの映像などの証拠がない』『訴えると精神的にも労力的にも大変、あなたが望む結果にならない』などと、終始一貫して告訴を思いとどまらせる言動を繰り返し、結局、この日は受理しなかった。
その際、女性署員はいったん告訴状のコピーを受け取ったものの、帰り際に駐車場まで上司と一緒に追いかけてきて、『コピーを返し忘れました』と言って被害女性に突き返すことまでしています」
その後、被害女性の弁護士が同署に強く申し入れしたことで告訴状は受理され、23年6月、男性職員は書類送検された。しかし、この男性は嫌疑不十分で不起訴処分となっている。
「事件発生から約3ヵ月後、男性職員は被害女性に謝罪文を送っています。そこには直筆で『理性を抑えることができず、衝動的な行動に至ってしまいました』と犯行を認める一文もありました。
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ただ、この謝罪文が証拠品として機能したかどうかはわかりません。県警は事件送致の際に謝罪文を添付していない可能性すらある。事件化させたくない、不起訴に持っていきたいという県警の意向が働いていたのではないか」
実は、強制性交の容疑がかけられていた男性職員の父親は、捜査を担当した中央署に在籍する警部補だった。
「警部補は、署内でも捜査上の強い権限がある。その父親が、事件の初動にブレーキをかけ、息子のために事件の隠蔽を図った可能性があります」
■ふたつのストーカー事件
続いて向かったのは、鹿児島市から程近い霧島市。この街ではストーカー容疑のかかる2件の事案が発生した。
そのひとつが、霧島神宮の参道脇にある駐在所の30代署員(巡査長)が近隣に暮らす20代女性に対し、駐在所備えつけの巡回連絡簿を悪用する形で携帯番号を入手し、メールやLINEで執拗にメッセージを送信していた案件だ。
その動機について、この署員は「好みのタイプだったので、親しくなるうちに男女の関係に発展すればいいなという思いがあった」と取り調べで述べている。彼は妻子と駐在所に暮らす身であった。
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会食に誘う程度だった被害女性に対するメッセージは次第に卑猥な内容へとエスカレート。ラブホテルや混浴温泉に誘ったりと、「抱いていい?」とダイレクトに性的要求をしたりするようになった。耐え切れなくなった女性は交際相手の男性に相談、この男性が警察に申し出たことで事件は発覚した。
だが、霧島署の担当課署員との話し合いの結果、被害女性は訴えを取り下げた。
「巡回連絡簿を使った極めて悪質なつきまとい行為ですが、おそらく、(前出の)鹿児島中央署のケースと同じく訴えを受理してもらえず、その女性は泣き寝入りせざるをえなかった、ということだと思います」(鹿児島県議会議員)
真意を聞こうと記者は被害者宅を訪れたが、ポストには郵便物があふれ、そこに暮らしている気配はなかった。
霧島署員によるもう一件のストーカー事案は同市内のクリーニング店で起きている。
「23年2月中旬の夜、同店に勤める20代女性店員は仕事を終え、店脇の駐車場に止めていた車に乗ると、後方から接近する不審な車両に気がつき、その車内から嫌な視線を感じたそうです。恐怖を感じた彼女は、その日は自宅には戻らず、遠方の実家に避難しました」(地元紙記者)
翌日、彼女が店に出勤すると、見知らぬ中年の男性が現れ、汚れた衣類を出すわけでもなく、「霧島警察署 巡査部長」と印字され、その裏に携帯電話番号が手書きされた名刺を差し出してきたという。
「その際、この巡査部長は『どこの出身?』『休日は何してるの?』『彼氏はいるの?』と女性店員にしつこく絡んだ挙句、『これを受け取るまで帰らない』と名刺を押しつけてきたそうです。女性はしぶしぶ受け取らざるをえませんでした」
その翌日、女性は霧島署を訪れ事情を報告。このとき対応したのは署の警務課長で、「調査し、すぐ回答する」と彼女に告げている。だが、言葉とは裏腹に対応は遅かった。
霧島署へ相談に訪れた3日後、女性はクリーニング店に出勤していなかったが、この日も店の周りを車でうろつく巡査部長の姿が目撃されている。当時の心情について、この女性はこう明かしている。
「(巡査部長には)住所も知られている。考えると怖くてたまらなかった。署から音沙汰はなく、連日の出来事に仕事が手につかなくなった」(西日本新聞8月23日付の記事)
彼女が助けを求めたのは、店の常連客でもあった、霧島署とは別の署に勤務するベテラン警官S氏。S氏は霧島署や県警本部に捜査を促すなどサポートしたが、署の対応に不可解な点を感じていた。
通常、警察署に市民からの相談や被害の申告があると、署内の情報共有のために「苦情・相談等事案処理票(処理票)」を作成しシステムに登録するが、この女性の一件についてはそのデータがなかった。S氏がこう明かす。
「最初に女性が霧島署へ相談に訪れたときに応対した警務課長が、その日のうちに処理票を作成し、システムに登録したことは間違いありません。同署で処理票の決裁を担当する署員が、そのデータを確認し、同僚の氏名がそこにあったので『ビックリした』と本人が証言しています。
ただ、もう夜遅い時間だったので、その日は作業をせずに帰宅したそう。翌朝、その署員が決裁をしようとパソコンを開いたら、当該データは『消えていた』とのことです」
どういうことか?
「警務課長が作成・登録した処理票を削除する、という決断を下せる人物は署内では署長か副署長しかいません。処理票の決裁担当署員の話では、女性が署を訪れた後、署長と副署長と警務課長の3名が署長室にこもり、何やら話し込んでいた姿を目撃しています。データが消えたのはその後です。
さらに、霧島署は女性の勤務先周辺で巡査部長の車が映った防犯カメラの映像を入手していましたが、このデータも保存せずに消去されていたことがわかっています。ここからは推測ですが、身内の署員の被疑事案だから、もみ消そうとしたのではないでしょうか」(S氏)
ストーカーの容疑がかけられた霧島署員ふたりは罪に問われることなく、今も現職警官のままだ。一方、被害女性は心に傷を負った。前出の警官S氏はこう話す。
「パトカーを見ると、思わず身構えると本人(被害女性)から聞きました。自分が警察に訴え出たから、あの巡査部長が仕返しに来たんじゃないかと思ってしまうそうです」
■違法な情報漏洩か? 正当な内部告発か?
霧島署員によるストーカー事案が表沙汰になったのは、警察発表によるものではなく、フリーのジャーナリストにもたらされた内部告発がきっかけだった。冒頭に記した、「闇をあばいてください」の一文で始まる文書がそれだ。
送り主は、鹿児島県警の前・生活安全部長で、元警視正の本田尚志氏。告発文書には前述のストーカー事案のほか、同県枕崎市を所轄する枕崎署員の犯行が疑われる盗撮容疑事件の詳細と、それを県警本部が隠蔽しようとしていた内容が克明に記されていた。
枕崎署の巡査部長だった30代の男は、19年9月以降、何度も女子トイレに侵入し、複数の女性に80回以上の盗撮を繰り返した。事件が発覚したのは昨年12月。
枕崎市内の公園の公衆トイレを利用していた30代女性が個室扉の上部から差し向けられたスマホを発見、声を上げながら扉を開けたところ、白い車に乗って逃亡する男の姿を目撃した。
被害報告を受けた同署がトイレ付近の防犯カメラ映像を精査した結果、犯行時刻にその車両を使用していた捜査員が特定された。事件は速やかに解決すると思われたが、その後、なぜか捜査は終結する。
その理由について、本田氏が「本部長の隠蔽指示があった」と告発したのだ。内部告発文書には、署員による盗撮容疑事案の報告を受けた本部長が、「静観しろ」と指揮していたことが記されている。
この告発文書が郵送された2ヵ月後の5月31日、本田氏は警察の内部文書を外部に漏洩した罪(守秘義務違反容疑)で逮捕された。その後の公判手続きの中で、本田氏は「野川明輝本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかった」と主張している。果たして、この逮捕は正当なのか? ジャーナリストの青木理氏はこう見る。
「見極めなければならないのは、この問題が県警の言う"情報漏洩"なのか、組織の不正を内部の職員が告発した"公益通報"なのか?という点です。告発文書には目を通しましたが、これはどう見ても公益通報としか思えない。
県警は、告発文書の中にストーカー事案の被害者の氏名が記されていた一点をとらえ、情報漏洩と認定しましたが、逆を言えば、この文書の公益性を否定する要素はそこだけにしかなかったということ。その一点突破で逮捕に踏み切った県警と本部長の権力行使に暴走はなかったか、しっかりと検証しなければなりません」
■不祥事対応の部署、そのトップの醜態
「不祥事や警察内部の不正隠蔽の話題に事欠かないのは北海道警も同じです」
そう嘆息するのは札幌市在住のフリージャーナリスト、小笠原淳氏だ。
「今年4月、旭川市内の石狩川に架かるつり橋から女子高校生が落とされ死亡する殺人事件が発生し、無職の20代女性と知人の19歳女性が逮捕されましたが、実はこの事件を捜査していた旭川中央署の刑事と、容疑者の20代女性が不倫関係にあった疑惑が週刊誌で報道されました。
今年1月にスナックで開かれた旭川中央署の新年会にも同容疑者は参加していたことも明らかになっています」
また、小笠原氏によると、21年6月頃、道警本部所属の20代の巡査長が、同居する小学1年の女児(養女)に陰茎を舐めさせるなどのわいせつ行為を強要していた事案について、こちらも当初は公表されなかった。
さらには、道警がこの巡査長の処分を「停職6ヵ月」で済ませていた事実も未発表となっていた。その後、地元紙が報じたことで同事件は明らかとなり、昨年12月にようやく起訴されることになったが、「地元紙の報道がなければ、"なかったこと"にされていた可能性が高い」と小笠原氏は眉をひそめる。
大阪では今年2月、大阪府警の20代の男性巡査が女性向けのデリバリーヘルス店で副業として働き、8ヵ月間で約240万円の報酬を得ていたという事件もあった。
こうしてみると、全国各地の警察署で不祥事が起きているように感じる。
「警察の不祥事は未発表事案も含めて増加傾向にあるのは確かです。その理由について、明確な回答を持ち合わせているわけではありません。
今年4月中旬には、道警の警視がこんな失態をさらしました。その夜、泥酔し酩酊状態にあった警視は、閉館間際の市民温水プールの裏口をガンガンと叩きながら『扉を開けろ! プールに入れろ!』と大声を張り上げたそうです。
その男がズボンをはいてなかったことを不審に思った施設職員が周辺の道路を見回ると、靴、ネクタイ、ズボンが道端に脱ぎ捨ててあった。
この泥酔警視は、道警・北見方面本部の監察官室長でした。監察官室といえば職員の不祥事に対応する部署で、そのトップがこの失態ですから、現場署員の気が緩むのも当然なのかもしれません」(小笠原氏)
市民を見張る警察を、誰が見張るのだろうか?
取材・文・撮影/興山英雄